大阪府の財政状況と自治労府職の対応

 

自治労大阪府職員関係労働組合

 

        はじめに

大阪府はこのままでは財政再建団体転落する危機に陥っている。もし、再建団体になれば都道府県としては初めての事態となり、870万人大阪府民に大きな影響を及ぼすことは必至である。

そもそも、この財政赤字の原因は政策的なものとともに構造的なものであると、組合も当局も認識している。法人関係の税金に大きく依存した大都市圏の地方税収構造や、国の予算配分上の問題などが今日の財政赤字の大きな要因である。しかし、バブル時代に積極的に公共事業を展開し、そのツケが「負の遺産」として府財政の足をひっぱっているのも事実である。構造的な問題は問題として訴えつつ、当面の財政危機を乗り切っていく必要がある。

 

        大阪府の財政状況

(ア)        現状(大阪府行財政計画(案)より)

@       人件費、交際費などの義務的経費さえも府税収入で賄えない状態

A       ピーク時(平成19年度)で5,750億円の財源不足(府税収入の1/2に匹敵)

B       今後減債基金等からの借り入れをしても、平成18年度以降準用再建団体の水準に

 

(イ)        要因

@       大都市に配慮されていない地方税財政構造

歳入に占める府税収入の割合が大きく、特に景気の変動を受けやすい法人2税(法人府民税、法人事業税)のウェイトが高い。2001年当初予算では、法人2税の歳入額はピーク時(1989年度)の約半分となっている。

A       大阪の産業の構造的な不況による税収減

繊維、重工業、電機が構造的不況にあり、企業規模も中小企業が多い。

B       豊富な税収と右肩上がりの経済を前提とした過去の施策構造からの転換の遅れ

C       人件費や公債費等の義務的経費の増加

府債残高は2001年度末で4兆円を超える額に、財源として使える基金はほとんどそこをついた状態

D       見直しがなされなかった各種プロジェクト

 

        大阪府行財政計画(案)の概要

大阪府の財政再建団体転落を回避すべく、大阪府行財政計画(素案)が発表され、以下のような行革案が盛り込まれた。(素案)はパブリックコメントを経て、20018月に(案)として、提起された。

具体的には、5つの改革が挙げられ、財政再建方策が提起されている。しかし、府民や職員に大きな痛みを強いる内容となっている。

 

5つの改革

@        全国一のスリムな組織づくり

(イ)                            警察・学校を除き今後10年間で3000人(全体の20%)の削減

事務事業・出先機関の見直し(保健所の政令市への移管、病院の再編等1200人)、アウトソーシングの実施(文書逓送、健康診断、府営公園の維持管理等 800人)、ITの活用による事務効率化(庶務部門を総務サービスセンターに一元化400人)独立行政法人化(試験研究機関など600人)他により、3000人の定数削減を行う。

 

(ロ)                            昇給停止による全国最低水準の給与

PS 大阪府は、19994月より職員給与の24月延伸を行った。これにより、大阪府職員のラスパイ指数は、100を切ることになり、全国の都道府県で最低水準となった。)

 

(ハ)                            勤務条件の見直し(職員宅舎の廃止、通勤手当の6ヶ月定期分支給方式他)

職員宅舎9カ所、独身寮3カ所、教員住宅9カ所、教員独身寮1カ所を平成16年度までに廃止する。 (PS 大阪府宅舎には職員は、15年間入居が可能であった。しかし、組合の反対にもかかわらず一方的に宅舎廃止提案がなされ、現在入居している職員は16年度末までに退去せざる得なくなった。)

 

(ニ)                            新人事評価制度の導入

PS 平成13年度より新人事評価制度の試行実施が知事部局でなされている。新人事評価制度の試行では、職員に5段階の絶対評価を行い、人事異動や研修に反映させていく内容であるが、当局は更に相対評価を加味し、その評価結果を特別昇給へ反映させること考えている。)

 

(ホ)                            IT化の導入→生産性の10%向上

20013月に発表された「電子府庁アクションプラン」では、本庁は平成13年度中に、出先は平成15年度までに職員11台パソコンを配備し、IT化を進める計画となっている。行政申請の約80%を対象に電子化、入札の電子化、庶務事務のIT化をすすめ、結果として、庶務を中心に150人の削減、旅費の10%削減、超勤の10%削減が生み出されると試算している。

 

(ヘ)                            出資法人の削減

法人数の半減化(策定時の指定出資法人79法人)、出資法人の役職員数の20%削減、府の補助金の10%削減を目指す。

重要課題を有する法人→ 松原食肉市場公社、大阪府土地開発公社、大阪府住宅供給公社、大阪府住宅管理センター、大阪府建設監理協会

 

 

A        「負の遺産」の整理

企業局はこれまで、千里・泉北ニュータウン事業などを行ってきた。都市基盤の整備の前進に貢献した他、収支も黒字を計上してきた。しかし、バブル経済の崩壊により、りんくうタウン事業や阪南スカイタウン事業で土地分譲が進まず、多額の財源不足に陥った。今回事業の収縮と新規開発からの撤退、企業会計を廃止するとともに、分譲価格の引き下げ等による含み損の処理を行うこととした。

