【自主レポート】
不公平税制の是正と更なる税源移譲を求めて
大阪府本部/自治労大阪府職員労働組合・税務支部
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1. はじめに
今年7月、北海道夕張市の財政再建団体への転落が明らかとなった。福岡県赤池町以来の14年ぶりとなる。炭鉱の閉鎖から人口が激減した夕張市は、財政赤字を補てんするため第三セクター方式での観光事業主体への転換を図ったが、負債は600億円まで膨れ上がってしまった。交付金や補助金の削減も大きく影響し、転落への速度を増したのではとも言われている。転落の事実は三位一体改革による国からの本格的な税源移譲を目前に、財政難を抱える自治体に対し衝撃をもたらしたと言える。一方、緩やかな景気回復に伴う、税収増により2006年度は1県35市町村の交付税の不交付団体が増加した。また計画されていた市町村合併は、ほとんど終了し、15番目の政令指定都市(堺市)・37番目の中核市(青森市)が誕生している。いわゆる「勝ち組」「負け組」の流れのなかで、地方自治体にも二極化の傾向が示されるようになった。
小さな政府をめざした小泉政権は、終盤になって大きな格差をもたらしたと批判されるようになった。構造改革の名のもと、市場万能主義や規制緩和は大企業の優遇へと傾いた。その結果、企業部門での景気回復は好調となったが、大手製造業における偽装請負などに見られるように、低賃金が固定化された若年の非正規雇用者層などが形成され、低所得者層の拡大を招いている。また、景気刺激策として個人投資拡大のため簡易課税・優遇税率が設けられ、富裕層にとってはより多くの利潤を追求できる環境が整備されている。格差拡大につながり、現行の税制における所得再分配機能の低下や限界が現れるようになった。
このような情勢において、公平・公正な地域社会の実現に向け、税制全般における検討課題や地方分権型社会における地方税の課題として何が必要なのか考えてみたい。
2. 現行税制の課題 〜早急に不公平税制の是正を
(1) <個人課税>
@ 最高税率の引き上げ
国税庁の統計では、所得税収入が2004年度からプラスに転じ、2005年度は11.1%の伸びが示された。(参考資料 第2表)また所得階級については、2004年度から2005年度にかけて1,000万超の所得層は5.3%の伸びとなり、一方、100万円以下の所得層については2倍近い72%もの伸び、200万円以下の所得層は14.5%の伸びがあり、上位・下位それぞれが上昇している。(参考資料 第3表)高所得者層が増加傾向にあっても、個人所得に対する税負担率(国税と地方税あわせて最高50%)は不況下時と同様のままであり、圧倒的に拡大している低所得者層に対して、所得再分配機能の適切な効果が期待できない状態と言える。より累進的な税率構造への転換により最高税率(所得税40%)の引き上げを求める。
A 金融所得課税を総合課税へ
現行の国内株式の配当・譲渡所得課税は一律の税率(現行10%、2008年から20%)のみで資産運用を図る高所得者層にはより有利であり、勤労性所得とのバランスの差異が問題となっている。したがって、所得税との総合課税を図り累進性を高め、所得再分配機能を付与させることを検討すべきである。また、地方税部分の配当割・譲渡割(現行3%、2008年から5%)については、個人のみに課税されており、法人は非課税となっている。国税においては、個人・法人の区別なく7%で課税が適用されており、国税と異なる取り扱いで納税者からも疑問の声が聞こえてくる。簡明な制度への改善と地方税充実の観点から国と同様の取り扱いを求める。
(2) <法人課税>
@ 恒久的減税の廃止
経済産業省実施による企業活動基本調査(参考資料 参照)では、製造企業数は2004年度に9年ぶりに増加(前年比6.2%増)に転じた。卸売企業・小売企業も前年を上回り、減少傾向への歯止めが示され、1企業あたり経常利益は3年連続の増加となった。また、内閣府が8月に発表した景気動向指数は3ヶ月連続で景気一致指数が50%を上回り、バブル期並みの水準に迫る勢いとまで言われている。企業部門における活発な景況のもと、法人にかかる税率(国税と地方税あわせて)については、未だ国際比較のうえで高いと企業側から更なる引き下げが求められている。しかし、恒久的減税とされていた個人所得税の定率減税が廃止された現在、景気浮揚策として、上限税率が30%と措置されている法人税においても、本則税率34.5%へと復元させるべきである。なお、法人税率の引き上げにより、法人住民税が連動することで地方税の充実にもつながる。
