実効あるパブリックコメント制度を求めて

自治労大阪府職員労働組合

自治研集会でパブリックコメント制度の導入を提言

地方分権の成否は、「情報の共有化と意思形成過程への参画」にある。府民がそれぞれの施策の内容を理解し判断していけるわかりやすい情報の公開・提供と、そのもとでの府民参加の政策選択・決定の合意手法を確立していく必要がある。さらに、その過程の住民へ説明責任(アカウンタビリティ)を自治体が十分に果たせるかどうかが重要な課題となっている。

自治労府職は2000年7月21日に自治研集会を開催し、分権法施行後の大阪府政(都道府県)の在り方を展望する「府民と府政の新しい関係の構築」に向け、府民の参画を進めるための具体案を提起した。その一つが、パブリックコメント制度の早急なシステム化と、その際の府民すべての参画の保障であった。

パブリックコメント制度とは、基本的な施策に係る計画などを立案する過程で、その案などを公表し、これに対して提出された意見・情報などを考慮して意思決定を行う手続である。国においては、閣議決定に基づき、1999年4月1日から導入されている。 

大阪府でのパブリックコメント制度化

大阪府は、自治労府職の提言を受け、以前から内部で行っていたパブリックコメント制度導入のための検討を進め、「パブリックコメント手続実施要綱(案)」を作成し、2001年2月5日から同年3月4日までの1か月間、意見募集を行った。パブリックコメント制度の導入にあたってパブリックコメント手続きを行うのは、当然と言える。

 自治労府職は、府民の府政への参加を広げるパブリックコメント制度導入を歓迎し、より効果的なものとなるよう自治研での議論を踏まえ、次のとおり意見書を提出した。

2001年2月28日

大阪府知事

  太田房江  様

自治労大阪府職員労働組合

委員長 大橋敏博

大阪府パブリックコメント手続(仮称)実施要綱案に対する意見について

自治労府職は、昨年7月に開催した「府民と府政の新たな関係をこうしてつくる」と題した自治研集会においても、府民の参画を進めるための具体策としてパブリックコメントの具体化を求めてきました。パブリックコメントは、既に各部局において一部実施されていますが、要綱にもとづく制度化が図られることを歓迎します。

 より実効ある制度化が行われるよう下記の意見を提出します。

1.公表方法

@どのような計画等について意見募集が行われているか、府民等が容易に知りうるように「府政だより」への掲載や報道資料提供なども行うこと。

A遠隔地からも公表資料等を容易に入手できるようポームページへの掲載は、原則として公表資料全体とすること。

B希望する者への公表資料の無料配布やコピーサービスなどに留意すること。

C実施機関の担当室・課(所)での閲覧では、机、いすの確保などスペースを十分確保すること。

2.意見の提出

@意見の提出期間は、案では「1か月程度を一つの目安」とされているが、府民等が意見を提出するために必要な時間を十分確保するため「原則として1か月以上」とすること。

A氏名等の公表を希望しない個人または法人の属性に関する情報が、情報公開請求された場合の取り扱いについても、説明すること。

3.意見・情報の処理

@意見提出を行った者に対しては、大量の意見提出があった場合など、やむをえない場合を除き原則として、意思決定が行われたことと提出された意見への対応結果を通知すること。要綱案7条の2の公表資料が送付されることが望ましい。

4.実施機関

@公安委員会及び警察本部長についても、できる限り早期に実施機関とすること。

 この意見募集には15件の意見が寄せられた。パブリックコメントは、意見提出の機会が保障されるだけでは意味がなく、提出された意見が十分検討され、妥当なものは反映されなければ意味がない。大阪府でのパブリックコメント制度の検討を進めてきた担当部署である行政改革室が、意見をどのように扱うかは今後の制度の行方の試金石とも言えた。

自治労府職の提出意見に対する府の見解を表にして示す。(自治労府職意見は、上記番号で表示)

項目

自治労府職意見

府の見解

第5条

(公表方法)に関するもの

1−@

今回の要綱案では、担当室・課

(所)、府政情報センター、ホームページでの公表を最低限のルールとして義務づけたところであり、計画等の性格、内容等に応じて、行政コスト等を勘案しながら、各実施機関が必要に応じて広く周知に努めることとしており、例えば関係する出先機関などの窓口に資料等を置くなど事案に応じて対応してまいります。

