機関紙「自治労府職」

 2002年8月8日号外

人事院勧告特集号

この『自治労大阪』は、人事院勧告の特集号となります。勧告内容について不明な点がありましたら、自治労大阪府本部までお問い合わせ下さい。       

史上初のマイナス2.03%勧告
 平均15万円の減額

 人事院は八月八日、勧告史上初めて平均二・○三%、七、七七○円のマイナス給与改定勧告を行った。その内容は、@俸給を平均一・六八%、六、四二七円引き下げる、A配偶者にかかる扶養手当を二、○○○円引き下げ、子等のうち三人目以降を二、○○○円引き上げる、B一時金の支給月数を○・○五月削減し年間四・六五月とする、C三月期一時金を六月期と十二月期に再配分し、期末・勤勉手当の割合も民間の支給実態にあわせて変更するとした。改定の実施時期については、新給与法を遡及することなく施行日から適用とする一方、官民の給与水準を四月から均衡させるために、十二月の期末手当で必要な減額調整を行うとした。さらに地域における公務員給与のあり方の見直しについて、俸給制度と地域関連手当などの諸手当を抜本的に見直すことを報告で言及した。公務員連絡会は本年の給与勧告について「現行の公務員賃金決定システムの歴史的限界やその決定過程に労働組合の参加が保障されていない人事院勧告制度の本質的な欠陥が如実に露呈したものと言わざるを得ない」、「政府与党内部では退職手当を含めた公務員給与削減の動きが一段と強まり、今秋の確定闘争は極めて厳しいものと予想されるが、公務員連絡会全体としての体制を一層強化し、秋季闘争を全力で進めていく」との声明を出した。以下は報告と勧告の全文。

公務員連絡会
違法性強い減額調整
秋の闘いへ取り組み強化


平成十四年八月八日
衆議院議長 綿貫 民輔殿
参議院議長 倉田 寛之殿
内閣総理大臣 小泉純一郎殿
                                人事院総裁 中島忠能

 人事院は、国家公務員法、一般職の職員の給与に関する法律等の規定に基づき、一般職の職員の給与について別紙第一のとおり報告し、併せて給与の改定について別紙第二のとおり勧告するとともに、公務員制度改革が向かうべき方向について別紙第三のとおり報告する。
 この勧告に対し、国会及び内閣が、その実現のため、速やかに所要の措置をとられるよう切望する。

別紙第1
職員の給与に関する報告
 経済のグローバリゼーションや規制緩和の進展によって、民間企業はこれまで以上に厳しい競争の下に置かれている。また、近年の経済情勢の悪化に伴い経営環境が厳しさを増す中で、多くの民間企業においては、現下の厳しい状況を乗り切るため、給与抑制措置を含めた様々な経営努力が行なわれている。

 国家公務員については、労働基本権が制約されていることの代償措置として、人事院の給与勧告制度が設けられている。この勧告は、毎年、公務員の給与水準を民間企業従業員の給与水準と均衡させること(民間準拠)を基本に行ってきており、従来は民間の給与水準が毎年上昇してきたことから、公務員給与を民間給与水準にまで引き上げる役割を担ってきた。しかしながら、近年においては、厳しい経営環境の下で、民間の月例給の引上げが極めて低率・低額に抑えられるとともに、特別給(ボーナス)の年間支給月数も対前年比でマイナスとなるという状況を反映して、平成十一年から十三年までの三年間において、特別給引下げの勧告により公務員の給与が年間ベースで減少することとなったところである。このように労働基本権制約の代償措置である給与勧告は、民間の給与水準が上昇するときだけでなく民間の年間給与が減少するという状況の下においても、情勢適応の原則に基づき公務員給与を適正な水準に設定するものとして実施されてきた。
 昨年秋以来一段と厳しさを増した経済・雇用情勢の下で、民間企業の月例給は今春まで横ばい又は低下の傾向を示し、さらに、本年の春季賃金改定では、月例給の改定見送りや定期昇給の停止を行う事業所が増加したことがうかがえた。本院は、給与勧告に当たり、このような民間企業の給与等の実態について精確に調査を行った結果、多くの民間企業で給与の抑制措置が行われている状況が判明するとともに、本年四月分に支払われた給与について官民の比較を行ったところ、公務員の月例給が民間を上回っていることが明らかとなった。
 本院は、このような厳しい諸情勢の下で、職員団体や実際の人事管理に当たる各府省の人事当局から、俸給や諸手当の改定について従来にも増してきめ細かく意見聴取を行うとともに、全国各地で有識者、企業経営者や国民(国家公務員に関するモニター)から広く聴取した意見を踏まえながら、本年の給与改定について様々な角度から検討を行った。
 公務員給与は、毎年四月時点で官民給与の比較を行い、民間給与との均衡を図るものとしてきたところであり、本院は、本年の官民給与較差をはじめ給与を取り巻く諸事情を考慮した結果、民間準拠の原則に則り、公務の月例給を民間の水準まで引き下げ、いわゆる「逆較差」を解消することが適当であると判断した。さらに、月例給の配分については、本年の場合較差が△七、七七〇円と大きく、これまでの引上げの例からみて、まず月例給の中心である俸給の改定を基本とすることが適当と考え、昭和二十三年の給与勧告制度創設以来、初めて全俸給表の全俸給月額を引き下げることとし、併せて配偶者に係る扶養手当の引下げ等を行うこととした。特別給についても、四年連続で〇・〇五月分引き下げることとした。
 なお、この改定については不利益不遡及原則を踏まえ、本年四月には遡及させないが、年間における官民の給与を均衡させる観点から十二月期の期末手当で所要の調整を行うこととしている。
 これにより、職員の年間給与は、平均十五万円程度減少することとなる。これは、四年連続、かつ過去最大の引下げである。
 現下の厳しい諸情勢の下で官民の給与水準を均衡させるためには、公務員の給与水準を引き下げる必要がある。他方において公務の活力を維持するためには、実績を上げた職員に対して各府省においてそれに応じた処遇をすることが重要である。現行制度においても、成績反映の仕組みとして、特別昇給や勤勉手当(ボーナスのうちの考課査定分)の制度があり、各府省において成績主義に基づく運用が求められているが、実績を上げた職員に報いるためには、これらの制度をその本旨に則して一層活用することが必要である。本院としても、三月期の期末手当の廃止に合わせて勤勉手当の割合の増加を図ることとしているほか、特別昇給や勤勉手当についてよりめりはりのある運用の推進を図るための指針を示すこととしている。

1 給与勧告の基本的考え方
 (給与勧告の意義と役割)
 給与勧告は、労働基本権制約の代償措置として、職員に対し、社会一般の情勢に適応した適性な給与を確保する機能を有するものである。公務員給与については納税者である国民の理解と納得を得る必要があることから、本院が労使当事者以外の第三者の立場に立ち、官民給与の精確な比較を基に給与勧告を行うことにより、適正な公務員給与が確保されている。勧告が実施され、適正な処遇を確保することは、労使関係の安定を図り、能率的な行政運営を維持する上での基盤となっている。
(民間準拠の考え方)
 本院は、国家公務員の給与水準を民間企業従業員の給与水準と均衡させること(民間準拠)を基本に、単純な官民給与の平均値によるのではなく、主な給与決定要素である職種、役職段階、年齢、勤務地域などを同じくする者同士を対比させ、精密に比較(ラスパイレス方式)を行った上で、仮に公務員に労働基本権があればどのような結果となるのか等を念頭に置きつつ、社会経済情勢全般の動向等を踏まえながら勧告を行ってきている。
 民間準拠を基本に勧告を行う理由は、@国は民間企業と異なり、市場原理による給与決定が困難であること、A職員も勤労者であり、社会一般の情勢に適応した適正な給与の確保が必要であること、B職員の給与は国民の負担で賄われていることなどから、労使交渉等によってその時々の経済・雇用情勢等を反映して決定される民間企業従業員の給与に公務員給与を合わせていくことが最も合理的であり、職員をはじめ広く国民の理解と納得を得られる方法であると考えられることによる。
 従来は、「右肩上がり」の経済の中で、民間企業の月例給の水準が全体としては毎年上昇してきたことを反映して、公務員の月例給についても給与勧告により引上げの改定を連年行ってきた。本年は民間企業の賃金動向を反映して公務員給与が民間給与を上回ることとなったが、このような場合においても従前と同様に民間準拠を基本として、生じた較差の分だけ公務員給与を引き下げることが、国家公務員法第二八条の定める社会一般の情勢に適応させることに合致するものと考える。

(雇用情勢と公務員給与)
 近年の厳しい経済状況による民間企業の倒産や人員削減等の影響を受けて、雇用情勢がこれまでになく悪化する中で、失職リスクの低い公務員の給与については、失業率を考慮して民間水準より低く定めるべきとの意見もある。
 民間企業の給与の動向をみると、厳しい経済・雇用情勢の下で現実に給与水準の引下げが行われている事業所もみられるなど、その水準は時々の雇用情勢等の動向を反映したものとなっている。したがって、公務員給与を民間企業従業員の給与にあわせていくことにより、結果として公務員給与にも雇用情勢の動向が反映されるものと考えられる。

2 官民の給与の比較
(1) 職員の給与の状況
 本院は、「平成十四年国家公務員給与等実態調査」を実施し、給与法(「一般職の職員の給与に関する法律」)適用の常勤職員の給与の支給状況等について全数調査を行った。その結果、民間給与との比較を行っている行政職の職員(行政職俸給表(一)・(二)の適用者二二五、〇二九人、平均年齢四〇・九歳)の本年四月における平均給与月額は三八二、八六六円となっており、大学教授、医師等を含めた職員全体(四六三、五一八人、平均年齢四一・四歳)では四一九、三一九円となった。
 また、行政職俸給表(一)適用者の給与(三八六、三五四円、四〇・四歳)を組織区分別にみると、本府省四二八、七二四円(平均年齢三八・九歳)、管区機関四〇九、七五八円(同四〇・八歳)、府県単位機関三九〇、八三二円(同四一・六歳)、その他の地方支分部局三六六、四九六円(同三九・二歳)、施設等機関等三七三、二五三円(同四二・五歳)となっている。

(2) 民間給与の調査
ア 職種別民間給与実態調査
 本院は、企業規模一〇〇人以上で、かつ、事業所規模五〇人以上の全国の民間事業所約三四、〇〇〇(母集団事業所)のうちから、層化無作為抽出法によって抽出した七、八八六の事業所を対象に、「平成十四年職種別民間給与実態調査」を実施した。調査では、公務の行政職と類似すると認められる事務・技術及び技能・労務関係四十四職種の約三十二万人並びに研究員、医師等五十職種の約七万人について、本年四月分として個々の従業員に実際に支払われた給与月額等を実地に詳細に調査するとともに、本年は、引き続き極めて厳しい経済・雇用情勢等を踏まえ、給与の抑制措置の状況や、各企業における雇用調整の実施状況等について、例年よりも一層詳細に調査した。また、本年の調査においては、民間給与の実態をより一層的確に把握するため、全国的な規模で事業所の層化・抽出方法の見直しを行った。
 この職種別民間給与実態調査の対象となる事業所については、給与改定の状況等にかかわらず無作為に抽出しており、ベースアップの中止、定期昇給の停止、賃金カットなどの給与抑制措置を行った事業所の給与の実態も的確に把握するよう設計されている。
 職種別民間給与実態調査の調査完了率は、民間の経営環境が厳しい中においても、各民間事業所の協力を得て、本年も九三・八%と極めて高く、調査結果は広く民間事業所の給与の状況を反映したものとなっている。

