【自主レポート】

土地開発公社の改革の取り組み

大阪府本部/自治労大阪府職員関係労働組合・建設支部

1. はじめに

 これまで、建設支部は自治体政策提言活動を実行あるものにするため、微力ながら、組合員の英知を集めて取り組んできました。建設支部は、エリアである土木部、建築都市部、企業局(今年度末で廃局)が公共事業の大半を担う部局であるので、公共事業が社会的問題となってきたころと、バブル経済の破綻が同一時期に訪れたことを起因として、支部の政策活動を推進してきております。
 バブル経済の破綻によりもたらされた、地方財政危機により、大阪府においても、準用再建団体への転落を回避するため、1998年(平成10年)、財政再建プログラム(案)、2001年(平成13年)9月、行財政計画(案)、2004年(平成16年)11月行財政計画(改定計画案)が、相次ぎ立案されました。特に、地価の下落により、企業局をはじめとした面的大規模プロジェクトが深刻な事態を迎え、2001年の行財政計画では、「負の遺産の整理」として、企業局、住宅供給公社、土地開発公社を対象として、直ちに整理すると決定されました。

2. 土地開発公社の負の遺産

 2001年(平成13年)9月の行財政計画(案)では、土地開発公社(以下「公社」という)の負の遺産は、未利用代替地差損の処理として、118億円が計上されていました。建設支部は、用地職員協議会や開発公社出向組合員などに対する聞き取り調査に加え、1999年(平成11年)の外部監査の報告書を分析し、代替地差損だけでなく、公共用地の買戻し時にも「隠れた負の遺産」があると見解を出しました。

3. 外部監査の結果

 1999年の外部監査において、代替地差損だけでなく、公社が取得した土地が道路、河川等に供用されると、土木部は買戻し取得しなければならないが、その行為を怠った土地が1,280億円に上ったことが明らかになりました。これは、本来、買戻し用地費として、一般会計で計上すべきところを、公社に抱えさせ、その浮いた財源を工事費等に回してきました。土木部は「粉飾決算」したと言われてもしかたのないものでした。土木部の予算には、財布が二つあり、ひとつの一般会計で事業費が削減されても、もうひとつの財布である公社資金を活用して生み出せる仕組みにしてきました。土木部は供用済み資産再取得予算として、2000年(平成12年)度から2004年(平成16年)度に掛けて、1,524億円を費やしました。この資金1,524億円は特別に起債措置され、交付税収入となったと言われていますが、後年度負担は、平均金利1.4%、10年償還で概算すると、府の持ち出しは213億円にもなります。

4. 隠れた負の遺産とは

 公社は公共用地の先行取得をすることにより、公共事業の推進に寄与してきました。また、府の一般会計予算が単年度主義であるため、年度末の用地交渉などで予算が不足しても、公社資金を活用することができました。地価が高騰している間は、先行取得により比較的安価な公共用地の取得が可能でしたが、地価の下落傾向が続くと、逆ざやとなり高い買い物になってしまいます。それに加えて、公社が先行取得に費やした資金は、原則、金融機関から調達するわけですから、買戻し時に、それまでの金利、管理費、事務費等が加算され、簿価として買戻しされます。地価の下落と相まって二重に高い公共用地の取得になります。公社の保有が長期になるほど、簿価が高騰し、地価が下落していると、簿価と地価の開きがさらに大きくなります。この買戻し予算の執行システムは、適正な執行にあたるため、表に出にくいものです。だが、結果的に無駄な税金の支出になっており、建設支部はこれを「隠れた負の遺産」と名づけています。

5. 隠れた負の遺産の内容

 土木部は公社に命令をして、公社に公共用地先行取得をさせています。この公共用地先行取得を計画的にしていれば、それほどの無駄遣いにはならなかったのですが、無計画と言って良いほどの実態が明らかになりました。2003年(平成15年)度末の公社保有資産(土地)は、簿価全体で1,851億円。土木部だけで1,106億円となっています。内訳は公社が5年以上長期保有している土地が727億円、このうち10年以上が363億円あります。長く保有していると、金利等が嵩み、簿価が高騰して、買戻し時に高くなってしまいます。
 この長期保有資産を、土木部は20年計画で買い戻すことになりましたが、その間も金利等が嵩み、簿価が増え続けます。これを推計すると、簿価が369億円に増え、無駄な税金を投入することになります。買戻し簿価と時価との差はもっと広がってしまいます。

