共生の街づくりー大阪府の人権施策の総合的推進を求めて
自治労大阪府職員労働組合総務支部
はじめに
現在国会で有事法制三法案(武力攻撃事態法案、自衛隊法改正案、安全保障会議設置法案)が審議されている。この有事法制は、平和と人権の憲法理念を破壊するものであると同時に、地方分権の流れに逆行し、地方自治を破壊するものだ。このことは、憲法体系全体に対する根底的な蹂躙であり、戦争のできる国家体制への再編=戦争法体系を構築しようとするものである。また、“戦争は最大の差別”であり、「敵国民」を作り、民衆を排外主義へと追いやるものだ。
今こそ、「平和」を人権の視点から捉えることを通して、地方自治の本旨の具体化を進める観点から大阪府の人権施策の総合的推進を求めてきた私達の取組みを報告する。
1 先ずは統一窓口を(1993年全国自治研で取組み報告)
自治労府職総務支部は、1979年12月の定期大会で決定した府職員採用時の国籍条項撤廃の取り組みから出発し、大阪府震災パンフレット―関東大震災の問題や通名問題(大阪府立の福祉施設職員の採用差別事件)、外国人登録法問題(大阪府地方課−当時)、文化交流(フィリピン、タイとの民衆文化交流―大阪府国際文化交流財団)などの取り組みを展開してきた。その経験から、在日外国人問題、とりわけ人権擁護に関連することは、国の省庁に対応した縦割り組織ではなく、大阪府としての基本理念の確立と、統一的な施策を推進する体制の充実が必要であると感じ、人権団体等と相談しながら大阪府に組織整備をするように働きかけた。
その結果、府は90年9月「大阪府国際化施策推進会議」を設置、庁内連繋体制の改善を進めるとともに、国際化推進のための中・長期的ビジョンを策定するための意見を聞く場として『大阪府国際化推進懇話会』を設置した。金東勲さん(龍谷大学)ら二名の外国人が委員として参加していることが注目され、以降、外国人に関する施策について、当事者である外国人の意見を聞き、尊重するというごく当たり前のことが実行されるようになるきっかけとなった。
2 新たな出会い
これらの取り組みを通じて、それまでの労働組合や、国際連帯運動の領域では共に活動することの無かった人権団体、ボランティアの市民、学生たちとの新たな出会いがあり、91年12月、RINK―すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク―が結成された。
一連の働きかけが実を結んで、92年4月、企画調整部に国際課が設置され、翌年5月には、大阪府としての理念をまとめた「大阪府国際化推進基本指針」が策定された。行政側の統一的な組織体制が整備される一方、人権擁護に取り組んでいるさまざまな団体、個人がネットワークでつながるという、現在の枠組みの原型が形成された。RINKは、定期的に大阪府に申し入れを行い、医療・社会保障面では母子保健制度の一部が、国籍・在留資格の有無に関わらず適用されている点や、教育の面における国籍・在留資格に関わらず、義務教育に受け入れられていることなどの成果を得ている。
そして、次のステップとして、外国人の自治体の行政への参加が課題となる中、「大阪府在日外国人問題有識者会議」が設置された。10人の委員のうち6人が外国人で構成されるという当時では「画期的」とも言えるものであった。
3 実効性ある人権条例を求めて
1996年12月、差別意識の解消に向けた教育及び啓発の推進、人権侵害による被害者の救済等の強化充実を目的として、人権擁護施策推進法が制定され、1997年3月から施行された。さらに、第49回国連総会の『人権教育のための国連10年』の決議を受けて、大阪府においても「人権教育のための国連10年大阪府行動計画」を97年3月策定した。同年5月には、「大阪府差別のない人権尊重の街づくり協議会」(会長:中川喜代子奈良教育大学教授)が、差別のない人権尊重の街づくりのための基本的方向(4項目)、方策(7項目)、法的整備の必要性(条例に盛り込むべき項目を含む)を提言した(資料)。10月にはこの提言を具体化するための「懇話会」が設置され、3回の懇話会を開催し、97年12月24日に、人権施策を推進していくための基本となる条例の制定等を求めた提言が知事に提出された。