イ 調査の実施結果等
 本年の職種別民間給与実態調査の主な調査結果は次のとおりである。
(ア) 本年の給与改定の状況
 (給与改定の状況)
 別表第一に示すとおり、一般の従業員についてベースアップと定期昇給を両方とも実施した事業所の割合は九・八%にとどまっており(昨年二九・七%)、ベースアップは実施したが定期昇給と区分できない事業所や定期昇給を中止した事業所、定期昇給は実施したがベースアップを中止した事業所が六八・一%を占めている。また、ベースダウンを実施した事業所は二・五%(同一・二%)と少ないものの、ベースアップも定期昇給も行わない事業所が一九・六%に上っており(同七・九%)、昨年に比べてより厳しい状況となっている。
 (初任給の状況)
 新規学卒者の採用を行う事業所は、大学卒で四五・四%、高校卒では一八・三%とほぼ昨年並みとなっており、そのうち大学卒で八四・八%、高校卒で八六・三%の事業所で、初任給は据置きとなっている。
(賃金カットの状況)
 別表第二に示すとおり、賃金カットを実施した事業所は、一般の従業員でみると四・八%、管理職(非組合員)では一一・〇%となっている。企業規模別にみると、一般の従業員ではそれほど大きな差はみられないが、管理職では企業規模が大きくなるほど賃金カットを実施した事業所の割合が増加し、企業規模三、〇〇〇人以上では二〇・〇%となっている。

(イ) 雇用調整の実施状況
 別表第三に示すとおり、民間事業所における雇用調整の実施状況をみると、厳しい経営環境を背景として、平成十四年一月以降に雇用調整を実施した事業所の割合は六〇・四%となっている。雇用調整の措置内容としては、採用の停止・抑制(三九・一%)、部門の整理・部門間の配転(二四・二%)、残業の規制(二四・一%)などの割合が多く、希望退職者の募集(八・八%)、一時帰休・休業(三・二%)、正社員の解雇(二・四%)などの厳しい措置も、割合は少ないが実施されている。これらの措置は、「正社員の解雇」を除き、昨年の実施割合を上回っている。
 このように、民間企業においては、人員の縮小、経費の縮減、残業の抑制等様々な取組を行いつつ、給与についても、多数の事業所において、ベースアップの中止やベースダウン、定期昇給の停止、賃金カットなどの抑制措置を行っていることが明らかとなった。

(3) 官民給与の比較
ア 月例給
 (官民給与の較差)
 本院は、国家公務員給与等実態調査及び職種別民間給与実態調査の結果に基づき、公務においては行政職、民間においては公務の行政職と類似すると認められる職種の者について、給与決定要素を同じくすると認められる者同士の四月分の給与額を対比させ、精密に比較(ラスパイレス方式)を行った。その結果、別表第四に示すとおり、公務員給与が民間給与を七、七七〇円(二・〇三%)上回った。
 なお、全事業所の一九・二%に当たる事業所において、支払は終わっていないが本年四月に遡って定期昇給分を含め平均一・六五%の給与の引上げが実施されることとなっている。これまで、給与引上げが遡及して行われる場合には定期昇給分を除いたベースアップ率を把握して較差に反映させてきたところであるが、本年は定期昇給及びベースアップをともに実施している事業所は全体の約一割と極めて低い割合となっていること、引上げを行っている事業所の多くは定期昇給のみを行う事業所又はベースアップと定期昇給の区分ができない事業所であることから、本年はそうした措置を行う状況にはないと考える。

 (諸手当)
 民間における家族手当の支給状況を調査した結果は、別表第五のとおりとなっており、職員の扶養手当の現行支給額と比較すれば、職員の扶養手当の支給額が民間の家族手当の支給額を上回っている。

イ 特別給
 本院は、職種別民間給与実態調査により民間の特別給(ボーナス)の過去一年間の支給実績を精確に把握し、これに職員の特別給(期末手当・勤勉手当)の年間支給月数を合わせることを基本に勧告を行っている。この比較方式は、民間の特別給の支給状況が職員の特別給の支給月数に反映されるまでに一年以上の遅れを伴うものであるが、精確性や信頼性の点で評価されており、官民の特別給の比較方法として定着している。
 本年の職種別民間給与実態調査の結果、昨年五月から本年四月までの一年間において、民間事業所で支払われた賞与等の特別給は、別表第六に示すとおり、所定内給与月額の四・六五月分に相当しており、職員の期末手当・勤勉手当の年間の平均支給月数(四・七〇月)が民間事業所の特別給を〇・〇五月分上回っている。

3 公務員給与を取り巻く諸情勢
(1) 最近の賃金・雇用情勢等
ア 民間賃金指標の動向
 「毎月勤労統計調査」(厚生労働省、事業所規模三〇人以上)によると、本年四月の所定内給与は、昨年四月に比べ一・〇%減少している。また、所定外給与も一・四%減少しており、これらを合わせた「きまって支給する給与」は一・〇%の減少となっている。なお、パートタイム労働者を除く一般労働者では、本年四月の所定内給与及び「きまって支給する給与」は、ともに昨年四月と同水準となっているが、五月の所定内給与は前年同月比で〇・八%減少している。

イ 物価・生計費
 本年四月の消費者物価指数(総務省、全国)は、昨年四月に比べ一・一%下落しており、勤労者世帯の消費支出(同省「家計調査」、全国)は、昨年四月に比べ名目〇・四%の減となっている。
 本院が家計調査を基礎に算定した本年四月における全国の二人世帯、三人世帯及び四人世帯の標準生計費は、それぞれ一六一、二二〇円、一九六、九七〇円及び二三二、七五〇円となっている。また、「全国消費実態調査」(同省)を基礎に算定した同月における一人世帯の標準生計費は、一二一、六八〇円となっている。

ウ 雇用情勢
 本年四月の完全失業率(総務省「労働力調査」)は、昨年四月の水準を〇・四ポイント上回り、五・二%(季節調整値)となっている。
 また、本年四月の有効求人倍率及び新規求人倍率(厚生労働省「一般職業紹介状況」)は、昨年四月に比べると、それぞれ〇・一〇ポイント、〇・一七ポイント低下して〇・五二倍(季節調整値)、〇・九〇倍(同)となっている。

エ 四現業職員の賃金改定の動向
 一般職の国家公務員約七十八万人の約四割を占め、給与法適用職員と同じ公務組織で働く郵政、林野等四現業の職員約三十万人については、四月十九日の国営企業給与関係閣僚会議において、各当局側から本年度の賃金水準を実質的に引き下げる必要があると考えているが、民間企業の賃金交渉妥結状況等を考慮すると、現段階では具体的に回答できる状況にはない旨の回答を行いたいとの申出がなされ、了承された。これを踏まえ、同月二十三日、当局側は労働側に上述の内容の回答を行い、労働側は六月七日に中央労働委員会に調停申請を行うなど、例年に比べ決着が大幅に遅れている。

(2) 各方面の意見等
 本院は、公務員給与の改定を検討するに当たって、厳しい諸情勢を踏まえ、昨年を上回る規模で、東京のほか全国三十七都市において有識者、中小企業経営者等広く各界との意見交換を行ったほか、「国家公務員に関するモニター」(五〇〇人)を通じて、広く国民の意見の聴取に努めた。
 各界との意見交換においては、公務員給与の決定方法や水準については、妥当とする意見が多数みられたが、中小企業の実態をより反映すべきであるとの意見もあった。また、各地域に勤務する公務員の給与がその地域の民間給与と比較して高すぎるとの批判も出された。このほか、公務員給与においても能力・実績主義を進めるべきとの意見が大勢であったが、実際の評価が難しいのではないかという意見もみられたほか、年功的な職能給から仕事給への転換が民間企業における潮流であり公務もそれを踏まえた見直しを行う必要があるとの指摘もあった。
 また、前記モニターにおいては、国家公務員の給与の決定方法として、民間準拠方式が妥当とする意見が約六六%を占めたほか、公務員の給与を決定するに当たって重視すべき要素(複数回答)としては、「職員本人の実績や能力」(九四・七%)、「仕事の種類や内容」(八六・三%)とする意見が高い割合となっている。

4 本年の給与の改定
(1) 改定の基本方針
 前記のとおり、本年四月時点で、公務員の月例給与が民間給与を七、七七〇円(二・〇三%)上回っていることが判明した。これは、厳しい経営環境の下、昨年度後半において民間給与の水準上昇がみられなかったこと、本年の春季賃金改定期においても、多数の民間事業所でベースアップの中止、定期昇給の停止、賃金カットなどの給与抑制措置がとられたことなどによるものと考えられる。
 給与勧告を通じて官民給与の精確な比較により適正な公務員給与水準を維持・確保することは、労働基本権制約の代償措置として、昨年の給与法改正法案に対する国会の附帯決議をはじめ、これまで各方面から強く求められているものであり、このような機能は民間の給与水準が上がるときだけでなく、下がる場合も同様に働くべきものである。
 本年においては、公務員給与が民間給与を上回ることとなったが、本院としては、官民較差の大きさ等を考慮し、これに見合うよう月例給の引下げ改定を行う事が適切であると判断した。
 なお、公務員の給与水準を引き下げる方法として、毎年行われる昇給を延伸するとの考え方もあるが、昇給率の高い若手・中堅職員に専ら負担を強いること、昇給は良好な成績を上げた職員に対する給与制度上の措置であり、官民比較の結果として生じた較差を埋めるための方法として用いることは適当でないことなどを考慮し、今回の措置としては適当ではないと考えた。
 月例給の引下げ改定については、本年における官民較差の大きさ等を考慮し、基本的な給与である俸給表を引下げ改定するとともに、民間における手当の支給実態等にかんがみ、扶養手当改定などを行うこととした。
 特別給については、職種別民間給与実態調査の結果に基づき、昨年一年間の民間の特別給の支給月数に見合うよう、〇・〇五月分引き下げる必要があると判断した。
 また、別表第七に示すとおり、民間の賞与の年間支給回数が二回の事業所がほとんどである実態を踏まえ、三月期の期末手当を廃止し、その支給月数は六月期と十二月期に再配分する。