6. 公社の負の遺産

 公社の負の遺産は、2003年(平成15年)度末で、未利用代替地差損の処理として、133億円。供用済み資産の買戻しによる金利の後年度負担213億円。20年計画の長期保有資産の買戻しによる簿価の高騰が369億円。合わせて715億円になります。さらに、これまでの無計画な公共用地先行取得によるロス分を加えると、倍以上の税金の無駄遣いをしたことになります。

7. 公社改革は土木部改革

 公社を「便利使い」してきたことは、土木部長自らが府議会で認めています。これまでの反省に立って、2005年3月、土木部は大阪府土地開発公社の健全化に関する基本方針(案)(以下「基本方針」という)を策定しました。この「基本方針」は、公社改革というより土木部改革と言えるものです。
 2005年(平成17年)2月24日、建設支部は「土地開発公社への委託に関する建設支部の見解」を発表し、3月には公社問題の要求書を提出しました。政策提言については「基本方針」に盛り込まれましたが、職員の派遣反対については試行実施が強行されました。では「基本方針」の骨格を説明します。
 まず第1に、公社資金の重点化をする。計画的な事業執行と事業管理を行い、原則4年以内に買戻し(再取得)できる資産に投資する。代替地の購入は原則三者契約とし、新たな代替地の保有はしない。
 第2に長期保有資産の解消を図るため着実な再取得を推進し、毎年度の新規取得額と買戻し額を管理して、適正な資産管理により解消年数を守らせる。
 第3に、代替地処分を推進して早期に代替地の保有を解消する。
 これまで、公社資金の活用について、政策的判断がなされずに決定されてきました。それが高じて、有力者や議員の要請により事業の着手時期が決まっていない用地や代替地処分の目処のない土地を公社資金で購入してきました。地価が下落した後も、その流れに沿って、野放図に公社資金を活用してきたことが大きな負の遺産として、今日に至っています。
 この「基本方針」とは、実は公社を健全化するというより、これまでの土木部が公社資金の活用方法を反省した上で、公社を所管する土木部の方針を「健全化」するためのものです。

8. 公社改革

 「基本方針」に当然公社改革も盛り込まれています。公社は、大阪府が100%出資している第3セクターであり、歴代の理事長も大阪府の土木部長を務めた幹部職員が多く就任してきました。公社の幹部職員も府からの出向、派遣職員であり、府は公社を再生させる責任があります。公社を廃止して、公社採用職員を路頭に迷わすことはできないし、公社を廃止することは、その負債を大阪府が担わなければならない。公社を廃止するには、公社の保有資産を買取ることになり、その財政力は現在の大阪府にはありません。
 公社改革の重要なポイントは「評定事務費」の見直しです。公共用地を公社から府が再取得する時は、金利、事務費が「資金係数」「事務係数」として取得価格に上乗せされ、簿価で買戻しされることになります。この上乗せされる額は、管理費も含め「評定事務費」と呼ばれる。この評定事務費率は一定ではなく、公社が支出した経費の全てを買戻しする時に請求する仕組みになっています。公社の職員が用地買収に成果を上げると、評定事務費率が少なくなり、余り成果が上らなければ、評定事務費率は高くなる。公社が頑張っても頑張らなくても、公社そのものの財政は健全になる構造となってるわけです。
 今年度から二土木事務所で、用地買収業務を公社委託するための試行実施がなされました。その試行を踏まえ、評定事務費率をどのように設定するのかが、今後の大きな課題となっています。低すぎれば、労働強化になるであろうし、高すぎれば、何のための改革かが疑われます。試行を検証して、少なくても事業別に事務費率を設定するような配慮が必要となります。このことにより、公社は自立的な経営を推進せざるを得なくなり、用地買収業務の専門機関として、特化していくことになります。

9. おわりに

 公社改革を掘り下げていくと、大阪府の行財政計画(案)が、如何に表層的で本質的な解決策を提示していないかがよくわかります。5年前、自治労府職が計画を見直した時に「廃止することが適当である」とした水と緑の健康都市事業は、昨年、余野川ダムの凍結があっても、事業推進することになりました。
 このような末期的症状の大阪府を建て直すには、私たち労働組合が改革の先導役とならなければなりません。その際に過去の失政を批判し、新たな政策を打ち立てるために組合員、職員の英知を集め、働くもののための改革案を提示しよう。そのためにも今後自治研活動を推進するとともに、府議会民主党をはじめとした民主リベラル勢力とも、充分な連携体制を作り上げるのは、緊急の課題ではないでしょうか。