失業時代の職業訓練 −大阪府内の現状から−
自治労府職労働支部
○はじめに
近年の技術革新の進展、高度情報化社会化、さらなる雇用情勢の深刻化など、経済社会は日々著しく変化している中で、セーフティネットとしての職業訓練の必要性が高まっている。また、近畿の失業率が7.1%(3月)となるなど高率で推移する現状では、失業対策の一環として職業能力開発の位置づけは大きなウエイトを占めている。このような状況のなかで、環境の変化に迅速かつ的確に対応できる即戦力となる職業能力を持つ人を養成することが重要であると思われる。
しかし、失業対策として職業訓練を単に開講するだけで就職に結びつく様な単純なものではなく、また、短期間の訓練により身につけられる職業能力には限界がある。さらに、職業経験のある人が対象で、新しい職業能力を身につけるには、いままでの身につけた職業能力を踏まえて、新しい雇用に結びつく部分の活用を行う職業訓練の実施との観点が必要である。
大阪府が実施する職業訓練の現状を整理し、課題と今後の目標を検討したい。
○大阪府内の職業訓練
大阪府には、府立高等職業技術専門校7校及び国立府営の大阪障害者職業能力開発校がある。
これら8校は、時代の変化に対応した職業能力開発を推進するともに職業能力開発の拠点として中心的機能を発揮し、府民に開かれた施設を目指している。
府立7校の科目としては、2年制が7科目(機械、電気・電子、金属加工、自動車整備)、1年制が29科目(NCエンジニアリング、電気施行技術、溶接、木工、建築、自動車整備、エアコンシステム建設機械整備、測量設計、建築設計、インテリア、広告デザイン、建築設備設計、タイル施工、情報通信、機械メンテナンス、塗装、ITエレクトロニクス、コンピュータ制御、情報処理、OAビジネス、アパレル、建築内装設計、グラフィックデザイン)、6月制が8科目(グリーンエクステリア、ディスプレイ塗装、一般事務、ビル管理、CAD製図、経理ビジネス、OAビジネス、福祉サービス)がある。定員は、1440名である。
また、身体障害及び知的障害のある方の科目(大阪障害者職業能力開発校・芦原校)には、2年制が2科目(情報処理、メカトロ技術)、1年制の科目(CAD製図、OAビジネス、製版アート、アパレル、POPデザイン、作業実務)で、定員は180名である。
02年度においては、職業訓練の機会を増やす観点から緊急離職者支援事業が計画されている。
7校においては、訓練期間6ヶ月が2科目(PC・CAD、開業マネジメント)、訓練期間2ヶ月が4科目(機械CAD、ネットワーク実務、天井内装施工実務、ビルクリーニング実務)、訓練期間1ヶ月が1科目(パソコン事務実習)がある。
また、民間の専門学校、訓練機関を利用して実施されるものでは、訓練期間3ヶ月が7科目(機械設備保全の基礎、パソコン簿記習得、ビジネススキルアップ、財務管理実務習得、営業実務習得、経営管理実務習得、ファイナンシャルプランニング)、訓練期間2ヶ月が1科目(パソコン活用技術習得)、訓練期間1ヶ月(訪問介護員2級養成)がある。
さらに、訓練期間が5日から14日と比較的短期である科目が8科目(フォークリフト運転技能、パソコン〈ワープロ・表計算〉、ネットワーク施工技術、建築CADの基礎、パソコン会計、パソコン給与、パソコンインストラクター養成、パソコン実務〈身体障害者対象〉などがある。
テクノ講座(職業に関して、新しい知識やより高度な技術の習得及び資格取得を容易にするための講座。基礎的な技能を修得したい人や技術革新に対応する知識や技能を学びたい人に適している。)は、おおむね12時間から57時間の訓練時間により習得する講座で、機械系20コース、溶接17コース、電気・電子系16コース、建築・土木・建設26コース、情報処理12コース、OA・事務系15コース、デザイン系コース、木工2コース、塗装1コース、造園2コース、管理系5コース、福祉系2コース及び身体障害者手帳をお持ちの人を対象とした11コースなどがある。
さらに、事業主団体等の要望により独自のカリキュラムで実施するオーダーメイド講座(39コース:13年度、平成13年12月末実績)がある。
また府内には、職業能力開発短期大学校、職業能力開発促進センター(ポリテクセンター関西)などがり、アビリティコース(6ヶ月、12ヶ月)、緊急アビリティコース(1ヶ月、3ヶ月)等の離転職者の人々を対象とした訓練を実施している。
加えて雇用保険の「教育訓練給付制度」は、働く人の主体的な能力開発の取り組みを支援し、雇用の安定、再就職促進を目指しており、通算5年以上、雇用保険に加入して働き続けている65歳以下の人が対象となり、厚生労働省の指定講座を終了すると、本人が支払った入学金、受講料など80%(最大30万円)が給付される。
○現状の問題点