(2) 改定すべき事項
ア 俸給表
(行政職俸給表)
 官民の給与比較を行っている行政職の職員の俸給表(行政職俸給表(一)・(二))については、本年の官民較差がマイナスとなったことから、すべての級のすべての俸給月額について引下げ改定を行うこととする。
 改定に当たっては、世代間の給与配分の適正化の必要性にも留意する一方で、給与勧告制度創設以来初めての引下げ改定であることから労使双方の意見等も十分に踏まえることとし、各俸給月額について級ごとに同率の引下げとすることを基本とする。ただし、官民の初任給の動向や民間の管理職給与の動向等を踏まえ、初任給付近の引下げ率を若干緩和するとともに、管理職層について平均をやや超える引下げ率とする。
 この改定により、俸給表の俸給月額(本年四月現在平均三二八、四七三円)は、平均六、四〇八円(二・〇%)の減となる。
 なお、再任用職員の俸給月額についても、再任用職員以外の職員の俸給月額の改定に準じた改定を行う。

(行政職以外の俸給表)
 行政職以外の俸給表についても、行政職俸給表との均衡を基本に、所要の改定を行うものとする。
 指定職俸給表については、従来から参考としている民間企業の役員給与との間に差が認められるものの、諸般の事情を勘案し、行政職俸給表の管理職層と同程度の引下げ改定を行う。
 なお、任期付研究員俸給表(招へい型)については、一般職特定任期付職員俸給表との均衡にかんがみ、枠外の俸給月額を一般職職員の最高額まで支給できるよう措置を講ずる。

イ 扶養手当
 職員の家計負担の実情、女性の社会進出などに伴う家族の就業形態の変化及びこれらに伴う民間における配偶者手当て見直しの動き等を考慮すれば、今後、扶養手当の在り方の見直しを検討することが必要となるものと考えるが、当面は、配偶者に係る支給月額を縮小するとともに、子等に係る支給月額を重視する方向で改定を行うこととする。
 このため、本年の改定に当たっては、民間の支給状況も考慮し、配偶者に係る支給月額を二、〇〇〇円引き下げるとともに、子等を扶養する職員の家計負担の実情や配偶者に係る手当額を引き下げることにより影響を受ける世帯全体の生計費負担に配慮して、配偶者以外の扶養親族のうち三人目以降の子等に係る支給月額を二、〇〇〇円引き上げることとする。
 この改定により、行政職の職員の扶養手当の平均受給額一二、七七六円は、六一八円(四・八%)の減となる。

ウ 期末手当・勤勉手当等
 期末手当・勤勉手当については、本年四月までの一年間における民間の特別給の支給割合との均衡を図るため、支給月数を〇・〇五月分引下げ、四・六五月分とすることとし、三月期の期末手当から差し引くこととする。
 また、年間支給回数の変更に伴い、三月期の期末手当に相当する特別給を民間賞与における上半期・下半期の割合等を考慮して、六月期および十二月期に配分することとする。本年度については、給与の遡及改定を行わないこと、官民給与を均衡させるための所要の調整を十二月期の期末手当において行うこととしていることから、三月期の期末手当のうち〇・三月分を十二月期に配分することとするが、十二月期の期末手当の額は、支給月数に応じた額に所要の調整を行った額とする。平成十五年度においては、残りの〇・二月分の期末手当に相当する特別給を六月期に配分するとともに、民間賞与の支給状況等を参考としつつ、六月期及び十二月期における期末手当・勤勉手当の割振りを定め直すこととする。
 指定職俸給表適用職員の期末特別手当、再任用職員の特別給、任期付研究員及び特定任期付職員の期末手当についても同様に支給月数の引下げ、期別の再配分等を行うものとする。

エ 委員、顧問、参与等の手当
 委員、顧問、参与等の手当について、指定職俸給表の改定状況等を踏まえ、現行の支給限度額に関する所要の改定を行う。
 他方、政府に設置される委員会等の委員の中には、きわめて高度な能力・識見等を必要とし、現行の支給限度額ではそれに見合う人材の確保が困難なケースが生じてきていることから、現行の支給限度額により難い特別の事情があると判断される場合には、一般職の最高号俸である指定職十二号俸の年間給与を日額に換算した額を参考として定める額を超えない範囲内において本院の承認を得て手当を支給できることとする。

オ その他
 医師に対する初任給調整手当について、所要の改定を行う。
 特例一時金(年間三、七五六円(月当たり三一三円))については、廃止することとする。
 俸給の調整額の平成八年改正に係る経過措置については、本年度は俸給が引下げ改定されることとなったことを踏まえ、当該措置を廃止し、新たな措置を講じる。
 なお、俸給の月額の引下げに伴い、調整手当など俸給の月額を算定基礎としている諸手当は、はね返りにより行政職の職員の場合、平均で四一二円の減となる。
 また、自宅に係る住居手当については、創設当時の意義が薄れてきていることから、その在り方について速やかに検討を進める。

(3) 改定の実施時期等
 本年の給与改定は、公務員の給与水準を引き下げる内容の改定であるため、この改定は、官民給与を均衡させるための所要の調整措置を講じた上、遡及することなく実施することとする。なお、引下げ改定に伴う日割り計算等の事務の複雑化を避けるため、この改定は、この改定を実施するための法律の公布の日の属する月の翌月の初日(交付の日が月の初日であるときは、その日)から実施することとする。
 官民給与は四月時点で比較し均衡を図ることとしており、遡及改定を行わない場合であっても四月からの年間給与で実質的な均衡を図るための調整を行うことが情勢適応の原則にもかなうものである。
 具体的な調整方法としては、この改定の実施後速やかに調整が行われる必要があること、弾力的な調整を行う場合は月例給より特別給としての期末手当が適当と考えられることなどから十二月期の期末手当の額において、本年四月からこの改定の実施の日の前日までの間の給与について所要の調整措置を講ずることとする。
 なお、俸給表の切替えに伴う調整措置としては、改定後の俸給表適用の日前に職務の級に異動があった職員等の号俸等について逆転防止のために必要な措置を行う。

5 地域における公務員給与の在り方
 近時、各地域に勤務する公務員の給与について、その水準がその地域の民間給与に比べて高いのではないかとの指摘が多くなっている。官民の給与は、精確な調査・比較を通じ、全体としては均衡が図られているが、公務員給与は広く国民の理解を得られるものであることが必要であることから、地域ごとの公務員給与の在り方について、その地域の民間給与をより反映していくことに配慮する必要がある。
 本院は、昨年の給与勧告の際の報告において、このような問題認識に立って、民間給与の実態把握及び公務部内の給与配分の在り方について幅広く見直しを行うことを表明し、検討を行ってきた。本年は、各地方公共団体の人事委員会の協力を得て、前記のとおり平成十四年職種別民間給与実態調査について、より的確に民間給与の実情等を把握するため標本事業所の層化・抽出方法の見直しを行った。
 また、この問題については、本年六月二十五日に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針二〇〇二」において、「人事院や地方公共団体の人事委員会等は、地域毎の実態を踏まえて給与制度の仕組みを早急に見直すなどの取組みを行う必要がある。」とされ、内閣より人事院にもその旨の要請がなされたところである。
 公務部内の給与配分の在り方の見直しについては、本院は、従来より調整手当の支給地域や支給割合の見直しなど地域間の給与配分の適正化に努めてきたところであるが、今後、各地域における公務員給与の在り方の見直しを給与配分の適正化の観点から適切に進めていくためには、本府省と地方の配分や世代間の配分等にも目を配りながら、俸給制度や地域関連手当をはじめとする諸手当の在り方の抜本的な見直しを行う必要がある。
 この問題は、公務の労使など関係者が多く、また、各府省の人材確保や人事異動への配慮も必要であるほか、地方公共団体にも影響することなどから、幅広く深い検討を早急に必要とするものであり、本院としては、学識経験者を中心とする研究会を直ちに設置し、関係各方面と幅広く意見交換しながら、早急に結論を得ることができるよう、具体的な検討を進めていくこととする。

6 公務員給与制度の基本的見直し
 我が国を取り巻く社会経済情勢が大きく変化し、右肩上がりの成長を前提とすることができなくなっている状況の下で、多くの民間企業では、年功的運用に流れやすい職能給制度の見直し、新たな仕事給や役割給への転換など、人事・賃金制度改革の取組が進められている。
 公務員給与については、昨年十二月の公務員制度改革大綱で、「能力等級制度」を前提とした新給与制度の導入を図ることとされ、その具体化の検討が進められている。この問題については、本院は、厳しい経営環境の下における民間企業の近年における賃金制度見直しの取組等を十分に踏まえつつ、各府省において年次・年功にとらわれた運用に陥ることがないよう、職員の職務・職責を基本とし、その能力・業績等が十分反映される給与制度を構築していく必要があると考える。
 本院は、公務員の給与等勤務条件の決定については、法定すべき基本的事項は国会及び内閣に対する勧告によって、法律の委任に基づく具体的基準は人事院規則等の制定・改廃によって、労働基本権制約の代償機能を適切に果たすよう努めてきた。昨年十二月の公務員制度改革大綱においても、現行の労働基本権制約を維持することとされており、本院としては、労働基本権制約の代償機能を担う機関として、引き続きその責務を万全に果たしていくこととしたい。
 公務員給与制度の見直しに当たっては、年功的運用により硬直的になっているといわれる俸給について、俸給表の級構成や昇給の在り方などを見直すとともに、仕事や役割に応じた給与の新設、在職期間の長期化に対応する給与上の措置の導入、勤勉手当の在り方の見直し、地域間の給与配分の在り方などの諸課題について、早急に検討していく必要がある。
 なお、本年六月には、人事制度全般についての基準化・事務簡素化等の一環として、給与制度についても大幅な基準化を図り、初任給(中途採用を含む。)、昇格、昇給等の際の給与決定に当たり、あらかじめ本院が定めた基準に合致する場合には、本院の事前の協議・承認を不要とし、各府省限りで行うことができるようにした。また、抜擢人事についても各府省の意見を聴取し、本府省の課長・室長ポストに就いた者については経験年数等のいかんにかかわらず当該ポストにふさわしい処遇を各府省の責任において行うことができるようにしたところである。これ以外の抜擢人事の仕組みや俸給の特別調整額の支給の在り方についても、関係者の意見を聴取しつつ整備することとしたい。
 今回基準化ができなかったものについても、事例の蓄積をみるとともに、各府省当局など関係者からの意見等を踏まえながら、適切な基準の整備を図っていくこととする。
(独立行政法人等の給与水準の把握)
 国の事務・事業の独立行政法人化にともなって、給与法の適用を受ける非現業一般職国家公務員から、労使交渉により給与が決定される独立行政法人の役職員に移行する者が増加している。非現業公務員と独立行政法人職員の給与決定システムが異なる以上、給与水準等に相違が生ずることは当然であるが、そのばらつきがあまりに大きく、独立行政法人の給与水準が事実上大幅に上昇した場合などには、非現業公務員の給与の制度や運用にも影響を及ぼすとともに、人事交流等の障害となることも懸念される。今後とも、国と独立行政法人あるいは特殊法人等との間の人事交流は必要であり、円滑な交流に資するよう両者間の給与水準に一定の均衡が必要であること、国が運営経費の負担を行っているこれら法人等の給与の在り方については納税者として国民の関心も高いことなどを踏まえると、これらの法人等の役職員の給与水準について、国として一体的に把握していくことが必要であると考えられる。
(人事・給与等業務の電子化の推進)
 政府全体として電子政府を実現するための諸施策が進められる中、本院としては、関係府省と連携協力して、職員から各種届出・申請の受付を含めた人事・給与等業務のシステム化と、これと一帯となった各府省共通データベースの構築を推進する。また、人事・給与等に関する各種届出、申請、通知等について、電子化に適合するものとするための人事院規則等の整備を図り、各府省の人事・給与等業務の電子化を支援することとする。

