【要請レポート】

K市事件と児童虐待施策の現状と課題
─ 子どもの生命と人権を守るために ─

大阪府本部/自治労大阪府職員関係労働組合・健康福祉支部

1. K市事件はなぜ防げなかったのか

(1) 本件の概要(報道による)
   学校教諭から、別の児童の相談の際に、虐待の疑いのある児童についての情報の提供があった。聴取した担当者は虐待を担当する課の職員ではなかった。学校教諭は虐待の通告とは認識していなかった。その別件で担当者と保護者との接触は続き、本件児童のことも聞いているが、保護者の「元気である」との話をそのまま聞いていた。保護者が容態の悪化した本件児童を病院に連れて行くまで、児童相談所、学校とも、虐待としての対応ができず、児童にとって重大な事態にいたっている。

(2) 児童相談所の対応の問題
  @ 提供された情報を虐待の通告として認識できなかったこと
    本事件を再検証する中で、虐待の情報の提供については、本来情報提供者の通告の意図に関らず通告として対応することが重要であると再認識している。
  A 提供された情報が速やかに所内で共有されていない
    情報のチェックが組織、機関としては不十分で、重大情報が見落とされてしまった。
  B 所内の虐待対応体制が機能していない
    虐待対応課という専任部署を設置しているが、本件では情報が届いておらず、機能していない。
  C 学校との連携の不足
    学校が把握していた児童・保護者の状況が児童相談所に十分に伝わっておらず、また連携した対応もほとんどとれていない。
   ※ 本件についての学校対応については、教育委員会・学校等で検証が行われている
  D 地域ネットワークが機能していない
    本件の児童・保護者を支援する個別のネットワークが組織されておらず、地域の情報も児童相談所に繋がっていない。

(3) 原 因
  @ 組織のあり方
    児童相談所全体が虐待に対応できる体制となっていなかった。虐待対応課を設置し、虐待と認識したケースへの対応については、以前と比較して向上している。しかし実際には本件のように、虐待以外の相談の中で虐待の情報提供がある場合や、虐待以外の相談の背後に虐待が隠れている場合が増加しており、全職員が適切に察知して必要な対応を取ることができる体制とはなっていなかった。
   ア 担当者が把握した情報の中で緊急性が高いものや危険度の高いものは、担当者のみで判断するのではなく、児童相談所が組織として判断する体制が不可欠である。
   イ 担当者(児童福祉司)の養成、研修の充実等により、職員個々の危機対応の確実性を向上させる必要がある。
  A 職員数の不足
    現状では児童福祉司は多数の在宅、施設入所ケースを担当し、日々の業務をこなすことで精一杯の状態が続いている。研修を受ける時間も十分ではなく、所内でじっくり処遇検討する時間もない。また、新任職員に対するSV機能、地域連携、ネットワーク支援の時間も十分には取れない状況がある。
  B 地域ネットワーク・関係機関連携の不十分さ
    K市でも虐待の地域ネットワークは児童相談所の主催により組織されているが、関係機関による情報交換、研修が主であり、個別ケースに即応するネットワークにはなっていなかった。またネットワークの一環としての関係機関の連携強化も不十分であった。

(4) 検 証
  @ 大阪府で起こった意味
    大阪府の児童相談所(子ども家庭センター)では、虐待対応について以前から強化を図ってきた。平成2年に独自のマニュアルを作成、平成12年には虐待専任職員の配置、平成13年に虐待対応課の設置を行ってきた。また児童相談所全体として交付税の配置基準を上回る職員(児童福祉司)を配置してきた。また職員については長年にわたって専門職採用を継続してきている。各市町村の虐待のネットワークの組織率は全国平均が30%台のところが100%になっている。しかし実際には事故は本件のみならず発生しており、現実に組織が確実には対応しえていないことを露呈している。拡大、深刻化する現状へ対応する体制を確立することが急務である。
  A 虐待対応におけるトータルな支援
    本件においては虐待の初期対応の問題がクローズアップされている。子どもの生命・安全の確保のみに関心が集中している感がある。しかし虐待の対応は初期対応から、施設入所、在宅指導等を通して家族の再統合に至るトータルな支援が不可欠である。そのための根本的な組織の見直し、連携強化が必要である。
    本件に関する一部報道では安全確保のみを優先する論議や虐待をする親=悪との理解、また大臣が「虐待をする親は嘘をつく」等の発言も見られた。

