自治労府職税務支部
1. はじめに
都道府県の赤字が社会的に注目を集めている。とりわけ、これまで都道府県の財政赤字といえば、一般的に財政力が劣っているとされる県が多かったわけだが、いま再建団体転落の危機に瀕しているのは大阪府をはじめ東京都や神奈川県など本来財政力が豊かだとされていた自治体である。このことは何を意味しているのか。また、世論は「民間では倒産を避けるために血のにじむリストラをしている。自治体はもっと給与や人員などリストラすべきである」という。本稿では、都道府県財政危機の本当の理由と、本来求められるべき税制改革案について考えてみたい。
2. 地方税制の歪み
都道府県財政の脆弱性は、税収の安定性が欠如していることが大きな要因である。税収の変動が激しい税目は国税に、安定的な税目を地方税に、という税源配分は国際的にも常識とされている。なぜなら、景気対策は国の当然の任務であり、不況の時には財政赤字を出して景気を刺激し、好況の折には財政を黒字にして景気にブレーキをかけていく。とすれば、不況になれば自動的に減税になり、好景気になれば増税になる累進税は国税が望ましい。法人税はそういう意味で好不況に敏感に反応して激しく増減する法人所得を課税標準としており国税にふさわしいと考えられる。これに対して、地方自治体にとって景気対策はその任務ではなく、財政収支を赤字にしたり黒字にしたりする必要もない。市町村は固定資産税と個人住民税という比較的景気に左右されにくい税目が基幹税である。固定資産税は台帳価格に対して課税するものであり、景気が悪くなったからといってすぐに台帳価格が下がるものでもないし、個人住民税は個人所得に対して課税されるものであり、国税の所得税よりもずっと累進性は低く抑えられている。一方、都道府県は法人税同様景気変動の影響を受けやすい法人事業税と法人住民税が基幹的な税目であるために極めて不安定な税収構造となっている。
また、景気変動に左右される法人所得に対する課税のウエイトが大きいと税収の地域偏在をも招くこととなる。市町村税の税収を都道府県別に合計し、住民一人当たりの税収をランキングすると上位は東京都、大阪府、神奈川県、愛知県と並び、概ねそれぞれの経済力を反映したものとなる。これと同様に道府県税で住民一人当たりの税収をランキングするとどうなるか、上位は東京都、愛知県、福井県、大阪府、静岡県となり、神奈川県は11位となる。経済力の高い都道府県であっても、税収が逆転するのはなぜか。それは法人二税が基幹税であるが故と言える。法人二税は高所得の事業所が立ち並んでいなければ税収は上がらない。逆に高所得をあげる事業所が多ければ税収が高い伸びを示す仕組みになっているからである。福井県の税収が道府県税で見ると全国3位になる理由は原発が多くあって政策的な理由が大きい。よって不況が進んでも一人当たりの道府県税はそれほど低下せず、安定していることが要因である。
では、東京都はどうだろうか。市町村税でも、道府県税でも住民一人当たりの税収は全国1位である。しかし、東京都でも道府県税の税収の落ち込みは相当激しい。他県にはない東京都の税収源はいわゆる金融業が多く集中していることであり、現在、公的資金注入で何とか生き延びている金融機関から多くの税収が見込めないことは都にとって深刻な問題であっただろうと想像される。また、国が98年に日銀法を改正して地方税を削減し国庫納付金を増大させたことも都にとって大きな打撃である。これまでは日本銀行から国庫納付金を納めた後、残りの利益に対して日銀の本支店がある自治体が課税を行っていたのが、いまでは利益の全額が国庫納付金とされている。
こうした歪んだ地方税制については、マスコミでもあまり取り上げられることもない。大方は、自治体の財政赤字は浪費や不正というモラルの欠如がもたらせたという論調である。また、政府税制調査会でもいわゆる交付税悪者論が延々繰り返されたりしている現状もある。そうした状況が生み出したのが東京都の銀行税ではないだろうか。
3. 銀行税をめぐって
2000年2月、東京都は大手銀行を対象とする法人事業税の外形課税案を提起した。以降、この提案は都議会においても圧倒的な支持を受け、条例案は可決した。石原知事のセンセーショナルな会見はマスコミにおいても大きく取り上げられ、その後は、他の自治体においても地方税・とりわけ新税ブームとも言うべき状況を生み出すきっかけとなった。