7 給与勧告実施の要請
 人事院の給与勧告制度は、労働基本権を制約されている公務員の適正な処遇を確保するため、情勢適応の原則に基づき公務員の給与水準を民間の給与水準に合わせるものとして、長年の経緯を経て国民の理解と支持を得ながら公務員給与の決定方法として定着している。
 公務員は、本府省をはじめ離島やへき地を含め全国津々浦々で、国民生活の維持・向上、生命・財産の安全確保等の職務に精励している。特に、近年は行政ニーズが増大するとともに複雑化する中で、個々の職員が高い士気をもって困難な仕事に立ち向かうことが求められており、公務員給与は、そのような職員の努力や成果に的確に報いていく必要がある。
 本年の改定は、月例給の引下げ等を内容とするものとなったが、民間準拠により公務員給与を決定する仕組みは、長期的視点から見ると公務員に対し国民から支持される納得性の高い給与水準を保障し、前述のような職員の努力や成果に報いるとともに、人材の確保や労使関係の安定などを通じて、行政運営の安定に寄与するものである。
 国会及び内閣におかれては、このような人事院勧告制度の意義や役割に深い理解を示され、別紙第二の勧告どおり実施されるよう要請する。

声明
 1、人事院は本日、政府と国会に対して、月例給を七、七七〇円、二・〇三%引き下げる勧告史上初のマイナスベア勧告と一時金を〇・〇五月削減する給与勧告を行った。
 2、二〇〇二人事院勧告期の取り組みに当たってわれわれは、厳しい春闘結果を踏まえつつも、公務員労働者の生活を維持・防衛するための給与水準を確保することを基本目標に据え、従来の枠組みを超えた十分な交渉・協議と合意に基づく給与勧告を目指して、ぎりぎりの段階までねばり強い取り組みを進めてきた。
 本年の給与水準に関わる勧告は、@民間賃金の動向を反映したものとはいえ月例給が大幅なマイナスとなったこと、A最小の月数とはいえ四年連続で一時金が引き下げられたことなど、われわれの切実な要求に応えず生活に大きな影響を与えるものとなったことは極めて不満であり、遺憾な内容である。しかしながら、われわれの賃金・労働条件が民間準拠の枠組みのもとで決定されるシステムであり、現下の厳しい社会経済情勢や民間賃金の動向と実勢を正確に反映したものであれば、われわれとしてもこの水準勧告については受け止めざるを得ないものと判断する。
 あわせて本年勧告された、実質的に四月に遡る減額調整措置については、不利益不遡及の原則に照らして違法性の疑いが強く、その勧告を明確な法的根拠を説明することなく人事院が一方的に行ったことは極めて不当であると批判せざるを得ない。この勧告は、単に経済的利害の問題に止まらず公務員労働者の労働債権の侵害であり、このことが民間等に与える影響も考慮すれば、われわれがこれを了解することはできない。
 配分について、俸給表を一律的な引き下げとしたことや諸手当の改定内容をわれわれの要求を踏まえたものとしたこと、育児休業の男性取得について引き続き検討するとしたことなどは、ねばり強い交渉・協議の結果といえるが、決して十分ではない。
 給与制度見直しの報告については、公務員制度改革大綱による新人事制度の検討との関連性の明確化を含め、われわれとの交渉・協議に基づく慎重かつ透明な検討作業を求めていかなければならない。また、本年は政府の公務員制度改革大綱に対応する形で公務員制度改革に関する報告が行われ、セクショナリズムの是正、キャリアシステムの見直し、短時間勤務制や非常勤制度の整備などが提言されているが、問題はそれをいかに具体的に実行していくかであり、人事院には文字通り「オープンな議論」とわれわれとの十分な交渉・協議を強く求めておきたい。
 3、以上のことから本年の給与勧告は、社会経済情勢の大きな変化のもとで、民間から半年以上も遅れて年末に給与決定が行われるという現行の公務員の決定システムの歴史的限界やその決定過程に労働組合の参加が保障されていない人事院勧告制度の本質的な欠陥が如実に露呈したものといわざるを得ない。われわれは、このことを十分踏まえつつ、今後の取り組みを進めていかなければならない。
 われわれの闘いは、本日をもって秋の確定闘争の段階に移行することとなる。その取り組みは、国民に一方的に痛みを押しつける小泉構造改革路線が本格的に進められるもとでの極めて厳しいものとなることが予想される。政府・与党の内部では、退職手当を含めた公務員給与削減の動きが一段と強まりつつあり、そのことを十分警戒しつつ秋季闘争を進めなければならない。
 こうした情勢を踏まえつつわれわれは、政府が本年の給与改定の方針を検討するに当たって、水準勧告を無視した改定や遡及減額調整措置を行わないことなどを含め、公務員連絡会と十分交渉・協議し、合意することを強く求めていくこととする。また、これから本格化する地方自治体の確定闘争、独立行政法人や政府関係特殊法人等の闘いがさらに困難なものとなることを踏まえ、公務員連絡会全体としての態勢を一層強化し、調停不調に終わった国営企業の仲間や連合とも連携しながら、本年の秋季闘争を全力で進めていくこととする。
 同時にわれわれは、この秋季年末段階で重要な局面を迎える公務員制度改革取り組みを通じて、労働組合が参加する賃金・労働条件決定制度の確立を目指した本格的な取り組みを進め、「一千万署名」の大きな国民的な力を背景に、政府に対して大綱の撤回と民主的公務員制度の実現、労働基本権の確立などを強く求めていかなければならない。
二〇〇二年八月八日
公務員労働組合連絡会

別紙第2

 勧告
 次の事項を実現するため、一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第九五号)、一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律(平成九年法律第六十五号)及び一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律(平成十二年法律第一二五号)を改正することを勧告する。

1 一般職の職員の給与に関する法律の改正
(1) 俸給表
  現行の俸給表を別記第一のとおり改定すること。
(2) 諸手当
 ア 初任給調整手当について
 (ア) 医療職俸給表(一)の適用を受ける医師及び歯科医師に対する支給月額の限度を三一一、四〇〇円とすること。
 (イ) 医療職俸給表(一)以外の俸給表の適用を受ける医師及び歯科医師で、医学又は歯学に関する専門的知識を必要とする官職にあるものに対する支給月額の限度を五〇、八〇〇円とすること。
 イ 扶養手当について
 (ア) 配偶者に係る手当の月額を一四、〇〇〇円とすること。
 (イ) 配偶者以外の子等の扶養親族のうち三人目からの手当の月額を一人につき五、〇〇〇円とすること。
 ウ 期末手当、勤勉手当及び期末特別手当について
 (ア) 平成十四年度の期末手当及び期末特別手当の支給割合
 a 平成十四年十二月及び平成十五年三月に支給される期末手当の支給割合をそれぞれ一・八五月分及び〇・二月分(特定幹部職員にあっては、それぞれ一・六五月分及び〇・二月分)とし、平成一四年十二月及び平成十五年三月に支給される期末特別手当の支給割合をそれぞれ一・八月分及び〇・二五月分とすること。
 b 再任用職員については、平成十四年十二月及び平成十五年三月に支給される期末手当の支給割合をそれぞれ〇・九五月分及び〇・二月分(特定幹部職員にあっては、それぞれ〇・八五月分及び〇・二月分)とし、平成十四年十二月及び平成十五年三月に支給される期末特別手当の支給割合をそれぞれ〇・九五月分及び〇・二月分とすること。
 (イ) 平成十五年度以降の期末手当、勤勉手当及び期末特別手当の支給時期及び支給割合
 a 期末手当及び期末特別手当について、三月に支給しないこととすること。
 b 六月及び十二月に支給される期末手当の支給割合をそれぞれ一・五五月分及び一・七月分(特定幹部職員にあっては、それぞれ一・三五月分及び一・五月分)とし、六月及び十二月に支給される勤勉手当の支給割合をそれぞれ〇・七月分(特定幹部職員にあっては、それぞれ〇・九月分)とし、六月及び十二月に支給される期末特別手当の支給割合をそれぞれ一・七月分及び一・八月分とすること。
 c 再任用職員については、六月及び十二月に支給される期末手当の支給割合をそれぞれ〇・八五月分及び〇・九月分(特定幹部職員にあっては、それぞれ〇・七五月分及び〇・八月分)とし、六月及び十二月に支給される勤勉手当の支給割合をそれぞれ〇・三五月分(特定幹部職員にあっては、それぞれ〇・四五月分)とし、六月及び十二月に支給される期末特別手当の支給割合をそれぞれ〇・九月分及び〇・九五月分とすること。
 エ 委員、顧問、参与等の職にあたる非常勤職員の手当について
 一般職の職員の給与に関する法律第二十二条第一項の委員、顧問、参与等の職にある非常勤職員に対する手当の勤務一日についての支給額の限度を三八、四〇〇円(その額により難い特別の事情があると人事院が認める場合にあっては、一〇〇、〇〇〇円)とすること。
(3)特例一時金について
 特例一時金は、廃止すること。
2 一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律の改正
(1)俸給表
 ア 現行の俸給表を別記第二のとおり改定すること。
 イ 第一号任期付研究員について、一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律第六条第四項の規定により決定できる俸給月額に、一般職の職員の給与に関する法律の指定職俸給表十二号俸の額に相当する額を加えること。
(2)期末手当について
 ア 平成十四年度の支給割合
 平成十四年十二月及び平成十五年三月に支給される期末手当の支給割合をそれぞれ一・八月分及び〇・二五月分とすること。
 イ 平成十五年度以降の支給割合
 六月及び十二月に支給される期末手当の支給割合をそれぞれ一・七月分及び一・八月分とすること。
3 一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律の改正
(1)俸給表
 現行の俸給表を別記第三のとおり改定すること。
(2)特定任期付職員の期末手当について
 ア 平成十四年度の支給割合
 平成十四年十二月及び平成十五年三月に支給される期末手当の支給割合をそれぞれ一・八月分及び〇・二五月分とすること。
 イ 平成十五年度以降の支給割合
 六月及び十二月に支給される期末手当の支給割合をそれぞれ一・七月分及び一・八月分とすること。
4 改定の実施時期等
(1)改定の実施時期
 一から三までの改定は、この勧告を実施するための法律の公布の日の属する月の翌月の初日(公布の日が月の初日であるときは、その日)から実施すること。ただし、1の(2)のウの(イ)、2の(2)のイ及び3の(2)のイについては、平成十五年四月一日から実施すること。
(2)平成十四年十二月に支給される期末手当及び期末特別手当の特例
 ア 平成十四年十二月に支給される期末手当又は期末特別手当の額は、(ア)に定める額から(イ)に定める額と(ウ)に定める額との差額に相当する額を減じた額((ウ)に定める額が(イ)に定める額を超える場合には、その超える額に相当する額を(ア)に定める額に加えた額)とすること。この場合において、(ア)に定める額が当該差額に相当する額を超えないこととなる職員には、支給しないこととすること。
 (ア)期末手当基礎額又は期末特別手当基礎額に、平成十四年十二月に支給される期末手当又は期末特別手当の支給割合を乗じて得た額に、在職期間別の割合を乗じて得た額
 (イ) 平成十四年四月一日から一から三までの改定の実施の日の前日までの間(以下「調整期間」という。)において在職した期間について受けた俸給、初任給調整手当及び扶養手当並びにそれらの改定に伴い額が変動する給与の合計額
 (ウ) 一から三までの改定後の俸給、初任給調整手当及び扶養手当を基礎として調整期間において在職した期間について算定した俸給、初任給調整手当及び扶養手当並びにそれらの改定に伴い額が変動する給与の合計額
 イ 調整期間において俸給表の適用を受けない国家公務員として在職した期間その他の期間がある職員について、アの額の算定に関し所要の措置を講ずること。
 ウ その他平成十四年十二月に支給される期末手当及び期末特別手当の特例に関し必要な措置を講ずること。