 

(イ)                            企業局事業の撤収

平成23年度を目途に企業会計を廃止し、従前の開発にかかる事務は、他会計への移行を図る。

主な事業の財源不足額は、 りんくうタウン ▲2,789億円、 阪南スカイタウン ▲471億円、 水と緑の健康都市 ▲750億円。

PS りんくう、阪南は分譲単価の見直し(引き下げ)、土地利用の見直し(例 商業用地に住宅開発を認める等)などを行い、いわゆる損切りをして売却する。なお、その損失額は一般会計より拠出する事になる。)

 

(ロ)                            住宅供給公社の経営改善

住宅供給公社は、新規分譲住宅事業からの撤退する、よって公社は今後保有する賃貸住宅の建て替えに専念する。現在保有する余剰地等は損失を計上しても処分していく。

 

(ハ)                            土地開発公社の含み損の処理

PS 住宅供給公社と同様、未利用地は損切りしてでも処分していくことが明記された。)

 

 

B       新しい行政システム

この項では、大阪府という都道府県のあり方に関して言及している。基本方針は、府と市町村での2重行政を解消し、合理的な行政を図るために、基礎自治体である市町村を優先していくととしている。市町村で出来る事業は極力市町村に任せ、府はその調整などの広域的な業務に専念していくという方針である。

 

(イ)                            都道府県の存在

基礎自治体である市町村を優先する。権限もできるだけ市町村に委譲していく。役割として、大阪府は広域的行政課題に対応する。

 

(ロ)                            市町村との関係

政令市・中核市への移行の支援、自主的な市町村合併への支援。市町村との協働(イコールパートナ−)。

 

(ハ)                            府の行政システムの改革

 行政評価の推進、施策の外部評価、コスト計算書の作成など透明性を高める方策を採る。

 

C        施策の評価、重点化、NPOとの連携

個々の施策の緊急性や効果を評価し、優先的なものを取り組んでいく。その優先度を検討する場として、「再生戦略会議」を設置、「再生予算枠」を設ける。

PS 限られた財源の中で優先順位を設定する事は一定必要ではあるが、効果がすぐに見えにくい施策は埋没してしまう恐れがある。また、再生会議の設置は行政の企画立案においてトップダウン方式を強化させていく意味がある。

NPOに事業実施を任せる提案型公募事業を行うほか、ドーンセンターや花の文化園などの府施設運営にNPOの参画を求めるとなっている。しかし、NPO自身は発展段階にあるほか団体によりその性格は大きな差があるのが原状である。NPOとの協働とは単なる安上がりの民間委託に終わる懸念がある。)

 

D        財政再建団体への転落の阻止

具体的な施策として、組織定数や勤務条件見直しなどの内部合理化で2610億円の歳出抑制、施策の重点化で630億円の削減、職員宅舎の廃止などによる府有地売却で1620億円の歳入確保などを行いつつ、再建団体転落を回避する。

 

        労働組合の対応

(ア)       自治労府職の視点

@  大阪府の財政再建は必要であり、赤字再建団体への転落を回避することは必要である。

A  しかし、職員への一方的なしわ寄せを行うことは反対。今回の行革案は、先に人員削減ありきであり問題である。スリム化と効率化は別次元のものであり、組織定数は業務量に応じて適正に配置されるべきである。

B  過去の大規模開発と決別することは評価するが、府民に身近な施設の統廃合には異論がある。

(イ)       自治労府職の対応

@  行財政計画検討委員会を設置し,議論と対応策を検討。

A  学習会等の開催や教宣活動,

B  当局への意見書の提出、パブリックコメントでの意見反映

C  個々の課題を中心に当局と交渉

例)職員宅舎の廃止に関しては、既に入居している職員も強制的に追い出すものであり、組合としては承認できないと回答し、入居者集会を開催し当局と交渉を続けた。

 

        自治労府職の見解

 

行財政計画(素案)に対する見解

自治労大阪府職員関係労働組合

 

行財政計画(素案)が8月3日に取りまとめられ、公表された。自治労府職は、真に府民のためになる行財政改革を求めて、骨子案公表の前に「基本的考え方」を示し、「新行財政計画検討委員会」で議論を重ねて意見反映を行うなど様々な取り組みを重ねてきた。公表された素案は、評価できる点もあるものの主として下記の問題がある。今後も、府労連の仲間とともに対府申し入れ、シンポジウムの開催などの取り組み、自治労府本部、連合大阪に結集しての取り組みを進めていく。

 

改革の目指すもの

「財政再建団体転落」を回避することは、労働組合としても異論はない。

大阪府が今日のような財政危機に陥ったことに対する責任の明確化が必要である。

累計として8000億円の減債基金からの借り入れが生じるが、その処理策等が依然不明確である。

「行政主導の社会システムに、限界が見えはじめた」という情勢認識や、「右肩上がりの意識・体質からの決別」など改革の理念や自治体がこれから果たすべき役割の方向性を示そうという姿勢は評価できる。しかしながら、示された将来像が府と市町村の役割を明確に区分していないなどの問題がある。理念や将来像については、特に充分な議論を行い、府民合意を前提とすべきである。