(5) 追 記
   本件以降大阪府では虐待通告が急増し、その状況が平成16年度も続いている。これは大阪府のみでなく、全国的にも同様である。事件報道の結果として、通告の徹底が進んでいることは望ましい。ただ一部の関係機関では通告しないことによる報道の非難を恐れるあまり、「保険」として通告しておくという風潮も生まれている。
   通告の急増に対して、児童相談所は十分な組織強化は図られておらず、職員は疲弊し、同様の事故の発生が危惧される。
   また本年10月1日に改正施行される児童虐待の防止等に関する法律、また改正が予定されている児童福祉法によると、児童相談の第一線機関として市町村が位置付けられており、従来にも増して格段に市町村の役割が重要となる。しかしその相談体制、職員の配置は市町村間の格差も大きく、未整備の市町村も多い。早急な整備が緊急の課題となっている。

2. K市事件以降の大阪府の取り組み

 K市事件以降、大阪府は、弁護士、有識者等による「児童虐待問題緊急対策検討チーム」を2月に発足させ6回の会議開催を経て、3月26日に「緊急提言」を取りまとめた。
 その結果を受けて、5月には、「子ども虐待対応の手引き」の追補版改訂を行うとともに、6月には、「児童虐待における学校園と子ども家庭センターの連携について」を作成し、子ども家庭センターにおける業務と関係機関との連携業務の見直し、強化を図った。
 また、現在、土曜・日曜日、祝日の相談体制の強化等、今後の児童虐待に対する事業の強化策について検討を進めている。

3. 健康福祉支部の取り組み

 私たち自治労大阪府職員労働組合健康福祉支部も、虐待問題対策会議等を開催し、支部内での論議を強めるとともに、2月20日には、健康福祉部長あてに「K市における児童虐待等への対応と今後の対応に関する申し入れ」を提出し、当面の必要な対策と抜本的な対応策と体制の確立を求めてきた。
 併せて、既に「24時間子ども虐待ホットライン」を実施している横浜市を訪問し、大阪府における24時間相談体制の確立に向けた検討も行っている。
 大阪府という都市部でかつ児童数も多い地域では、他府県、政令市に比して相談件数も多く、夜間、土曜・日曜日、祝日の相談やそのうち緊急に対応するケースも多く発生することが予想される。
 日夜、困難なケースに対応するため厳しい緊張感の中で、恒常的な超過勤務と休日出勤を強いられ限界状況に来ているとさえ思われる職員の現状からは、極めて困難な課題ではあるが、子どもの生命と人権を守るため、虐待が多く発生するであろう夜間、休日を含めた24時間の抜本的な相談体制の検討と確立が求められており、支部としてこの課題の解決のため取り組みを強める。

4. 今後の課題

 @ 人の努力、頑張りに依らず、組織的に対応する業務処理方法と体制の確立。
 A 恒常的超過勤務、休日出勤を解消し、人員増等による抜本的な体制の確立。
 B 関係機関、府民等による地域での虐待対応ネットワークの充実、強化。
 C 満杯状況となっている一時保護所、児童養護施設等の問題の解消。
 D 大阪府における24時間児童虐待相談体制の検討、実施。

K市における児童虐待等への対応と今後の対応に関する申し入れ(大阪府健康福祉部長あて)

児童虐待問題緊急対策検討チームからの緊急提言

児童虐待問題緊急対策検討チームからの緊急提言その2

「子ども虐待対応の手引き」の追補版改訂概要版(抜粋)

児童虐待における学校園と子ども家庭センターの連携について(抜粋)