別紙第3
公務員制度改革が向かうべき方向について
 はじめに
 グローバル化、IT化、市場原理の導入という大きな潮流が、社会の様々な場面に決定的な影響を与えつつある。こうした動きは、行政を担う公務員の在り方についても、大胆な変革を迫っており、公務員制度改革が喫緊の課題となっている。
 現在の公務員制度の基本法である国家公務員法は、新しい憲法の下、昭和二十二年、天皇の官吏から国民全体の奉仕者としての公務員への改革を目指して、「公務の民主的且つ能率的な運営を保障する」ことを基本理念として制定された。翌二十三年には、公務組織における労働運動の高まりを受けて労働基本権が制約され、その代償措置として情勢適応の原則(官民比較)に基づく人事院勧告制度が導入された。しかし、戦後の混乱と我が国の雇用慣行等の中で、国家公務員法の予定した職階制が採用されないなど、その理念を具体化させるための諸施策は完全に実施されるには至らなかった。そのため、キャリアシステムなど戦前の官僚制度の下でのシステムが、運用として引き続き行われ、また政に対する官の優位の風潮が戦後も残るなど民主化と能率化という国家公務員法の理念が十全に実現されるところとならなかった。
 グローバル化や経済社会の成熟等に伴う公務員制度上の今日的課題への対応は不可欠ではあるが、同時に、現在進められている公務員制度改革においては、戦後改革が不十分であったために残った特権主義的な官僚制度の残滓などの戦前期の非民主的な行政組織の体質をぬぐい去り、公務員制度が本来的に目指す民主的で能率的な理念の実現を図ることが求められている。
 人事院の果たしてきた役割と反省
 人事院は、昭和二十三年に設立されて以来、中央人事行政機関として、公務員の中立公正の確保と労働基本権制約の代償機能という責務を担ってきた。中立公正の確保については、公務員が政治的な動きに左右されず全体の奉仕者として職務を遂行できるよう努めてきており、代償機能については、給与勧告に代表されるように、労働基本権が制約されている公務員の適正な処遇の確保について着実にその役割を果たしてきた。
 昨今、国民の公務員に対する批判が高まり、公務員制度改革が課題とされている中で、公務員人事管理を所掌する人事院自らも戦後五十年果たしてきた役割を十分検証し、過去の反省を踏まえた上で新たな公務員制度の構築に取り組むことが求められている。
 人事院のこれまでの取組を振り返ると、反省すべき点としてまず挙げられるのは、国家公務員法について当初重要な柱であると考えられていた職階制が実現されないまま暫定的な措置で対応し、結果的に国家公務員法全体の見直しを行わなかったことである。もちろんその時々において、定年制の導入、勤務時間法や官民人事交流法など民間の状況等を調査する中で必要な法整備を行ってきたが、国家公務員制度の体系性、理念の徹底という点で問題を残した。
 次に、制度の趣旨と乖離した運用、例えば、国家公務員法自体は給与や昇任について能力実績主義を原則としているにもかかわらず、各府省の年功的な運用を人事院としても黙視するなど、各府省の人事管理の実情を尊重するあまり、中央人事行政機関としての独自性に欠けるところがあったことが挙げられる。制度の理念とは異なった運用が定着すると、制度化されていないだけに問題点があいまいになり、改革することも難しくなる。制度は良いが運用が問題という意識は制度改革のインセンティブを少なくしてきた。
 また、人事制度は、給与など公務員個人の生活に直接関係するだけに、他の行政分野以上に継続性が要請されるが、継続性を尊重するあまり施策が保守的になり中長期的視野から大胆に改革していくという姿勢が弱かったという点も挙げなければならない。
 さらに、任用、給与等の制度運用に当たって、中立公正の確保や適正な勤務条件の設定の観点から個別の承認・協議事項を設けてきたが、長年の実績の積み重ねによりその必要が薄れてきたものまで過度に懸念し、合理化、簡素化等の適切な対応措置が遅れたことも挙げられる。
 総じて言えば、これまで我が国の公務員についての社会的な評価が高かったこともあり、人事行政の継続性、安定性あるいは運用の実効性を重視し、その時々の課題に対しては、部分的、対症療法的に対応してきたと言うべきであろう。
 人事院としては、以上の反省を踏まえつつ、まず国民の公務員に対する批判を厳しく受け止めたうえで、国家公務員法の全面改正を視野に入れ、前述した古い体質の払拭と現代的な課題に機動的に対応できる公務員制度の確立に取り組んでいきたい。
 公務員制度改革についてはオープンな議論が必要
 現在、公務員制度改革については、内閣官房行政改革推進事務局公務員制度等改革推進室において検討が進められており、国家公務員法改正案について平成十五年中を目標に国会提出、関係法律案の立案及び下位法令の整備は平成十七年度末までに計画的に実施される予定となっている。
 公務員制度は、公務員だけでなく、行政の在り方、国民生活に重大な影響を与えるものであり、その改革案については、将来を見据えた幅広い見地から検討される必要がある。また、改革された制度が国民から支持され、実効性を持って運用されるためには、各界有識者を含め各方面で広くオープンに議論され、関係者の十分な納得を得ることが不可欠である。人事院としても、そうした広範な議論に資するため、まず公務員制度の抱えている問題点を分析した上で、あるべき公務員制度改革の方向性と、公務員制度等改革推進室で検討中の公務員制度改革案に対する人事院の意見を表明する。

一、公務員制度に対する国民の批判と課題
 近年、公務員制度に関し国民から様々な疑問や批判が投げかけられている。行政の信頼確保のためには、国民の批判に正面からこたえることがその出発点であり、公務員制度改革に当たってはまずこれらの批判を受け止め、改革に向けた取組の共通認識とする必要がある。
ア、幹部公務員の不祥事 〜公務員倫理の低下〜
 これまで多くの国民から、公務員は低い給料で、国のために「滅私奉公」しており、汚職などは極めて例外的な個人の問題とみられてきた。しかし、リクルート事件以来の相次ぐ幹部公務員の不祥事は、単に個人の問題としてではなく、その原因が公務員制度に内在するのではないか、閉鎖性や特権的意識を生みやすい構造的な問題があるのではないかという疑問を投げかけている。さらに外務省にみられる最近の不祥事は、その疑問を一層強いものとしている。
イ、公務員の行政の能力についての疑問 〜行政の失敗〜
 これまで公務員は極めて難しい試験に合格し、全体の奉仕者として何が公益かを判断できるエリートであり、選挙への利害を考えざるを得ない政治家より公務員に行政を任せておいた方が安心であるという風潮があった。しかし、様々な分野で行政の失敗とされる事例が指摘され、将来の生活がますます不透明になる中で、国民の間には、公務員の不祥事もあいまって、これまでのように公務員に自分達の進路を任せていてよいのだろうかという不安が生まれてきた。薬害エイズ、BSE(牛海綿状脳症)対策など行政の過ちに対しては、国民の厳しい批判がある。
ウ、セクショナリズム 〜公務組織の閉鎖性と省益の自己目的化〜
 公務組織は、職員の採用から退職後の再就職の斡旋に至るまで採用時の府省が一括管理している。また、中途採用や民間との交流は例外的であり、学卒者を先輩が徒弟的に育成することにより各府省独自のカラーが生まれ、より閉鎖的なサブカルチャーを生み出している。このような同質性の高い閉鎖的組織においては、組織の価値観、慣行が優先されており、それらが国民の常識との乖離を生じさせている。
 こうした公務組織の閉鎖性は、省益や所属集団の利益を自己目的化した思考、行動様式を醸成しやすく、セクショナリズムを生じさせている。
 その結果、必要のなくなった組織や事業がいつまでも存続したり、複数の府省にかかわる政策の調整がつかず、政府として一体となった迅速な対応が阻害されているとの批判がある。
エ、キャリアシステム 〜特権的意識の醸成〜
 公務員の人事管理においては、採用時の一回限りの試験結果で幹部候補者の選抜を行い、採用同期の者は一定年齢までほとんど差を付けない早い昇進と遅い選抜によるいわゆる「キャリアシステム」が採られている。
 キャリアシステムは、国家公務員法上の制度ではなく、戦前の文官高等試験の下でのシステムが運用として残ったものであるが、これにより、例えば、T種(特に事務系)試験で採用された者は昇進が早く、その多くが指定職になることができるのに対して、U種・V種試験で採用された者は、優秀であっても、指定職になるのは容易ではない。
 このようなシステムによって、T種採用職員の中には誤った特権意識を抱く者が出てきたり、優秀なU種・V種採用職員の意欲を削いだりすることとなり、また組織の活力の維持に支障を生じるなど弊害が目に付くようになっている。
オ、退職管理 〜「天下り」に対する厳しい批判〜
 公務員の定年年齢は原則六十歳と定められているが、各府省では、キャリアシステムの下、組織の新陳代謝を図り活力を維持する趣旨で、T種採用職員の場合、五十歳前後から早期に退職するよう勧奨する慣行が広く行われ、退職した公務員は、特殊法人、公益法人や民間企業に再就職している。
 しかし、こうした再就職は、国民からは、「天下り」として、各府省からの押し付けである。また給与や退職金が高額であるといった厳しい批判がなされている。特に、経済の停滞が続き、これまで退職者を受け入れてきた民間企業等にも余裕がなくなる中、「天下り」が公益法人等の増加や官民癒着の原因とみなされるなど、国民の批判はかつてないほど厳しいものとなっている。
カ、政官関係の在り方 〜コンセンサスの欠如〜
 国民の公務員に対する信頼が揺らぐ一方、目まぐるしく変動する経済社会状況への対応、限られた資源の下での政策の選択など大胆な政治的な決断を要する課題が増加している。また、政策立案についての幅広い知識と情報を有する政治家が増加する中で、民主主義の理念を徹底し、国民に対する責任体制を明確にする観点から、政治主導、内閣主導が強く要請されるようになった。しかし、政治主導の下で、政と官が政策の企画立案、実施という役割をどのように分担していくのかについては、必ずしもコンセンサスが得られておらず、そのことが公務員の行動原理や要請に当たっての理念をあいまいにし、また、意欲の阻喪にもつながっている。
キ、年功主義 〜能力主義の形骸化と身分保障への安住〜
 厳しい社会経済情勢の下、民間は能力実績主義が徹底され、終身雇用も崩れつつあるのに対し、公務員は、厳しい財政状況の下にありながら本来は行政の中立性を確保するための身分保障に安住し、漫然と年功主義の人事運用を継続しているとの批判がある。
 こうした批判がある一方、年功的な処遇は、中央府省等で極めて過重な職務に追われている若手職員等にとっては、仕事に見合った処遇がなされていないという不満を生んでいる。