総務支部は、就職、入居等の差別撤廃、職場での権利擁護、在日・滞日外国人との連帯などの運動に取り組む上で、より実行性のある条例制定を求めるため、自治労府職本部、自治労府本部、府下各単組とも連携して、人権平和室(当時)に対し、様々な意見、要望を出すなど積極的に取り組んできた。
条例案は当初98年の2月議会に提案される予定であったが、連日の反対キャンペーンを張った日本共産党(「府民の心を干渉、府政批判の圧殺に」云々)をはじめとする妨害に会って半年延期となった。「財政再建議会」98年9月議会では、議会の意向反映等にこだわる自民党との調整が難航し、異例の会期延長をして一部修正を加えて可決、98年11月1日から施行された。可決の当たっては、「本条例により、過剰な財政的な負担が生じないようにすること。」というような後ろ向きの付帯決議が採択され、後述の「基本指針」の策定にあたって大きな制約となった。
4 総合的な人権施策の推進のために
支部は、毎年の支部要求の一環として、「総合的な人権施策を推進する組織体制を早期に確立すること」及び「基本方針の策定に当たっては、人権団体の意見を積極的に取り入れること」を掲げ、審議会の運営についても支部要求が反映されるよう要望してきた。
人権条例では、知事は、人権施策を総合的に推進するために必要な事項を定めた、「基本指針」を策定するために、「大阪府人権施策推進審議会」(1999年5月設置。上田正昭会長他11人)に諮問のうえ、その答申を添えて、府議会の意見を聞かなければならない(条例第3条)と規定されている。
支部は、条例の理念を具体化し、人権尊重の社会づくりを進めるためにも、この「基本方針」の策定と具体化に向けての体制の整備が重要であると考え、様々な働きかけを行なった。「審議会」の運営も、支部要求に沿い、各分野の人権団体等に発言の機会を保障し、ヒアリングに充分な時間をかけた点は、上田会長他の「審議会」メンバーの熱意を評価したい。
2000年春から秋にかけて続けられた「当事者団体ヒアリング」で印象的な発言を行なった団体としては、RINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク)、関西生命線、HIVと人権・情報センター、多文化共生センター等がある。これらの「当事者団体ヒアリング」を含め14回の「審議会」を経て、2001年1月に「基本指針」についての答申が知事に提出された。
5 おわりに
府職員採用時の国籍条項の撤廃を求める取り組みから出発した、私たちの取り組みは、人権擁護に関する統一的な窓口の設置を求める取り組み、当事者の意見が反映される組織の設置要求へとつながり、外国人の自治体参加として「大阪府在日外国人問題有識者会議」が誕生しました。さらには、人権施策を総合的に推進するためには、様々な人権問題に自主的に取り組んでいるNPO,NGOとの連携の重要性も具体的な課題として取り組まれるようになりました。その過程で、「人権」という概念についても、普遍性と同時に性や民族、「ひと」としての多様性についても認識し、取り組んでいくことが必要であると考えてきた。
○人権の問題にもっと力を注ぐ労働運動を
熊沢誠(甲南大学教授)は1999年に設立された研究会「職場の人権」の講演の中で次のような問題を提起している。「一方的なリストラ解雇、突然の契約打ち切り、非正規社員に対する差別、退職へと誘ういじめ、男女差別など様々な職場で差別や抑圧が日常化しています。・・・このような現状に対して日本の労働組合は何かをなしうるのでしょうか。なしうるためには、どのような思想的、実践的な見直しが必要なのでしょうか。」(月刊誌「職場の人権」第8号、2001年1月発行)
この講演での熊沢さんの次の文章が印象に残る。「職場や企業の中では少数者の問題であっても、少数者に鋭くあらわれているこの社会の問題に、体を張った対応をしてこそ、初めて組合活動に対する市民の究極の期待を獲得できるのです。」このことばの意味を常に考え、今後の支部の人権施策への取り組みに生かしていきたいと思う。
