水行政に対する情報公開のインパクト
自治労大阪府職員労働組合総務支部
命の水と情報公開
去る3月21日から26日にかけて「世界水フォーラム・プレ シンポジウム」が東京、福岡等の5都市で連続開催された。PSI(国際公務労連)加盟日本協議会、自治労、全水道、連合等の協賛を得て「世界水フォーラム市民ネットワーク」及び「APECモニターNGOネットワーク」が準備したもので、大阪では170名が参加(うち自治労府本部参加者50人)して成功した。
このシンポジウムの海外ゲストのひとりにカナダのモード・バーロウさんがおり、明快な語り口が印象的であった。彼女は会員数10万人のNGO「カナダ人評議会」の議長であるが、このバーロウさんが最近水道事業の自由化、民営化を巡って世界の大きなニュースに登場した。WTO(世界貿易機関)のGATS(サービスに関する貿易協定)の交渉の中で、EU(ヨーロッパ連合)がカナダ政府に対して要求した秘密の文書を暴露したのである。
この文書でEUは水道事業を含む相手国のサービス部門の全面自由化を要求している。EUが、貯水、浄水、配水を含む水道事業の自由化を重視しているのは、フランスの「スエズ・リヨネーズ・デゾ」や「ヴィヴァンディウオーター」などの水事業の巨大企業が存在するからである。
EUが同様の要求を南アフリカ政府に対しても行なっていることが同国のNGOの活動で明らかになった。かつてのアパルトヘイト(人種隔離政策)に対する激しい闘いで日本でもよく知られているソウェトでは水道の民営化後、水道水の汚染、水道料金の高負担の問題が深刻になっていると伝えられる。
これらの事例は、水道事業を巡る情報の公開が人々の生存に直接つながる大きな影響をもつことを示している。
大阪府水道部と情報公開の出会い
大阪府の情報公開の歴史では、水道部はある時期よくマスメディアに登場していた。
1984年に大阪府の「情報公開条例」(当時の名称は「大阪府公文書公開等条例」)が施行され、非公開決定に対する異議申し立て、公文書公開審査会でのやりとり、さらには裁判という動きがひんぱんに報道された。裁判に至った最初の事例が、最高裁の判例にもなった「安威川ダム情報公開訴訟」であり、第2号が「大阪府水道部の会議費情報公開訴訟」である。第3号は知事交際費を巡る情報公開訴訟で、水道部をはじめとする関係部局は行政の非公開体質の典型のように批判された。
「大阪府水道部の会議費情報公開訴訟」は、1985年6月に大阪地裁提訴、89年4月地裁判決で水道部敗訴、高裁でも90年5月に控訴棄却判決が出て、大阪府の会計事務処理等にも大きな影響を与えた。水道部関連の事案は元来「架空接待費返還住民訴訟」(1988年6月、住民勝訴)に発しているだけにマスメディアの論調も「しどろもどろの大阪府」(判決記事の見出し)といった厳しいものであった。
大阪府の情報公開制度概観
水道部を含む大阪府の(広義の)情報公開に関連する制度は約20年の曲折を経て現在は次のような構成のものに発展している。
行政文書公開制度
個人情報保護制度
情報提供制度
会議公開制度
出資法人の情報公開制度
外部監査制度
行政評価制度
経営評価制度
情報公表制度
パブリック コメント制度
ご覧のように改正水道法でいう「情報提供」の概念に連結するのもあり、大きくはみ出すものもあり、別世界のものもありという感じである。ここでは、改正水道法でいう提供すべき情報とされるものとの関連で、大阪府の情報公開制度が果たすべき役割を検討する。
水道法と大阪府の情報公開制度
厚生労働省の説明では、改正水道法の規定により提供すべき情報(以下「水道法提供情報」という。)として次のものが想定されている。
水質検査等水道の安全性に関する情報
水道事業に要する費用、料金負担等のコストに関する情報
給水装置、貯水槽水道の管理に関する情報
第三者への委託を行なう場合の委託に関する情報
上記の大阪府の10の制度のうち、水道法提供情報との関連が比較的薄いのは個人情報保護制度と出資法人の情報公開制度くらいである。対象になる事業が(現在は)限られている外部監査制度、1部局としては頻繁に実施するわけではないパブリック コメントを除いた残る6制度が、日常的に意識されることになるであろう。
その特徴、留意点をあげると次のようになる。
行政文書公開制度
非公開事由に該当するものであっても、「人の健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動」に関する情報は公開される。(大阪府情報公開条例8条)
非公開事由に該当するものであっても、「公益上特に必要があると認めるときは」公開しなければならない。(条例第11条)
情報提供制度
水道事業に関しては、情報公表制度(後述)の運用によって意味が変わるかもしれない。
会議公開制度
行政の透明性、公平性等に関する府民の評価に大きな影響を与えうる仕組みである。
行政評価制度
行政評価システム自体が既に広範なものになっており、府と府民の新しい関係を構築するツールとして有効なものになりうる。水道事業に関しては当面次の事項が注目である。
事務事業評価調書の作り方
政策(施策)評価の進め方
建設事業等事前評価
経営評価制度
どんな情報に基づき議論されているか、どういう方向に議論が誘導されていくかをチェック、モニターする必要がある。行革の梃子として「実績」のある他部局(病院等)の事例も参考なる。(後述)
情報公表制度
府民からの求めを待つことなく、自ら広く一般に公開するもの。大阪府の情報公表制度の目的のひとつは「府民に公平に知らせる必要のある情報、府民からの求めが特に多い情報」の公表である。ホームページ等による公表が現在の主役となっている。
求められる情報とその影響
水質データ等以前から一部公表、提供されてきたエリア以外のもので近年注目を集めているのが、行政評価とその一環としての経営評価に関係する情報である。
「府営水道経営評価推進委員会」の議論前提になったデータ等の例をあげる。
職員給与費に関する目標値の設定(上水の例)(略)
経営の効率性に関する指標(工業用水の例)(略)
水道事業についての影響を考えるため、地方公営企業としての制度見直しが先行している府立の病院のあり方検討の事例を紹介する。
1999年度の行政評価の一環として、病院、市場、水道事業について、経営の効率化とサービスの両面から改善指標と目標を設定。(99年11月〜公営企業の経営評価)
2000年7月 経営評価調書案を第1回大阪府病院事業経営評価推進委員会に提出するとともにインターネット等で公表し府民の意見を募集。
経営評価調書案の一部 (略)
2000年8月 第2回経営評価推進委員会で12年度経営評価調書を確認
2001年7月 13年度分病院事業経営評価調書案公表、府民意見募集
2001年8月上旬 大阪府行財政計画素案発表
8月下旬 大阪府衛生対策審議会に「府立の病院のあり方部会」設置
同 第3回大阪府病院事業経営評価推進委員会開催
提出データの一部 (略)
9月 13年度分病院事業経営評価調書策定
2002年3月 府衛生対策審議会「府立の病院のあり方部会」の「検討経過報告書」
情報通信機器の変化で府民からのアクセスが比較的簡単になっただけでなく、深刻な財政危機を背景に「府民の理解を求めて」大阪府側から公表してゆく行政情報の質、量の変化は著しい。労働運動の側としては、膨大な行政情報の分析、検討と市民的活用の援助活動が一層必要となっている。