二、公務員制度改革が向かうべき基本的方向
 以上述べた諸問題を解決するためには、公務員制度だけでなく我が国の政治行政全般についての幅広い取り組みが必要であるが、人事院としても公務員制度上の改革について、先に述べたように各方面での広範な議論に資するため、その基本的な改革の方向を示すこととしたい。
(1) 国民全体の奉仕者としての公務員の確保・育成
 公務組織の閉鎖性を排し、セクショナリズムに陥ることを防ぐには、公務に対する強い使命感と責任感を持ち、時代の要請に対応できる専門能力と広い視野を併せ持った人材や、任期付職員法等の整備により近年採用が進められている公務とは異なる経験を持った人材など多様な人材を積極的に確保・育成していくことが必要である。
ア、採用試験の改革(これからの行政の中核を担う人材の確保)
 行政の複雑・高度化の下で、国民の期待にこたえる質の高い行政を実現するためには、専門性や独創性に富んだ人材の確保・育成が重要な課題となってきている。加えて、法科大学院の平成十六年四月からの学生受け入れに向けて具体的な検討が進められるとともに、政策の立案や評価にかかわる職業人養成をねらいとする公共政策系大学院等の構想も示され、公務の人材供給源の変化が見込まれる状況にある。
 このため、現在の公務員試験における知識偏重との批判も踏まえつつ、T種採用試験を中心に、論文試験を主体とした、問題設定能力・多角的考察力等の能力検証を重視する採用試験の内容・方法に改めるほか、現在各府省の協力を得て人事院及び各府省の人事課長等三名で行っている人物試験について改善を図る。
イ、退職管理の一元化と在職期間の長期化(「天下り」問題への対応)
 「天下り」問題を解決するためには、退職後の再就職管理を内閣に一元化することにより、企業との癒着を防止するとともに、各人の能力に応じた公平な退職官吏を目指すことが必要である。
 また、現在行われている早期退職慣行を是正し、原則として定年まで働ける体制を作ることは、「天下り」問題の是正あるいは個人の能力の活用という点からも不可欠である。そのため、能力・実績・適正に応じた厳しい人事管理、平均的な昇進年齢の引き上げ、スタッフ職の整備と適切な処遇の確保、重要な地方機関の長への経験豊かな幹部職員の起用等により、在職期間の長期化に向けた取り組みを進めるとともに、これを前提とした給与制度等の在り方を検討し、必要な制度上の整備を行う必要がある。
ウ、幹部公務員の人事交流の推進(セクショナリズムの是正)
 府省間人事交流は、異なった経験を持つ人材を送り込むことによってセクショナリズムを是正するとともに、組織を活性化し、また公務員個人にも、新しい行政分野に取り組ませることにより幅広い視野を持たせることができる。今後、各府省の管理職に占める他府省出身者の割合について具体的な数値目標を設定するなどにより、特に幹部公務員の府省間人事交流を進める必要がある。
エ、研修における国民全体の奉仕者としての意識の徹底(公務員倫理の徹底)
 公務員としての使命感、緊張感の欠如が厳しく指摘されている今日、公務員に対して全体の奉仕者であることの意識の徹底や公務員としての倫理観のかん養を図るための研修を一層充実することは極めて重要である。このような研修は所属府省を超えて共通に実施することが効果的であり、人事院が実施している各府省合同参加形式の研修を、今後とも一層充実する必要がある。
 また、今後、専門的な知識経験を有した民間人材の採用の増加が見込まれるため、これらの者に対しても倫理観のかん養や行政の中立性・公正性についての意識の徹底に重点を置いた研修を実施する。
オ、不祥事の防止と厳正な懲戒手続き
 不祥事の防止については、国家公務員倫理法の適正な運用を確保するほか、平成十年度年次報告書で言及したように、不祥事の誘因となってきた公務の閉鎖性や特権意識を打破するため、官民あるいは府省間の人事交流や多様な人材の活用、権限を背景とした再就職の排除、また国民としての常識、感覚を保持していくためのボランティア体験の導入などを今後とも重点的に推進することが重要である。さらに、最終的な担保は職員個々の倫理観であることを再確認し、倫理研修を幅広く充実していくことが必要である。
 また、新たな取組として、職員の不祥事に対する調査・処分に一層の厳正・公正さを確保するために、現行制度を見直し、各府省による懲戒手続の在り方についても検討する。
(2) 政官関係の明確化
 平成十三年から新たに副大臣、大臣政務官が各府省に配置されており、行政内部における政官関係については人事院として平成十一年度年次報告書で、副大臣、大臣政務官と公務員とがそれぞれの役割を十分発揮しながら協働していけるよう政策立案過程と執行事務における両者の役割について言及したところである。
 現在、政官関係の在り方については、大臣、副大臣等の行政内部における政治家との関係ばかりでなく、政党あるいは政治家個人と官僚との接触ルールの在り方等について広く議論され、七月には内閣において、政と官の適正な役割分担と協力関係を目指し、基本認識を示すとともに、例えば国会議員等から官への個別の行政執行に関する要請であって対応が極めて困難なもの等についての取扱いなど、当面の対応方針がとりまとめられた。今後これらの適切な運用を通じて政官関係に関する国民のコンセンサスが形成されていくことが期待される。
(3) 今後の行政を担う幹部公務員の選抜と計画的育成
 ―キャリアシステムの見直し―
 極めて複雑、専門化し、かつ激変する社会・経済にあって、国民の要請にこたえる質の高い行政を展開していくためには、使命感、責任感を持ち、政策立案能力、管理能力等にも優れた有能な幹部公務員は不可欠であり、幹部要員の早期選抜、計画的育成システムは、今後とも必要である。
 しかしながら、現行の幹部要請システムであるキャリアシステムは、前述のような弊害が指摘されているため、現行の採用時の一回限りの採用試験の別による選抜方法の見直し、幹部要員への集中的・効率的人材育成の実施、中途採用者等への公平な機会の付与などに十分配意し、新たな中核人材の選抜・育成システムの構築に向けて、有識者や各府省の参加も得て見直しに着手し、幹部公務員の選抜、養成システムについての国民的な合意形成を図る必要がある。
(4) 公務組織における専門性の強化
 グローバル化、IT化等が進み、経済社会のシステムが極めて複雑化、高度化する中で、これらの状況に的確に対応し、国際的にも競争力のある行政の展開を可能とするため、行政全体の専門能力を高めることが強く求められている。
 任期付職員法等による外部からの専門家の登用は、金融経済等の専門行政分野で活用され始めているが、今後も高度の専門性が問われる分野、民間が先行している分野等では公務外から積極的に専門家を受け入れていく必要がある。
 また、高度の専門的知識、能力に裏付けられた政策の企画立案やルールの監視等の機能を行政が果たしていくためには、公務組織内においても特定の分野に精通し、外部の専門家と共同して政策形成等に当たることもできる人材を計画的に育成していく必要がある。これまでのように、二〜三年ごとの頻繁な定期異動により幅広い経験を積ませる昇進管理ばかりでなく、職員の希望を踏まえつつ、一つの専門領域で職務経験を重ね、スペシャリストとして活用されるキャリアパスを用意する。このキャリアパスを組織に定着させ、スペシャリストの計画的育成を実効あるものとするためには、それぞれのキャリアパスごとに専門性を磨くことのできる教育・訓練の場や外部専門家、シンクタンク等との人事交流の機会を設けること、ライン業務に主として従事するいわゆるジェネラリストとの間の異動可能性を一定段階まで考慮することなどが必要である。さらに、専門家としてその職務を適切に評価した処遇を確保することも重要である。
 このような措置は、多様な人材の育成であるとともに、在職期間の長期化にも資するものである。
(5) 職務・職責を基本とした能力実績主義の確立
 給与と昇進管理の両側面から働きに応じた処遇を確保し、働くことへの適切なインセンティブを付与するとともに、適材適所の配置により、個々人の有する能力・資質を最大限に引き出すことが必要である。また、全体として士気の高い職員集団を形成するためには、公正で納得性のあるルールや基準に基づき給与等の処遇や配置を決めることが重要であり、それを実現するための新たな人事評価制度の構築が不可欠である。
ア、給与制度の改革
 職員の給与に関する報告(別紙第一)「六 公務員給与制度の基本的見直し」を参照。
イ、新たな人事評価制度の導入(公平で透明性のある能力実績評価)
 公務には多種多様な職場や職域・職種が存在するため、以下を基本的な枠組みとしつつそれぞれに適合する人事評価の仕組みを構築する。新たな人事評価制度が適切に機能するためには、制度の導入に当たって職員の十分な理解と納得を得ることが重要である。
(ア)評価の対象要素は、実績と能力とし、実績評価は、俸給、勤勉手当等に反映させ、能力評価はその結果の積み重ねを昇進管理・配置等に用いることを基本とする。
(イ)実績評価は、組織目標等からブレイクダウンした各職員の職責や役割を明確にした上で、それを踏まえた業務目標設定とその達成度評価により行う。また、能力評価は、職務遂行行動に着目し、そこに顕在化した能力の有無及び程度を測ることにより行う。
(ウ)人事評価は、評価者と被評価者双方の理解と納得の上に実施することが必要であり、評価方法の確立に加え、評価を円滑に実施するための評価者訓練や苦情処理の仕組みを整備する。なお、多面的評価など評価がより適切、公正となるような手法を検討する。
(6) 個人を重視した人事管理の推進
 行政組織がその組織活力を十分に発揮するためには、今後の少子高齢化社会の到来、女性の社会進出の増大等を視野に入れながら、多様な人材を活用するとともに、組織を構成する個々人の価値観等を尊重しその能力を最大限に引き出すことのできる人事管理を行う必要がある。
ア、女性国家公務員の採用・登用の拡大
 本人の意欲と能力に基づく実質的な男女平等の実現に向けての取組は、多様な人材の確保・育成や個々の職員が働きやすく、持てる能力を最大限に発揮できる活力ある職場作りにつながるものである。現在、各府省等は、昨年五月に人事院が策定した「女性国家公務員の採用・登用の拡大に関する指針」に基づき、「女性職員の採用・登用拡大計画」を策定し、女性国家公務員の採用・登用の拡大に本格的に取り組み始めたところである。
 今後、この指針及び計画に基づき、各府省と連携しつつ、総合的かつ計画的に取組を推進する。
 また、職業生活と家庭生活の両立のための環境整備として、育児休業制度等の拡充が図られたが、男性職員のこれら制度の活用が促進されるよう努める必要がある。
イ、業務の効率化と実効ある超過勤務の縮減(コスト意識の徹底)
 業務遂行を効率化し、実行ある超過勤務の縮減を図るには、まず個々の事務についてその重要度、必要度を洗い直し、事務の合理化(既存の事務の統廃合、進め方の改善、アウトソーシング等)を行うことが必要である。長時間の超過勤務が慢性化している中で事務の合理化を行うためには、管理職に「残業はコストである」という意識を与えることが不可欠である。その際、必要な業務については明確な超過勤務命令を出して超過勤務手当を支給し、その支給額と仕事の成果の対比によってその管理能力、事務処理能力を評価することも一つの方策である。
ウ、勤務形態の多様化(フレックスタイム制、短時間勤務制等の拡大)