A 外形標準課税の充実
法人事業税の外形標準課税が実施されているが、資本金のみで課税対象が決まるため資本金を減少させ、課税を回避する企業が増加(2005年5月は1,044社が対象外へ)しており、総務省が危機感を抱き実態調査に乗り出している。資本金の一部を資本準備金へ移動させることで、資本の合計額は変わらないが、外形標準課税の対象外となり赤字法人にとっては効果的に節税できる税制である。外形標準課税導入にあたり、中小企業に配慮して資本金が1億円超の企業のみを対象とした本税制であったが、そこが盲点となった。多種多様な経営手段が発展していく現状において、資本金だけでの線引きはもはや公平さを失いつつある。また、赤字法人に課税するということで税収中立の観点から、黒字法人の所得にかかる税率は低めに設定された。だが、赤字法人が課税回避に走ることで税収の中立も崩れてしまった。資本の合計やその他指標(年商など)も検討し、全ての大企業を外形標準課税の対象企業として網羅し、地方行政に対する応益負担を求めなければならない。
B 医療法人税制のあり方
相次ぐ自治体病院の縮小や民営化により地域福祉医療の基盤が危惧されている。地域福祉医療の維持の為には何が必要なのだろうか。現行医療法人については、国段階では法人税で税率の優遇措置が適用され、地方段階の法人事業税では公益性を重視し社会保険医療収入とその他収入を按分して社会保険所得金額を控除する更なる優遇措置が適用されている。医療法人の公的な役割は充分に保障されるべきであるが、事業規模や経営方針が多種多様となる現状において一律的な社会保険所得控除で公平・公正性が担保されていると言えるのだろうか。また、自治体病院からの受け皿となった民間医療法人に対しても公益性の低い一部の民間医療法人と同等の優遇措置で良いのだろうか。大幅な利益を産む医療法人が増加傾向(2004年度の1億円以上の利益を上げる医療法人は前年比14%増)にあるなかで、利益に比例する税負担を求めるのは自然な流れであり、地域医療で得た利益は、やはり地域福祉医療へと還元されるべきである。事業の規模や収入に比例する社会保険所得控除よりも地域医療における公益性を加味したうえで、法人事業税の優遇税率を適用することにより公平・公正性を保つことができると思われる。なお、国と同じ計算になることで法人事業税の申告事務の煩雑さが大幅に解消されるという利点も生じる。
(3) <消費税>インボイス方式の導入を
申告義務が売上1,000万円以上となり納入申告者が大幅に拡大されたが、消費税の透明性と信頼性を確保するためにも「インボイス方式=仕入れ税額表示」が有効であり、申告事務の負担も軽減される。税率の国際比較を訴える前に消費税先進国(欧州諸国)と同様の制度を採用すべきである。また、食料品や薬・生活必需品などの購入に対する軽減税率や非課税措置も消費税先進国(欧州諸国)では適用されており、格差拡大傾向にあるなか、逆進性の緩和も含め低所得者にはより一層の配慮が必要である。
3. 更なる税源移譲 〜より一層の地方税の充実を
(1) <個人住民税>所得割率の引き上げを
低所得者を中心に充実した地方行政サービスの提供のために、更なる税源移譲として、個人住民税所得割の引き上げを求める。
・地方六団体「所得税から住民税へ税源移譲し、個人住民税所得割を更に3%上乗せする。」
(2) <地方消費税>税率割合の逆転を
偏在性の少ない安定した基幹税目であり、地方行政サービスの安定供給のために、また国と地方の歳出割合(4:6)に対応させるため、消費税と地方消費税の税率割合を4:1から2:3とする。
・地方六団体「消費税と地方消費税の割合を4:1から2.5:2.5にする。」
(3) <法人事業税>公平・公正な応益課税を
