【自主レポート】

放射性廃棄物のスソ切り処分問題

大阪府本部/自治労大阪府職員関係労働組合

 廃炉時代を迎えた原子力発電。運転終了後の原発は解体撤去する方針になっている。その際、多量に発生する廃棄物の全てを放射性廃棄物として扱っては、経費が高くつくと考えた原子力推進派は、一定レベル以下のものを放射性廃棄物ではなく一般の廃棄物として扱う法改悪を来年の通常国会に提出するべく準備をしている。スソ切り処分の制度化は、原発解体廃棄物だけでなく核燃料サイクル施設や放射性同位元素使用施設からの廃棄物なども対象に考えられており、市町村の清掃現場・廃棄物処理の現場に大きな影響を与えかねない。放射能の拡散を招くおそれのある法改悪を許さないために、問題点の整理を行うとともに、自治労府職の取り組みも紹介し、この問題への注目を訴えたい。

1. 安上がり処分を狙う放射能のスソ切り制度化

 1998年に商業用原発で最初に営業運転を終えた東海原発は2001年12月から周辺設備を中心にした解体工事が進められている。熱交換器などの解体を行う第2期工事を2006年から、原子炉本体の解体撤去を行う第3期工事を2011年から行う計画である。東海原発の解体工事では、18万トン近くの廃棄物が発生すると見込まれているが、第2期工事からは放射能で汚染された廃棄物が多量に発生することになる。放射性廃棄物のスソ切り処分が制度化されれば、発生する廃棄物のうち放射性廃棄物として扱われる予定のものはわずか10%に抑えられる。残りの廃棄物は産業廃棄物になったり、リサイクルにまわされ、スクラップ金属が知らない間に再利用されて日常生活の場に出まわることも想定されている。原子力安全委員会の検討では、原発廃材の金属が再利用されるケースとして、フライパン、鍋、スプーン、ナイフ、飲料缶に再利用されると想定されている。また、コンクリート廃材についても、リサイクルや産業廃棄物としての処分が想定されている。
 関電などが現在使用している標準的な原発は東海原発と形式や規模が違うため、解体すれば廃棄物の量も50万トンから55万トンにのぼると予想されているが、スソ切り処分により放射性廃棄物として扱うものはわずか2〜3%に抑えられる予定である。
 スソ切りの制度化については、経済産業大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会で検討が進められた。同会の原子力安全・保安部会廃棄物安全小委員会が検討の場で、本稿執筆時点では報告書案に対するパブリックコメントが終了している。(意見募集期間6月9日から7月8日)夏の間にも出される報告書を受けて、制度化設計・法案作成が行われ、来年の国会に原子炉等規制法改「正」案を提案する予定である。

2. 信頼できない基準値案

 これ以下のものは放射性廃棄物としないという基準値は、正式にはクリアランスレベルという。一度、放射能として規制していたものを規制領域から払い出す(規制しない)ことから名づけられた。
 この基準値案、既に1999年に原子力安全委員会によって定められている。原発廃材を再利用したり、廃棄物として埋め立てた場合など、いくつかのシナリオを仮定し、その場合の被曝量が一般人の年間許容量の100分の1になるように計算して基準値案を決めている。例えば、原発廃材の金属が再利用されフライパンになったケースでは、フライパンの金属が腐食して食品に混入し、食べてしまう場合の被曝量を、フライパンの年間使用時間を180時間と仮定し、フライパンの面積や鉄の腐食速度などを使ってもっともらしく計算しているのだ。そのような計算は仮定を変えれば結果はいくらでも変わり、信頼することはできない。
 実際、制度化が検討されている現段階で、早くも見直しが始められている。現在、国際原子力機関(IAEA)が「規制除外、規制免除及びクリアランスの概念と適用」(ドラフト安全指針)について検討を進めていて、これを反映する必要が生じたのだ。原子力安全委員会基準値案が58核種であったのに対し、IAEA新提案値は257核種に及び、しかも希釈効果の考え方の違いなどから総じて厳しい値となっている。ニッケル63、ヨウ素129、ルテニウム106、アンチモン125では、原子力安全委員会基準値案よりも10倍以上厳しい値となっているのだ。考え方の違いにより基準値がいかに変わるかの典型例といえよう。基本的な基準値に国際的な議論がある中で制度化を急ぐべきではない。