府7校が実施している職業訓練の内、1年制(短期課程)においては、新規中学卒業者と離職者の混合訓練であるために、基礎的技能者養成訓練と早期就職を目指し、職場復帰に迫られた離職者とでは、おのずからニーズが異なるために、同じクラスでは困難な面がある。また、離職者向け科目でも、受講者がいままでに身につけた職業能力には差やニーズに違いがあるが、職業訓練が対応できる幅が限られるために、個々の受講者には十分な対応といえない状況がある。
訓練科目を見てみると、公共職業訓練の沿革から、基本的に新規中卒者を対象としたものづくり系科目をベースに、労働力不足、高学歴化、技能労働者の質・量の変化への対応、産業構造の変化への対応など高卒者、離転職者や在職者にも拡大した実施となり、現在のべ44科目である。しかし、現状の44科目は、必ずしも企業ニーズや社会情勢の対応していること言い切れない。
今後も、訓練内容や一般的な教授方法だけでなく、受講生の知識水準、ニーズをも踏まえた科目開設を検討する必要がある。これは応募者の倍率にも現れており、7校全体では2倍程度であるが、7倍を超える科目から定員を下回る科目もある。
また、就職困難の度合いをある程度までしか加味できない現行の制度から職業訓練を望む人全てに職業訓練の機会が与えられない現状や離転職者の受講生であっても、雇用雇用保険延長等の給付を受ける人や受けない人などがいるなど、本来的なセーフティネットの役割りが果たせていない要素があると思われる。
さらに民間委託訓練については、これらニーズや課題を踏まえたうえで、2002年度の緊急離職者支援事業として実施される府施設内の委託訓練科目の一部には、現行の科目と類似しているような科目(6月訓練、訓練内容)や、6ヶ月の訓練期間を要して、常勤職員が指導して科目と識別できない科目があり、職業訓練としての質や就職指導等に課題があると考えている。
これら実施されている職業訓練について就職状況で見ると、厚生労働省の調査では、全国で公共訓練校の就職率は59%(7校では70%以上)であるが、民間委託の訓練を受けた人の就職率は46%とのデータも出されている。これは受講者の就職先を積極的に支援すると公共訓練校と委託訓練の「民間にまかせきり」との差が出ていると考えられる。
このような安易な民間委託訓練という手法は、現実には「民間活用」という形式的な体裁を整えた色彩が濃く、運用面で課題が残っており、「職業訓練」が税金のばらまきになり、民間教育機関自体の雇用創出にとどまると危惧している。
○高等職業技術専門校の再編に対する労働支部の課題
「大阪府行財政計画(平成13年9月)」において「少子高齢化の進展や産業構造の変化に対応した公共職業訓練を推進するため、国、民間の教育機関との役割分担や離職者の再就職支援の重要性を踏まえつつ、高等職業技術専門校の再編整備を行う」として平成14年度の着手を明記している。
また、「第7次大阪府職業能開発計画(平成13年9月策定)」では、「府内にある7校の技術専門校のうち、松原校、堺校、守口校、東淀川校の4校は、いずれも建設年次が30〜40年代と古く、施設全体が老朽化・狭隘化しており、その対応が急がれる。
このため、技術専門校の再編整備にあったては、これら老朽化している技術専門校の立て替えを視野に入れ、他の校も含めた技術専門校全体のあり方や施設の位置づけの基本方向を明確にするとともに、今後技術専門校が担うべき役割・機能を精査のうえ、技術専門校の抜本的再編について検討を行う。 ア 職業訓練対象者の検討(離職者の再就職を支援する訓練への重心移行) イ 地域の事業主等に対する職業能力開発支援機能の充実 ウ 受益者負担の検討」と記載している。
これに対して自治労府職労働支部は、@「大阪府行財政計画」及び「第7次大阪府職業能開発計画」での基本的な考え方には賛同するものの、現行の訓練科目の規模、体制を基本とし、公共職業訓練を発展・強化する科目体制、及び高等職業技術専門校の再編であること、Aこの前提に立って現行7校+大阪障害者校とする8校体制にはこだわらない、Bさらに職業訓練指導員配置基準の見直しについては、常勤職業訓練指導員での訓練指導を前提に、組合員合意の基準作りを求めるとする基本的な考え方で取り組みを進めている。
○おわりに
厳しい雇用情勢のなか、「総合雇用対策」として民間活用の「職業訓練」が多数実施されているが、職業訓練を実施するだけではなく、雇用(就労)へ、どの程度結びついているのかは、今後検証の必要がある。セーフティネットとしての職業訓練の必要性について強く認識するものの、このようなにわかづくりの「職業訓練」の実効性に対しては、長年培ってきた公共職業訓練の観点から検証するとともに、本当に職業能力を高める目的が具体化された職業訓練を提唱していきたい。