法人事業税の外形課税化の問題は、今に始まったものではない。事業税の沿革は古く、明治11年に府県税として営業税が創設されたことから始まっており、その後、幾多の変遷を経て現在に至っているのだが、常に国の意向に左右されてきた歴史を持っており、自治体にとってこの課題はシャウプ勧告以来の悲願であり、これまでも不況に陥るたびに外形課税化の課題はクローズアップされてきた。
そもそも事業税は、事業という収益活動を行っている事実に着目して、そこに担税力を見出して課税する「応益課税」である。すなわち企業が事業を行うということは様々な公共サービスを利用し便益を受けているとの考えが根底にある。このことはその企業が赤字であるかどうかを問わない。しかし、現行の地方税法は、電気供給業、ガス供給業、保険業にあっては収入金額を課税標準としているものの、これ以外の業種はすべて所得に対して課税することとなっており、沿革とは違う「応能課税」が実態的にはされている。
ところが、本年3月、東京都の銀行税に関する裁判の第一審判決が出され、結果は原告銀行側の勝訴であった。判決内容は新聞報道で知り得た内容だけであるが、東京地裁の判決では、法人事業税は所得に対して課税がされる「応能課税」であるとして、東京都の課税には重大な誤りがあるとしている。我々は租税財政学の専門家ではないが、事業税が応能課税であるという今回の判決理由については納得できない。確かに、東京都の銀行税は、条例案を公表するまで全く秘密裏に行われており、納税者となる銀行側には全く明らかにされていなかった点や、大手銀行のみにターゲットを絞った点など、いささか乱暴な提案であることは否めない。東京地裁の判決理由に従えば、今後、地方税法第72条の19に規定されている「条例により、資本金額、売上金額、社屋の床面積もしくは価格、土地の地積もしくは価格、従業員数などを課税標準とし、又は所得と合わせ用いることができる」とされている内容は一体どうなるのか。どのような場合に所得以外の課税標準が用いられるのかが皆目わからない。今後の課税自主権を行使した地方税制を考える上で、ひとつの基準を東京地裁は示すことはできなかったのだろうか。控訴審においてはこうした視点での判決が出されることを望みたい。
4. 国から自治体への税源移譲を
2.においてすでに述べたように、都道府県税制には致命的な欠陥が存在する。都道府県財政の赤字は浪費や不正支出といったモラルの欠如がもたらしたものではない。制度上財政危機に陥るようになっているからである。どうあっても、この地方税制の歪みを解消しなければ、財政改革は達成し得ない。そのための方策として、@法人事業税の外形課税化A地方消費税のウエイトの引き上げB所得税の一部地方税への移譲をまずは実現したい。@は先に述べたように法人二税のような景気に左右される税目が基幹税とされていることの解消と応益課税としての税の明確化がその理由である。具体的な提案としてはすでに総務省自治税務局の案があり、当面所得課税との併用ではあるが、税収中立・中小企業に対する課税上の配慮等盛り込まれており、当面はこの案に賛成してもよいと思われる。ABは市町村の税源としても非常に有効なものと考える。消費税については、現行制度の持つ益税の解消等欠陥を是正したうえで地方税への比重を高めていく。そして、所得税については、課税ベースを広げたうえでその最低税率部分を地方所得税にする考えである。これらの考えは目新しいものではなく、以前から自治労の政策提言集でも提起されており、大阪府当局の新行財政計画にも改革の方向性として示されているし、字数の関係もあって、ここで詳しく記述することは避けたい。また、昨今の法定外税(新税)論争についても盛り込めなかった。別の機会で考察してみたい。
自治体の財政は、住民が相互に負担しあうものであって住民が相互に生活を保障するためのものである。自治体が再建団体に陥ってその影響を受けるのは住民である。とすれば、早急に住民とともに、これらの課題について目指すべき方向性を示していける運動のあり方も提起していく必要がある。