 また、ご提言の報道資料提供については可能な限り実施に努めてまいりたいと考えており、第5条[考え方]にその旨を追加しております。

 なお、TV、ラジオ、や新聞紙面による公表を義務づけることは行政コストの観点から、また、市町村役場での資料の閲覧の義務づけや市町村役場のパソコンを使ったアクセスの実施については、市町村に新たな負担を強いることから、それぞれ困難であると考えます。

1−A

資料が膨大な量に及ぶ場合、全ての方法において資料の全てを公表することは、費用対効果の観点から適当でない場合も想定されることから、最低限の例外規定を設けておりますが、原案においても、資料全体を公表することを原則としております。

1−B

公表資料の無料配布やコピーサービスを義務づけることは、行政コストとの関係から困難であると考えます。

1−C

閲覧に支障が生じないよう、各実施機関において適切に対応してまいりたいと考えます。

第6条

(意見及び情報の提出)に関するもの

2−@

第6条第1項を次のように修正します。

 「実施機関は、・・・必要と判断される時間等を勘案し、原則として1か月以上の意見及び情報の提出期間、・・・」

2−A

大阪府情報公開条例は、第9条第1号において個人に関する情報であって「特定の個人が識別されるもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」を公開してはならないこととし、また第8条第1号において、法人等に関する情報であって、「当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」を公開しないことができると規定されております。

 パブリックコメント制度に基づき意見を提出した個人の氏名又は法人等の名称について公開請求があった場合は、これらの情報が大阪府情報公開条例第8条第1号及び第9条第1号に該当するか否かを具体的に判断することとなります。

第7条

(意見・情報の処理)に関するもの

3−@

意見を提出していただいた方々全てに対して、意思決定が行われたこと及び提出された意見に対する回答を義務づけることは、行政コスト及び簡素化の観点から困難であると考えます。

 なお、寄せられた意見に対する大阪府の考え方については、計画等の案等の公表方法と同じ方法で公表することとしており、計画等の案等を公表する時点において周知を図ってまいります。

第2条

(定義)に関するもの

4−A

 公安委員会及び警察本部長については、大阪府情報公開条例上の実施機関に位置づけられたところですが、その施行時期については規則で定めることとされているところです。

 この制度においては、大阪府情報公開条例に基づく「情報公表制度」の手続にそって計画案等を公表することとしているため、公安委員会及び警察本部長への大阪府情報公開条例の適用時期を目途に、この要綱にそった対応ができるよう現在具体的な検討を進めているところです。

第6条の意見の提出期間について、「1か月程度を一つの目安」から「原則として1か月以上」とするよう自治労府職は意見提出したが、大阪府は、その意見を採用し、案を修正した。意見提出期間は国の実施要領においても「原則として1か月以上」とされており、修正は当然とも言えたが、府民の権利保障の面から重要であり、意義のある修正であった。

要 綱 原 案

策定された要綱

(意見及び情報の提出)

第6条 実施機関は、府民等が計画等の案についての意見及び情報を提出するために必要と判断される時間等を勘案し、1か月程度を一つの目安とする意見及び情報の提出期間、提出方法及び提出言語の種類、氏名・連絡先等を意見受付の条件とする旨を定め、当該計画等の案等を公表する時に明示しなければならない。

(意見及び情報の提出)

第6条 実施機関は、府民等が計画等の案についての意見及び情報を提出するために必要と判断される時間等を勘案し、原則として1か月以上の意見及び情報の提出期間、提出方法及び提出言語の種類、氏名・連絡先等を意見受付の条件とする旨を定め、当該計画等の案等を公表する時に明示しなければならない。

また、大阪府は、第5条に関して、要綱の

[考え方]に以下の文言を追加した。

[考え方]☆公表の方法は、計画等の内容に応じ第1項に定める方法のほか、出先機関への資料の備え付け、報道機関への資料提供など効果的な方法をとるよう努めます。

「大阪府パブリックコメント手続実施要綱」は、このようにパブリックコメントに基づく修正を行った上で2001年4月1日から施行された。概ね評価できる内容の要綱であるといえる。

大阪府でのパブリックコメント実施状況

 2001年度に行われた府の基本的な施策に関する計画、指針等の策定に関するパブリックコメントは21件、条例の制定又は改廃に係る案の策定に関するパブリックコメントは5件であった。これらは、大阪府ホームページの「パブリックコメント手続きの実施状況」で見ることができる。

 このうち2002年4月末日段階で意見募集の結果と見解が示されているものについて、意見提出状況を一覧表に示す。

案件

意見

通数

件数

大阪府廃棄物処理計画(案)