 

スリムな組織づくり

全国一、スリムな組織づくり」では、3000人削減が打ち出されている。これは、2月議会で意見表明されたことに端を発する「政治的な人員削減攻撃」である。そもそも、組織定数は業務量に応じて適正に配置されるべきであり、断じて容認できない。3000人削減の内訳として示されているアウトソーシングは、特に現業職場を狙い撃ちするもので、きわめて問題が大きい。直営で行うことにより維持してきたサービス水準や蓄積してきたノウハウは財産である。

試験研究機関、大学、病院等の地方独立行政法人化の検討を進めるとしているが、試験研究の活性化など制度の本来の狙いとは離れて人員削減の手法として考えられており、問題である。フォローアップ型のサービス業務が中心である本府の対象機関で、公的機関としての役割を果たしながら独立採算性が成り立つか疑問であるなど、地方独立法人の制度化自体、課題が多く、慎重な検討が必要である。

出資法人の削減等によりプロパー職員の一方的解雇や賃金・労働条件の改悪が行われないようにすべきである。

能力主義・成績主義に基づく人事・給与制度は、公務労働になじまないものであり反対する。

職員宅舎の廃止等、労働条件に関するものは、労使合意、居住者自治会等の当事者合意を前提とし、一方的実施を行わないこと。

 

「負の遺産」の整理

負の遺産の整理に取り組むとし、一定の役割を果たした企業局の廃止を打ち出した点は評価できる。しかし、企業局出資法人の財産活用が具体的に何をさすのか、住宅供給公社等の負債の額がこの程度で済むのかなど説明責任が果たされていない。素案が公表されたのと同じ日に土地価格の下落が公表されていたが、条件によっては負の遺産の実態は素案より大きいとも考えられる。収支見とおしを検証できるデータを示すべきである。

水と緑の健康都市の会計移管が処理策としてあげられているが、一般会計に移し財政難の折に税金を投入してまで実施しなければならない事業なのか。行財政計画骨子案で示された事業縮小案は街作りとして問題がある旨、指摘してきたが、我々の指摘どおり縮小案は地元の理解を得られていない。環境保全策を講じた上で事業を中止すべきである。

新しい行政システム「大阪モデル」づくり 

パブリックコメント手続、行政評価システム等、これまで自治労府職が実施を提言してきた施策を位置付けている点を評価する。今後とも、透明でわかりやすい行政を府民合意のもとに推進していくべきである。

 

施策の再構築

再生戦略会議については、メンバー構成はじめ具体的な提案を示すべきである。

府立5病院のあり方検討にあたっては、いかに府民の命と健康を守るのか、そのために大阪府が何をすべきかを明確にした上で行うこと。「運営形態の変更をも視野に」と書かれているが、「経営」のみを念頭に置いた予断を持ち込まずに議論すべきである。

身体障害者福祉センターについては、障害者のみならず幼児から高齢者まで一貫したリハビリを行なう府域での中心的なリハビリセンターに再整備し、附属病院については、府立のリハビリテーション病院として再編すべきである。砂川厚生福祉センターについては、廃止や全面的な民営化を行わず、府立直営を堅持すること。

「文化の振興なくして大阪の再生はありえません。」としながら、施策の後退姿勢が目立つ。特に、旧大阪府音楽団を発展させて大阪府が設立した「大阪センチュリー交響楽団」への補助の見直しは不当である。他の在阪オーケストラとセンチュリー交響楽団の性格の違いについて何の説明も付さずに「公的助成」の表をのせる(具体的取組編P44)のは府民をミスリードするものである。

大阪は全国でも最も厳しい雇用・失業情勢にあり、府には労働者のセーフティネットを図る施策が求められる。特にこれらを必要とする中小零細企業の労使にとっては身近にあって気軽に活用できる労働行政機関が有効であり、労働事務所の一元化はこれに逆行するものである。

 

NPO・府民との協働

NPOの活躍の場を広げることに異存はないが、NPOは財政再建のための安価な労働力ではない。特定課題に取り組む人の集まりというNPO・NGOの長所と限界を理解しておく必要がある。

 

主要プロジェクトの点検 

厳しく点検・評価を行い、適切な見直しを行うとしているが、各プロジェクトごとに収支見通しを明らかにし、より具体的に示すべきである。

 

大阪を再生するための制度改革 

関西国際空港の問題処理は国の責任において実行すべきであり、「国の責任において機能強化のための抜本的な方策を講ずるべき」という立場にとどまらず、大阪府負担の直接的軽減要求に踏み込むべきである。また、国に対して「透明性の高いシステム」を求めるとともに、大阪府として直接府民に対して情報を開示し、その意見を十分に聞くシステムを確立しなければならない。