行政評価と自治労運動の経験
―大阪府の行政評価システムの構築過程に関わって
自治労大阪府職員関係労働組合
システム構築に当たっての私たちの主張
大阪府で行政評価システムの構築が開始されたのは1998年度の後半から(建設事業再評価。98年9月〜)である。自治労大阪府職はほぼ同時期から他自治体、他単組の経験等の予備調査を重ねて、行政評価システムのインパクトの大きさを認識することができた。
98年度後半の建設事業再評価は建築、農林等の比較的少数の職場で実施されたが、99年度は事務事業評価等が開始される予定で、職場で関与する組合員も一気に拡大する。本格実施をひかえた99年3月8日、自治労府職は知事に対し次のような申し入れを行なった。
1.行政評価は通常政策評価と執行評価に区分されるが、深刻な財政危機にある大阪府において急がれるのは政策評価システムである。「限られた資源」の配分についての府民合意を得つつ施策の優先順位を決定できるシステムを目指すこと。
2.先行県の事例では「事務事業評価システム」の名で政策評価と執行評価を混在させており、行政評価システム自体の非効率が問題となっている。評価の目的を軽視した一律の導入は避けること。
3.行政評価の目的、視点について、どのような大阪府、大阪府政を目指すのかの議論を徹底すること。その場合のキーワードとして私たちが現在考えているのは次のようなグループである。 「情報公開、府民参画」「分権、自治体民主主義」「人権、男女協働」「環境、防災」「セイフティーネット機能、世代間公平」
4.大阪府内部だけの評価ではなく、外部評価の仕組みを取り入れること。その場合、施策に関連するNGO、NPOの参加、参画を可能とすること。
5.活動指標、成果指標の名で検討されている数値化指標の設定に当たっては、上記3記載のキーワードグループを参考にするとともに、府民参加の議論が可能となるようすること。
6.他都道府県との状況比較が可能な成果指標を積極的に公表するなどして、行政評価と予算の連結を図ること。また、施策の総合化を図り、予算についての府民理解を進めるため、部局別予算から事業別予算へのシフトを検討すること。
7.大阪府の財政状況を考慮しない建設事業再評価は説得力を持たない。国(建設省、農水省等)の手法に制限されない大阪府独自の再評価を行うべきである。99年度は府の主要プロジェクトを対象に含めること。
8.98年度に作成された再評価調書等は行政の透明性を高める一助に活用できるものであり、すべての建設事業(少なくともすべての再評価対象事業)について調書を作成し、府民に対して積極的に公表すること。
構築過程での取り組み
本格実施から半年後の99年10月、職場での経験を踏まえて、更に次の点を申し入れた。
事務事業評価内容の早期公表
建設事業再評価における府民意見の反映
槇尾川ダム、檜尾川ダムの対処方針
主要プロジェクトの収支見込の公表、赤字事業への対処
府立の病院のあり方
試験研究機関評価のあり方
事業別予算の導入準備
「行政評価システム府民会議」の設置
事前評価システムの導入
2000年2月に太田知事が就任した後、99年度行政評価の結果がまとめて(事務事業評価、公の施設評価、主要プロジェクト評価)公表された。自治労大阪府職では各支部での関連事業の評価結果をチェックするとともに、システム構築の課題、問題点を検討した。
この時期の大阪府行政改革室の基本的考え方で私たちが疑問を持ち、問題提起したことを幾つかあげておく。
・基本思想に関連して
行革室の考え方:株主(納税者)であり顧客(サービスの受け手)である府民
→私たちの考え方:府民は客体ではなく主体(主権者)として位置付けるべき
・建設事業再評価に関して
行革室の考え方:「事業完成時の費用便益分析による定量的評価」
→私たちの考え方:事業計画採択時の目的以外のものは認めるべきでない。
・公営企業の経営評価(99年11月〜)に関して
行革室の考え方:「質の高いサービスの提供」の内容
→私たちの考え方:たとえば病院は「政策医療」に収斂してよいのか
また、行政評価の対象としての主要プロジェクトに関西新空港事業が含まれないこと、システム運用に当たって府民参画の視点が弱いことも大きな問題として指摘した。
さらにその後、2001年度、2002年度のシステム展開に関連して次のような申し入れを行なった。
施策の優先順位について府民、NGOが検討、決定に参画できるようにする。
大阪府建設事業再評価委員会の意見具申等を踏まえ、事前評価を導入する。
建設事業等の再評価に当たっては事業採択時の目的以外のものは認めない。
出資法人の評価等府民に行政評価の有効性が実感できるよう工夫する。
公募委員を含む外部評価委員会を設置する。
大阪府(行革室)の行政評価に関する考えは試行錯誤を経つつ変化もしてきたが、2002年5月現在で到達したシステムイメージは別図のとおりである。政策評価の重視をはじめ99年以降の私たちの上記の主張と取り組みが大阪府の行政評価システムの構築過程に相当反映されている。
行政評価と行革
2000年度の行政評価システムは内部管理事務評価が加わり職場への影響は更に拡大した。下記のとおり内部管理事務評価は行政評価システムの中でも特に行革(「新行財政計画」策定等)の動きに密接に関連している。
内部管理事務評価(2000年度〜 )
総務部各課、出納室、教委が所管する内部管理事務 54項目・186事務
新共通事務(給与報告、旅費、公共料金、物品管理)システム導入(2001年度)
新財務会計トータルシステムの構築
人事給与トータルシステムの構築
行政文書管理システムの構築 等
2001年度目標設定 48,000時間(3.3%削減)
課税関係資料の電子的収集による効率化
滞納整理支援システムの構築
出先機関が実施する事務事業(2000年度〜 28機関・67事業)
東京事務所、消費生活センター,万代診療所、公衆衛生研究所、
産業デザイン研究所、高等職業技術専門校
保健所:支所のあり方、保健所政令都市化
教育振興センター:2002年度を目途に業務を集中化
「負の遺産」をめぐって
いわゆるビッグプロジェクト等の見直しに関連する主要プロジェクト評価は99年度から開始された。行政評価等を踏まえて2001年2月に事業毎の今後の対応方針を決定されたのは次のとおりである。
計画変更 1事業(水と緑)
コスト縮減等 7事業(モノレール阪大病院以北 等)
事業成立性見極め 2事業(岸和田コスモポリス、モノレール門真以南)
計画廃止 4事業、抜本見直し 4事業
抜本見直し、新手法 1事業(新庁舎)
上記のそれぞれについて関係支部の取り組みがあったが、特筆すべきは「水と緑の健康都市事業」に関するものである。
2001年2月5日に大阪府の「新行財政計画」素案が発表され、主要プロジェクトについては「負の遺産の整理」に着手すると遅まきながら宣言された。「当初計画どおりでの実施はしない事業」に位置付けられた「水と緑の健康都市事業」について、自治労府職建設支部長名で事業の廃止、撤退を求める文書を公表した。自治労府職の機関紙にも掲載されて大きな反響を読んだこの「小論」は、大阪府の事業縮小案の問題点を詳細に検討、指摘し、「水と緑の健康都市事業は廃止し、撤退すべきだ。それは、まちづくりの視点からも財政面からも選択の余地がない。」と力強く呼びかけている。
これらの提起を受けて、自治労府職に設置した「新行財政計画」検討委員会の「主要プロジェクト作業部会」でも大阪府企業局会計の問題分析を進め、その成果を冊子にして広く配布した。自治労運動として蓄積してきた力量を新しい行政システム(行政評価)の中で活かす取り組みでもあった。