(ア)就業意識の変化や少子高齢化が進展し、育児・介護などの事情によりフルタイムでは働けない、固定的な勤務時間帯では勤務できないといった職員の個別の事情に応じることが求められている。また、公務においても業務の性格上拘束時間の長短で勤務実績を測ることになじまず、弾力的な勤務が公務能率の促進に有効と考えられるものもある。これらを踏まえ、フレックスタイム制や裁量勤務制、さらには短時間勤務制など多様な勤務形態の導入について検討していく必要がある。
(イ)非常勤職員に関しては、現在まで十分な制度的整備がなされておらず、非常勤職員が、常勤職員とほぼ同様の勤務実態を有しながら、定員等の都合で非常勤として採用されるといった運用がみられるところである。こうした現状を是正するため、非常勤職員の範囲の明確化や給与、勤務時間・休暇等の処遇や身分保障等について、関係府省が十分連携し、制度的な整備を検討する必要がある。
(7)中央人事行政機関と各府省
ア、中立第三者機関としての人事院の役割
〈中立公正性の確保〉
 議員内閣制の下で、公務員が憲法第十五条に定める全体の奉仕者として、国民の求める中立公正な行政運営を担っていくためには、その基盤となる公務員制度において、公務員の中立公正性を確保できる仕組みが必要である。このため、人事院は、内閣の所轄の下にあって独立性を備えた行政委員会として、公務員人事の中立公正性の確保の観点から、公務員制度に関する意見の申出等のほか、基準の設定、監視等に当たるとともに、採用試験や研修の企画立案及び実施に当たっている。今後とも、各大臣が所管行政を遂行するため、所属職員に対して人事権を行使するに当たっては、公務員が全体の奉仕者として中立公正に職務遂行を果たし得る枠組みが機能することが重要であり、中立第三者機関として人事院が果たすべき役割は大切である。
〈労働基本権制約の代償機能の発揮〉
 公務員の労働基本権を制約することについては、憲法上の要請として、その代償措置が必要とされている。公務員の労働基本権制約の仕組みが引き続き維持されるのであれば、給与、勤務時間等の勤務条件の基準設定については、人事院が基礎的事項について国会及び内閣に勧告し、細目的事項について人事院規則等において定めるなど、憲法が要請する代償機能を適切に発揮する仕組みが引き続き維持されることが必要である。
イ、人事管理の弾力化
 公務員人事管理においては、成績主義を確保すること、人件費の膨張防止を図りつつ適正な勤務条件を設定することなどを目的として、任用、給与等の基準を定める必要があるが、一般的な基準では対応できないなどの場合においては、人事院の個別の承認、協議によっている。近時における規制緩和という行政システム全体の流れの中で、公務員人事管理においても、各大臣が機動的、弾力的な人事管理を責任を持って行い得るようにしていくことが求められている。この場合、年功主義的な人事慣行と人事院の事前チェックにより希薄になりがちであった各大臣の人事管理に対する責務の自覚が欠かせない。また、機動的、弾力的な人事管理は、運用を間違えると公務員の中立性を損ない、行政に対する国民の信頼を失うおそれや組織等の肥大化を招くおそれがあるため、各部機関によるチェックについては今後とも十分機能させるようにしていくことが不可欠である。
 人事院としては、以上のような考え方に基づいて、これまでの事例の積み重ね等を経て明確な判断基準を示し得るものについて、既に任用、給与、勤務時間等の取扱いについて大幅に基準化への転換を図ったところであり、今後とも、各府省の運用の実情を踏まえつつ、必要な基準化や適切な事後チェック等を行っていくこととしたい。
三、現在進められている公務員制度改革
 以上のような改革の基本的方向を踏まえると、現在進められている公務員制度改革を国民の期待にこたえた、より実効的なものとするには、次のような基本的視点や留意点を踏まえた更なる検討や議論が必要である。
(1) 基本的な視点にかかわる事項
ア、公務員に対する国民の批判にこたえることが改革の出発点
 公務員制度改革を進めるに当たっては、公務員が「国民全体の奉仕者」として、政治的影響を受けず特定の利害に捕らわれることなく、中立公正に職務を遂行するという、公務員制度の基本理念が原点になければならない。そのためは国民から厳しく批判されてきた「天下り」問題や不祥事への対応、旧来的な特権意識に根ざした制度や運用の見直しなど真に国民が求める課題の解決を、改革の出発点とする必要がある。
イ、オープンな議論に基づく関係者の納得と国民の理解
 公務員制度は、我が国の行政の在り方や国民生活にかかわる重要な仕組みであり、改革内容の具体化に向けては、有識者を含む各方面のオープンな議論が行われる必要がある。また、改革後の制度が改革の趣旨に即して運用されるためには、各府省当局・職員団体と十分に意見の調整が行われることが不可欠である。
ウ、セクショナリズムを是正し内閣の下での政治主導を確立することは重要
 行政改革会議最終報告、公務員制度調査会答申など行政改革の基本的な考え方は、セクショナリズムを是正し、内閣の下での政治主導を確立することであった。しかし、現在進められている改革については、大臣権限を強化し、また府省の肥大化を抑える機能を持っている人事院や総務省行政管理局の関与を弱めるなどセクショナリズムを更に助長する方向にあるのではないかと各方面から懸念が示されている。こうした指摘を十分踏まえ、現在検討されている民間企業への再就職の大臣承認制や各府省幹部候補職員の集中育成制度等については、セクショナリズムの助長にならないよう検討する必要がある。
エ、政官の適切な役割分担についての考え方を明確に
 昨今の政治主導の流れの中で、政と官の間に適切な緊張関係と協力関係が保たれ、それぞれの特性が生かされることが重要である。公務員制度においては、公務員が成績主義を基礎として、政権交代を前提とした議員内閣制の下、いかなる政党政治の下でも「全体の奉仕者」として中立公正に職務を遂行する公務員を前提とした仕組みとする必要がある。改革案では、国家戦略スタッフ等の提案がなされているが、政と官との役割分担、政治的任用との関係などがあいまいであり、事実上の官主導にならないようにするためにもまず政官の適切な役割分担についての考え方を整理した上での検討が必要である。
オ 公務員制度における運用の重要性
 今回の改革を進めるに当たっては、公務員制度の抱えていた制度と運用の乖離という問題についての検討が極めて重要である。現行公務員制度においても、外部からの人材登用や抜擢は可能であり、また、勤務実績に基づいて給与の上でも相当程度の差を付けることが可能である。それにもかかわらず、現実には年次主義的な昇進管理や成績反映給与(特別昇給、勤勉手当)の持回り的運用などが広く行われ、抜擢人事などもほとんど行われてこなかった。こうした事実の背景や要因を、制度のみならず運用に踏み込んで分析・評価し、実効性のある改革となるよう制度設計する必要がある。
 また、全国それぞれの公務の職場において制度の適切な運用が図られるためには、労使関係の安定が不可欠であり、そうした労使関係への視点も考慮して制度設計する必要がある。
(2) 具体的な制度設計にかかわる事項
 以下、現在進められている改革を今後具体化するに当たっての、主要な留意点を述べることとしたい。
ア、「天下り」問題への適切な対処と計画的な在職期間長期化
 営利企業への再就職規制として人事院の事前承認をやめて大臣承認制にすることに対しては、退職勧奨の当事者である大臣が承認権者であることが合理的であるか、大臣が個別の「天下り」までチェックできるか、各府省のセクショナリズムを助長するのではないか等マスコミ、学者等有識者もそろって厳しく批判している。いわゆる「天下り」問題に関しては、営利企業への再就職だけでなく、特殊法人・公益法人等への「天下り」についても国民の厳しい目が向けられており、今回の改革においてこの問題に適切に対処するか否かは、行政の信頼の根幹にかかわってくる。この際、すべての再就職について、当事者である各大臣でなく内閣が一括管理することを検討する必要がある。
 同時に、「天下り」の根本的な原因である幹部公務員の過半数が五十歳代前半で退職しているという早期退職慣行の是正が急務である。この点については、政府全体として在職期間の長期化を計画的に進めることとされているところであり、各府省の積極的な取組が期待される。
イ、採用試験制度の抜本的見直しと中立公正性の確保
 今回の改革ではT種試験の合格者数を大幅に増加させ採用予定数の概ね四倍程度とする考え方が示されているが、採用につながらない合格者が大幅に増えること、特に中央官庁の情報に疎い地方の合格者が不利になること、情実任用が懸念されること等の問題が指摘されている。
 採用試験においてこれからの行政の中核を担う真に優秀な人材を確保していくためには、合格者数等の個別の問題にとどまらず、行政環境の変化や平成十六年四月に予定されている法科大学院設置の動き等をも踏まえ、採用試験制度を抜本的に見直し、試験の内容・方法を知識偏重型から思考重視型に改めるための検討が重要である。
 また、採用試験の企画立案については、試験の中立公正性に対する国民の信頼の確保の観点を重視しつつ、国民の期待にこたえる行政を担う人材の確保に向けて、内閣及び人事院がその本来的機能に即した役割を担う仕組みとすることが適当である。
ウ、キャリアシステムについての抜本的見直し
 今回の改革が提案する本府省幹部候補職員を計画的に育成する仕組みは、T種採用職員に係る現行の運用の基本的に変えるものではなく、かえって制度化するおそれのあることが指摘されている。現行キャリアシステムについては、前述したように各方面の批判を踏まえつつ、抜本的な見直しの検討に着手する必要がある。
エ、能力等級制度における職制段階と等級とのリンク
 能力等級制度の下で適正な給与処遇を確保するためには、能力等級と課長、課長補佐等の職制段階の区分(基本職位)とを明確にリンクさせ、職制段階に対応した給与が支払われる仕組みとすることが必要である。これは、地方公共団体の例にみられるいわゆる「わたり」(職務に対応しない高いランクの給与が支払われること)による人件費増を防止する観点からも不可欠である。
オ、現実に適正な運用が可能な能力評価制度の確立
 今回の改革の要である能力等級制度が機能するためのポイントは、明確な職務遂行能力基準が設定され、それを用いて適切な評価が実際に行われることにある。先進的な民間企業における賃金制度改革や評価制度導入の成功例をみても、労働組合との十分な話合いとその納得の下に改革が進められている。
 今回の改革においても、各府省当局・職員団体の合意を得た上で評価制度の試行を十分に行い、客観的で実効性、納得性を備えた能力基準やこれに基づく評価方法を策定することが必要である。
 なお、民間において能力給あるいは職能給制度を導入した企業の中には、能力評価が形骸化し結果的に年功的な運用に陥ったため、職務給に復帰したり、職能給制度を大きく見直し仕事と成果に応じた給与(仕事給、業績給)への転換を図る動きが強まっていることに留意する必要がある。
カ、労働基本権制約の代償機能の確保
 現行の労働基本権制約を引き続き維持するのであれば、公務員の勤務条件の基準については人事院が代償機能を適切に発揮することが憲法上要請されており、代償機能の後退は許されない。具体的には
・勤務条件に関する今回の改革については、人事院の勧告等のプロセスを経て法制化される必要がある。
・勤務条件に関する基本的事項は、人事院の勧告を経て法律で定める仕組みとし、勤務条件に関する細目的事項は、法律の委任に基づいて人事院規則で定める仕組みとする必要がある。
・能力等級ごとの人員枠は重要な勤務条件であり、人事院が各府省の要求や職員団体の要望等を聴取して具体的な等級ごとの人員数について意見の申出を行い、これに基づいて国会で決定される仕組みとすることが必要である。