196

大阪府新農林水産業振興ビジョン(案)

14

69

大阪府総合計画「みんなでめざそう値」(案)

549

1,298

化学的酸素要求量等に係る第5次総量削減計画及び総量規制基準(案)

4

15

水質環境基準に係る河川の類型見直し(第1次報告)(案)

3

6

大阪府建設リサイクル法実施指針

()

4

10

大阪

21世紀の環境総合計画(案)

300

506

21世紀の大阪府下水道整備基本計画(案)

12

23

7次大阪府卸売市場整備計画(案)

2

6

大阪府福祉のまちづくり条例(案)

81

220

大阪府第9次鳥獣保護事業計画(素案)

38

大阪府地域防災計画(案)

4

32

大阪府安全まちづくり条例案

24

46

大阪府男女共同参画推進条例案骨子

126

989

大阪府住宅まちづくりマスタープラン(素案)

8

24

大阪府人権保育基本方針

()

33

43

ほう素等の排水基準の設定等(案)

2

3

大阪府都市基盤整備中期計画(案)骨子

29

大阪府行財政計画(素案)

1,562

2,382

第7次大阪府職業能力開発計画案

0

0

健康おおさか21(案)

27

大阪府男女共同参画計画素案

126

989

?:通数又は件数が示されていないもの

このうち、自治労府職は、自治研での議論を踏まえ、7案件に対して意見を提出した。

府民からの意見提出件数は、府民の関心の高い計画等について、当然、多くなっているが、意見募集されていることがマスコミ報道されたかどうか、ホームページでの周知以外に説明会を開催したかどうか、関係団体や府政モニターに意見提出を呼びかけたかどうかなどによって大きく左右されている。

今後は、自治労府職の当初の意見どおり「どのような計画等について意見募集が行われているか府民等が容易に知りうる」ように運用面での配慮が望まれる。また、計画等の作成では、その計画の関係団体等への周知も有効である。

不適切な運用のケーススタディ

パブリックコメント制度導入の初年度ということもあり、中には不適切な要綱運用の事例も見られた。

要綱適用の意見募集第一号となった「大阪府男女共同参画計画素案」については、自治労府職も意見を提出したが、2001年3月30日から4月27日までの間の意見募集であり、「原則として1か月以上」という意見募集期間が守られなかった。また、意見募集の結果、「大阪府男女共同参画計画」は7月24日に策定されたにもかかわらず、寄せられた意見に対する府の見解が示されたのは、自治労府職がその遅れを指摘し早急に示すよう要求した後の9月4日であった。

このようなことになった原因としては、不慣れであったことや業務過重であったことなどが考えられ、適正な業務量に見合う人員配置という観点から組合の果たすべき役割も重要であるといえる。

同じ生活文化部男女共同参画課が担当課である「大阪府男女共同参画推進条例」についても、残念な運用が行われた。

当条例については、大阪府男女協働社会づくり審議会から「基本的な考え方」に関するパブリックコメントが昨年8月に行われ、自治労府職としても意見を提出した。ところが、このパブリックコメント意見は、審議会議論に反映はされたものの、審議会から答申と同時に示されるべき意見に対する見解が示されないままとなった。

しかも、大阪府ホームページのパブリックコメント実施状況一覧表からも削除され、パブリックコメントが行われたこと自体がなかったかのような状況にある。このような状況下で再度、条例案骨子に関する意見募集が本年2月に男女共同参画課から行われた。2回の意見提出機会が保障されたことは評価できるが、意見提出者としては、前回の意見に対する見解を踏まえて次の段階の意見を作成するのが当然の作業手順だが、意見作成にあたりこのような作業はできなかった。きちんと審議会見解が示されていれば、2月議会で一つの焦点となった条例に関する議論が進んだと考えられる。

また、2月に行われた条例案に関する意見募集も議会直前であり、法規審査等の提出議案の手続との関係を考えれば、意見を踏まえて修正する時間はほとんどなく、アリバイ的にパブリックコメントが行われているのではないかとの疑念が残る。これまでにない意見募集期間1ヶ月(以上)が策定までの手続きで必要なのであるから、計画策定の目標時期や議会への提案時期から適切に逆算し、拙速ではなくきちんとした対応がとれるよう準備をすべきである。

自治労府職としては、このような不適正な事例が繰り返されることのないよう取り組みを続けて行きたい。