3. 基準値を守ることが可能か

 原子力安全委員会は「評価単位重量が数トン以内の対象物の平均放射能濃度がクリアランスレベルを満足していれば、評価単位の中で放射性核種濃度の偏りにより局所的にクリアランスレベルを超える部分が存在しても、平均化の効果により線量目安値に対する被ばく上の影響はないと評価している」としている。このような考え方で行われる測定では、基準が遵守されているかどうか簡単には検証のしようもない。また、原発解体では50万トンを超える廃棄物を、漏れなく測定することも困難であろう。
 また、総合資源エネルギー調査会報告書案では「原子力事業者は、クリアランスレベル以下と判断された対象物については解体工事や施設内の移送による汚染を防止するとともに、施設から搬出されるまでの保管に当たっては施錠などにより隔離し、原子力事業者の承認を受けない者の接触を防止するなど、異物や汚染の混入などがないように適切に保管・管理しなければならない」とされている。しかし、解体工事現場という雑然とした場所で「施錠などによる隔離」が可能なのであろうか。
 さらに、原子力施設だけでなく全国に約6,000事業所もある病院など放射性同位元素の取扱施設も対象となる。これらの事業所で発生した放射性廃棄物は現在アイソトープ協会が回収しているが、発生箇所が多いだけに、十分な管理が行われるかどうか疑問である。スソ切りされたものが市町村収集ごみや業者ゴミとして処理されることも予想される。放射線管理区域から発生したものでもどんどん一般のゴミ扱いが行われ、知らずに紛れ込んだ放射能汚染が広がっていくケースも考えられる。廃棄物処理にあたる労働者や市民が被曝する事故の可能性も考えられ、自治労にとって看過できる問題ではない。
 これらをまったく検討せず、「核燃料サイクル施設等を含めた原子力施設から発生する廃棄物全般を対象とした制度」を作ることなど許されない。

4. 身元不明線源の混入

 これまでは、放射能レベルに関係なく、放射線管理区域で発生するものは全て放射性廃棄物と見なしてきた。スソ切りを実施すれば、この区域による明確な区分がなくなり、身元不明線源(放射線利用に使用されている放射線源が紛失、盗難等により管理の外に放置された状態)の廃棄物・金属スクラップへの混入の危険性が増えることが懸念される。このことについて、総合資源エネルギー調査会報告書案では「このような事態に対しては、国内では文部科学省を中心に関係省庁が連携して対応を図るとともに、国際的にはIAEAにおいて各国における線源の管理を徹底させることを主眼に、放射線源の安全に関する国際取り決めを含む行動計画が実施されている。」とされている。しかし、「行動計画」等が実施されたことによって身元不明線源の事故が減ったのであろうか。実効性のある対策が示されない限り不安は解消されない。
 身元不明線源の事故がかつて台湾で実際に起きている。70世帯240人が住んでいた台北市内のアパート「民生別荘」の部屋の壁から異常な放射線が出ていることが、1992年に発見された。調査の結果、壁のなかの鉄筋がコバルト60という放射能で汚染されていることが判明した。台湾の鉄は金属スクラップから作られるものが大半で、製造過程でスクラップに放射性同位元素コバルト60が混入し、放射性の鉄筋が建設用に出回ってしまったのだ。汚染鉄筋は当然「民生別荘」だけで使われたわけではない。1995年5月までに85棟以上の汚染住宅が見つかり、その中には学校、幼稚園、デパートも含まれていた。
 日本で同種の事故が起きてもおかしくない。2000年4月28日、住友金属工業和歌山製鉄所にフィリピンから運び込まれた金属スクラップ入りのコンテナから放射線が出ているのを、荷受場の放射線検出器が発見した。放射線量が高く線源が不明のため住金和歌山から動かすこともできず、5月24日になってようやくコンテナを開けて調べたところ、放射線源は地層の水分密度を測定する密度計に使われていたセシウム137(230MBq)とアメリシウム241−ベリリウム(1,800MBq)であった。同年5月8日、神戸製鋼加古川製鉄所に運び込まれたスクラップからも放射線が0.2マイクロシーベルト毎時検出された。調べたところ放射能マークを粘着テープで隠した鉛容器が見つかり、容器のなかには医療用のラジウム針4本(296MBq)が入っていた。
 1998年9月に出された日本鉄鋼連盟の「スクラップへの放射性物質混入問題への対応について(案)」と題された文書では、資源エネ庁の委託で(財)エネルギー総合工学研究所が行った原発廃炉スクラップの再利用に関するヒアリングに次のように回答したと記されている。
 「解体スクラップを受入れる場合には、1」国民的合意 2」技術的な安全性確保 3」異常時対処方法の確立 が不可欠の条件であり、現時点ではいずれの条件も満たされていない。鉄鋼業界としては、原子力発電の必要性が高いことや少量とはいえ有用資源のリサイクルの観点から国民合意を前提に協力していきたい。そこで、管理されたスクラップ(クリアランス廃棄物の出し側および受入れ側での別管理)が管理されたプロセス(専用設備)で処理され、管理された製品(限定再利用)として出荷される、という完全クローズドシステムを構築することが現実的と考える。」ところが、この提案は無視され、現在進められている制度化検討では、「限定再利用」ではなく、フライパンに再利用することさえOKとされている。