大阪府差別のない人権尊重の街づくり協議会 97年5月
【差別のない人権尊重のまちづくりのための方策について(提言)要旨】
提言の概要
(提言趣旨)
「人権教育のための国連10年」への国・府の取り組みや人権擁護施策推進法の制定等、国内外の状況の変化、人権尊重の機運の高まりや法的整備の動向を鑑みると、府が人権問題の解決について果たす役割や、今後人権問題にいかに取り組んでいくかを明確に打ち出すことにより、人権分野における府の先進性を大いに発揮していくことが必要。
(内 容)
差別のない人権尊重のまちづくりのための基本的方向(4項目)、方策(7項目)、法的整備の必要性(条例に盛り込むべき項目を含む)
基本的方向
(1)行政施策への人権尊重の視点の導入
行政施策の企画・選択に当たって、人権尊重の視点を踏まえた検討が基本に据えられなければならない。
(2)人権施策の総合的推進体制の整備
各人権問題を所管する部局が有機的な連携を図り、人権施策及び人権教育・啓発行政を総合的に推進するような体制の整備の検討をしなければならない。
(3)人権教育・啓発の充実
「人権教育のための国連10年」の府行動計画等に基づき、社会のあらゆる分野において効果的な教育・啓発を進めていく必要がある。
(4)府民参加・府民との協働による施策の実施
施策の実施に当たって府民の参参加を呼び掛けるとともに、府民の自主的な取組みを支援することにより、公共と民間がそれぞれの役割分担の上に立ち、対等な立場で連携・協調しながら、活動を展開していく必要がある。
方策
(1)府民参加による人権啓発活動の推進
地域において事業所とも連携しながら、自主的・効果的な啓発活動が展開されるような体制の整備が必要であり、啓発活動に携わる者を育成しその活動を支援するような措置がとられるべき。
(2)人権施策推進のための第三者機関の設置
府の施策のあり方について、第三者の立場から人権の視点により、府に対して意見表明・勧告を行う機関を設置することが必要。
(3) 人権の評価制度の導入
制度や物的施設等がどれだけ人権に配慮されているか事前に客観的、総合的に評価できるシステムの構築について、問題点を認識しつつ将来的な課題として検討を加えるべき。
当面は、府の個々の行政施策を人権の視点からチェックするという形の評価制度の具体化を図るべき。
(4)府民の自主的活動への支援
人権関係のNGOやNPOをはじめとする民間団体の自主的な人権啓発活動の取り組みを支援していくとともに、適切な機能分担のあり方を踏まえた上で、対等な立場で連携・協調していくことが不可欠。
(5)人権尊重の府民意識の醸成
人権分野における顕彰制度を創設し、人権問題に取り組むことの社会的意義や重要性について周知・啓発を図るべき。
(6)人権問題に関する情報収集及び提供
府の人権問題や人権施策に関する情報を収集し、その現状をまとめた「人権白書」のようなものを作成し、府民に広く提供することが必要。
また、人権問題について情報収集の一手段として、府民の意識調査を実施すべき。
(7) 人権啓発施策の総合的な推進
府における人権啓発施策推進のための基本的な方針を策定し、それぞれの分野の人権啓発と併せて、総合的な人権問題についての啓発をより計画的、効果的に実施していくことが必要。
法的整備の必要性
・差別のない人権尊重のまちづくりに果たす府の責務を明確にするとともに、そのための制度的な枠組みを条例の形式で定めることは、極めて意義深く、府民の人権意誠の高揚を図る上でもその啓発的効果が大きい。
・部落差別調査規制の分野において先導的な役割を果たしてきた府が、差別のない人権尊重のまちづくりを進めていくための基本となる条例を制定し、先進的な人権施策の展開を図っていくことが期待されている。
・また、条例の制定に当たっては、広く府民の意見を聴取する機会を設け、差別のない人権尊重のまちづくりへの機運を高めるとともに、府民合意を図っていくことが必要。
・なお、参考までに、これまでの検討を基に、府において制定が考えられる条例にもり込むべき事項として以下のとおり(略)提案する。