 おわりに
 グローバル化の進展、民族、国家間の対立などますます複雑化する国際情勢の下で、我が国が、少子高齢化、低迷する経済など国内問題を解決しつつ、地球規模での諸課題の解決に寄与し、国際社会の中で尊敬される地位を占めていく上で、公務員に期待される役割は大きい。
 公務員が行政に対する国民の信頼を回復し、使命感、責任感と誇りを持ってその役割を果たしていくためには、まず「国民全体の奉仕者である」との初心に立ち返り、政治のリーダーシップの下で、広い視野と専門知識を持って国内外の課題に果敢に取り組んでいくことが必要である。このような基本認識は、現在進められている公務員制度改革のねらいと基本において変わらないものと考える。
 本報告の意見で述べたキャリアシステムの見直しや在職期間の長期化などは、これまでの人事慣行を大きく変えるものであり、相当の努力を強いることになるが、国民の批判にこたえた真の改革にするためには、避けて通れない課題である。人事院は、中央府省や第一線で日夜真摯に職務に取り組んでいる多くの公務員に国民の理解と支援が得られることを切に願うとともに、公務員制度改革が着実に行われ、公務員が国民から真に信頼されつつ、心おきなく職務に精励できるようになることを願うものである。

給与勧告の骨子
○本年の給与勧告のポイント
 @官民給与の逆較差(△2.03%)を是正するため、給与勧告制度創設以来初の月例給引下げ改定
  〜俸給表の引下げ改定及び配偶者に係る扶養手当の引下げにより措置
 A期末・勤勉手当(ボーナス)の引下げ(△0.05月分)
 B3月期のボーナスを廃止し6月期と12月期に再配分。併せて、期末手当と勤勉手当の割合を改定
 C年間給与で実質的な均衡を図るため、不遡及部分については、12月期の期末手当の額で調整
  〜平均年間給与は4年連続の減少〈△15.0万円(△2.3%)〉
1 給与勧告の基本的考え方
 ・ベア中止、定昇停止、賃金カット等極めて厳しい民間給与の実態を反映して、公務員給与が始めて民間給与を上回るという状況の下、引下げ改定であっても引上げ改定の場合と同様、官民給与の精確な比較により公務員給与の適正な水準を確保することが、情勢適応の原則にかなうものと判断
 ・配分については、職員団体や各府省の人事当局の意見を十分に聴取し検討
2 官民給与の比較
   約7,900民間事業所の約40万人の個人別給与を実地調査(完了率93.8%)
〈月 例 給〉官民の4月分給与を調査(ベア中止、定昇停止、賃金カット等を実施した企業の状況も反映)し、職種、役職段階、年齢、地域など給与決定要素の同じ者同士を比較
〈ボーナス〉過去1年間の民間の支給実績(支給割合)と公務の年間支給月数を比較
 ○官民較差(月例給) △7,770円 △2.03%
             [行政職…現行給与 382,866円 平均年齢 40.9歳]
              俸   給 △6,427円 扶養手当      △618円
              はね返り分 △ 412円 特例一時金(廃止) △313円
3 改定の内容と考え方
〈月 例 給〉官民較差(マイナス)の大きさ等を考慮し、これに見合うよう月例給を引下げ
(1)俸給表:すべての級のすべての俸給月額について引下げ
 @行政職俸給表  級ごとに同率の引下げを基本とするが、初任給付近の引下げ率を緩和、管理職層について平均をやや超える引下げ率(平均改定率△2.0%)
 A指定職俸給表  行政職俸給表の管理職層と同程度の引下げ(改定率△2.1%)
 Bその他の俸給表 行政職との均衡を基本に引下げ
 ※特例一時金(年間3,756円(月当たり313円))は廃止
(2)扶養手当 ・配偶者に係る支給月額を引下げ(16,000円→14,000円)
      ・子等のうち3人目以降の支給月額を引上げ(3,000円→5,000円)
(3)その他の手当
 @委員、顧問、参与等の手当
 ・指定職俸給表の改定状況等を踏まえ支給限度額を引下げ
 ・高度な能力・識見等を有する人材の確保のため特例的な限度額を設定
 A医師の初任給調整手当 ・医療職(一)         最高316,400円→311,400円
             ・医療職(一)以外(医系教官等) 最高51,600円→50,800円
 B俸給の調整額 平成8年改正に係る経過措置を廃止し、新たな措置
〈期末・勤勉手当(ボーナス)〉民間の支給割合に見合うよう引下げ 4.7月分→4.65月分
 @3月期の期末手当で引下げ(△0.05月)
 A民間のボーナス支給回数と合わせるため、3月期の期末手当を廃止し6月期、12月期に配分
 B民間の支給状況等を踏まえ、期末手当と勤勉手当ての割合を改定(15年度から)
[実施時期]給与水準引下げの改定であるため、遡及することなく、公布日の属する翌月の初日(公布日が月の初日であるときは、その日)から実施するが、4月からの年間給与について実質的な均衡が図られるよう、12月期の期末手当の額について所要の調整措置
4 地域における公務員給与の在り方
 ・各地域に勤務する公務員の給与水準について、その地域の民間給与をより反映していく配慮が必要
 ・本年は、民間給与のより的確な実態把握の観点から、民間給与実態調査について層化・抽出方法を見直し
 ・今後、給与配分の適正化の観点から、俸給制度や地域関連手当等の諸手当の在り方について抜本的に見直し。学識経験者を中心とする研究会を設置し、関係各方面と意見交換しつつ早急に検討
5 公務員給与制度の基本的見直し
 ・職員の職務・職責を基本にその能力・実績等が十分反映される給与制度を構築する必要。現行の労働基本権制約が維持される以上、人事院は今後とも代償期間として、給与勧告、人事院規則の改廃等を通じて、その責務を万全に果たす所存
 ・本年6月に給与制度について大幅に基準化し、本府省の課長・室長への抜擢者は年齢・経験と関係なくポストにふさわしい級への格付けが各省限りで可能。今後とも関係者の意見を踏まえ基準を整備
【その他】
 ・公務の活力を維持するため、実績を上げた職員に報いるよう、特別昇給や勤勉手当を活用する必要
 ・独立行政法人化の一層の進行に伴い、その役職員の給与水準を国として把握することが必要
 ・人事・給与等業務のオンライン化と共通データベース構築によるバックオフィスの電子化推進

公務員制度改革に関する報告の骨子

 人事院の果たしてきた役割と反省を踏まえつつ、現在進められている公務員制度改革が向かうべき基本的方向と今後改革を進めるに当たっての留意点等について意見を表明
1 公務員制度に対する国民の批判と課題
   行政の信頼確保のためには、国民の批判に正面からこたえることが出発点。セクショナリズム、キャリアシステム、退職管理(天下り)、年功主義などの是正を改革の共通認識とする必要
2 公務員制度改革が向かうべき基本的方向
 ○ 国民全体の奉仕者としての公務員の確保・育成
  ・知識より問題設定能力、多角的考察力を重視する採用試験改革
  ・退職管理の内閣への一元化と在職期間の長期化
  ・具体的な数値目標の設定などによる幹部公務員の人事交流の推進
  ・不祥事の防止、国民全体の奉仕者としての意識を徹底する研修 等
 ○ キャリアシステムの見直し
   採用時の1回限りの採用試験の別による固定的な人事管理の弊害等を踏まえ、新たな中核人材の選抜・育成システムの構築に向けた検討が必要
 ○ 公務組織における専門性の強化
   外部専門家を積極的に登用する必要。公務部内においても、スペシャリストとして活用されるキャリアパスを用意し、シンクタンク等との人事交流など専門性を磨くことのできる機会等を付与
 ○ 職務・職責を基本とした能力・実績主義の確立
   職務・職責を基本に能力・実績を重視した給与制度の構築とそれを可能とする新たな人事評価制度の導入
 ○ 個人を重視した人事管理の推進
   多様な人材の活用と個人の価値観を尊重した人事管理
  ・女性国家公務員の採用・登用の推進
  ・フレックスタイム制、短時間勤務制など多様な勤務形態の導入を検討する必要
  ・非常勤職員の制度的整備の検討が必要
3 現在進められている公務員制度改革
  現在進められている公務員制度改革を国民の期待にこたえた、より実効的なものとするには、具体的な制度設計に当たって上記の基本的方向に留意するとともに、以下の点を踏まえた更なる検討が必要
 ・国民全体の奉仕者として中立公正に職務を遂行するという基本理念が改革の原点
 ・有識者を含む各方面のオープンな議論や、各府省当局、職員団体との十分な意見調整が必要
 ・各府省の人事権の行使に当たっては、公務員が全体の奉仕者として中立公正に職務遂行を果たし得る枠組みが機能することが重要
 ・民間企業への再就職の大臣承認制や各府省幹部候補職員の集中育成制度等については、セクショナリズムの助長にならないよう検討する必要
 ・採用試験の企画立案については、内閣と人事院が適切な役割分担をすることが適当。合格者の大幅な増加については、慎重な検討が必要
 ・公務員の勤務条件について、憲法が要請する労働基本権を制約する以上、代償機能が適切に発揮される仕組みが確保される必要