5. 自治労府職の取り組み

 自治労大阪府職は、総務支部が、1991年の全国自治研に「顕在化した放射能問題」と題したレポートを提出し、問題提起を行った。
 レポートの要旨をまとめると、@淀川の水道原水から放射能が検出されるなど大阪府下にも放射能汚染がある。A公害対策基本法や廃棄物処理法などは「放射能汚染を除く」と定義しており規制権限が自治体にない。B酸化チタンの製造工程からも放射性廃棄物が発生し、大阪産業廃棄物処理公社の堺第7―3区処分場に投棄されていた。C厚生省は通達で、「酸化チタン廃棄物は産業廃棄物として扱う」とし、「放射能汚染を除く」という廃棄物処理法の定義に例外を作った。 Dひとたび例外が作られれば、放射性廃棄物の杜撰な処理に拍車がかかる。というものであった。
 1993年の全国自治研にも「新段階迎えた放射性廃棄物問題」と題したレポートを提出し、その後の問題の深刻化と取り組みの報告を行った。@堺第7−3区処分場に埋め立てされていたチタン廃棄物をフェニックス泉大津沖処分場に埋め立てしたい旨、当局より新たな提案が行われた。提案によれば、堺第7−3区ではシートをかけたトラックで運んで指定した陸地化した場所に埋め立てしていたのに対し、フェニックスでは海面に埋め立て処分する計画であった。A自治労府職は、府本部と連絡を強化しつつ、提案の問題点を指摘して交渉を行った結果、当局は組合の主張を受け入れ、年2回の核種分析など放射能の監視体制を強化した再提案を行い、フェニックスでの処分が1993年に始まった。
 その後泉大津沖での処分は2002年まで続けられたが、その間、自治労府職と府本部への監視データの報告も行われ続けた。現在、チタン廃棄物はフェニックス神戸沖処分場で処分されており、引き続き監視と報告が行われている。チタン廃棄物の放射能について、運動体が継続的に監視している例は全国的にも例がない。報告されたデータの一部をグラフにして示す。

 

 この監視結果については、2002年度自治労大阪府本部自治研集会にレポート報告を行っている。
 結果的に、埋め立て前の値が一番高いという結果になった。これは、海面埋め立て処分場であるフェニックス処分場の放流水が当初は海水のため自然界にあるウランを検出したが、埋め立ての進行とともに徐々に淡水に置き換わり、チタン廃棄物の影響が軽微であったことから徐々に濃度が下がったものと考えられる。

6. 廃棄物処理法上の問題

 廃棄物処理法では、廃棄物の定義を「放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く」としている。感染性や爆発性等の廃棄物については、「特別管理一般廃棄物」「特別管理産業廃棄物」として特別の規制が行われているが、「特別管理廃棄物」に「放射性」の概念はない。スソ切り処分が制度化されれば、受け皿となる廃棄物処理法で、放射能の監視を行うことは不可能であろう。自治労府職のチタン廃棄物をめぐる経験で言えることは、法令にない監視を継続することの難しさである。

 この間、自治労中央本部は、スソ切り処分に反対する取り組みを進めてきた。昨年2月に資源エネルギー庁長官あてに提出した「原子力政策に関する要請書」で反対したのをはじめ、本年3月の廃棄物処理法改正をめぐる環境省交渉でも「環境省としては、放射性廃棄物であると判断される物質については、廃棄物処理法ではなく各種の放射性物質の規制法により対処すべきであるとの考え方であり、今後とも、関係省庁に対して働きかけてまいりたい。」との回答を引き出している。また、総合資源エネルギー調査会廃棄物安全小委員会のパブリックコメントに対しても反対の意見提出を呼びかけた。
 スソ切り処分の制度化を阻止するには、広範な世論形成を行うとともに今後は国会対策も必要になるだろう。スソ切りを容認し推進している連合の政治方針を変えさせる取り組みも継続する必要がある。来年の通常国会へ向けて運動の強化を呼びかけたい。

「スソ切り処分とは」「スソ切り処分される廃棄物の割合」