公平・公正な応益課税の観点から赤字法人(2004年度67.2%)に対しても法人事業税の負担を求める。事業活動は行政財産である道路や水道、公共市場を利用して展開されている。この間、地方自治体は景気浮揚策として公共工事による流通経路の整備や商業施設建設の補助、大企業誘致に多大な投資を繰り返した結果、地域にマーケットが形成されている。これらの行政サービスは赤字法人・黒字法人に分け隔てなく提供されている。個人事業者にも提供されているが、零細企業を除いてその規模は比較的小さい。また、国策として最低資本金額を撤廃した会社法の改正(1円設立)や欠損金控除を前5年以内から前7年以内へ拡大した法人税法の改正(個人の場合は前3年以内)により、個人経営よりも法人経営の優遇化が進められている状況にある。景気の動向に注視し、中小企業への配慮が当然の前提条件となるが、法人事業税の赤字法人課税への拡大について検討・研究を求める。なお、法人事業税額が増えると、企業所得の損金算入額も増えて法人税は減少するので、間接的に国からの税源移譲にもつながることになる。
4. 賦課徴収体制 〜責任ある税務執行体制を
(1) <納税者番号制度>効果的な所得の把握と効率的な資産の捕捉
急速な国際化やIT化の流れに伴い、経済活動や事業形態は日進月歩・千変万化の様相となっているが、賦課徴収の現場では縦割り行政の弊害や過剰な個人情報保護などにより、課税客体の把握や納税者の資産の捕捉が現実的に日々困難さを増してきている。充分なプライバシーの保護が当然の前提条件であるが、より効果的な所得の把握及びより効率的な資産の捕捉のためには、納税者番号制度の導入が不可欠と言える。
(2) <徴収対策>責任ある税務執行体制の確立を
税源移譲による個人住民税の拡大に伴い、自治体職員に更なる徴収強化が課せられた。これまでも市町村との共同徴収と地方税48条の活用(市町村からの徴収引継)により、都道府県と市町村の連携が図られてきたが、今後はこれまで以上に密接な連携が必要になると予想される。一方で市町村合併による広域化に伴い合理的・効率的な観点から都道府県と市町村の出資により一部事務組合や滞納整理機構を立ち上げ、住民税などの徴収を委託しているところも出てきている。他の組織を利用する方が、住民に身近な役所の人間よりも感情移入が無く徴収しやすいという効果があるようだが、果たしてそれだけで全て良いのだろうか。住民から税を徴収する苦労は住民の痛税感を知る機会でもある。他の組織の者にその痛税感は通じるのであろうか、地域行政を担う責任感が芽生えるのだろうか。悪質な滞納者に対しては、徹底した手段を講じる必要があるが、効率性だけを優先して、地域行政を実践する立場からかけ離れた他の組織の者が、住民へ負担を強いることに違和感を抱く。まして民間業者に委託されるようなことになっては、応益の負担を住民に求めた自治の本質まで疑われてしまうことになる。住民が納税する苦労を知らずして、住民が求める地域行政を実践できるとは思えない。地域行政に責任を持つ自治体税務職員の徴収能力の向上により、更なる税源移譲を引き寄せることができる税務執行体制の確立をめざすべきである。
5. おわりに
景気が上向いていると言われる割に実感が湧かないのは、企業部門の利益が家計部門に波及していないからだろう。景気低迷時には、住宅購入などで個人消費をかなり扇動されてきたのにも関わらず、景気の恩恵が受けられない。「勝ち組」も「負け組」も増えて二極化を招いた今の景気は、見掛け倒しの上げ底状態と言えるのではないか。わたしたちが望んでいるのは景気の底上げである。内閣の諮問機関などでは「努力したことが報われる仕組み」が強調されているが、若年の非正規雇用者たちのように「努力する機会すらも与えてもらえない」人たちへの配慮も当然に必要である。税制は所得階級へのバランス装置であり、これ以上、格差が拡大しないように格差解消・縮小に向けて、早急に本来機能の回復と不公平税制是正の実現を求める。
また「金持ちには厳しすぎる国内税制」や「税制が厳しいと国外へ資本や所得が流出する」という声も聞かれるが、富裕層に優しい社会と貧困層に手厚い社会とどちらが魅力的な国柄・地域色で、どちらの政策・施策を優先するべきなのかは容易に選択できる。小泉政権の「小さな政府」方針のもと、三位一体改革により国からの税源移譲が実施され社会保障は自治の力に委ねられた。しかし、国庫補助負担金の抜本的な廃止は見送られ、生活保護費や義務教育費など補助負担率の引き下げのみにとどまり、地方の自由度や裁量度の拡大におよばず地方分権の確立としては未完の改革となった。依然として国の強い関与が残る国庫補助負担金に対して廃止を求め、それらに相当する国からの更なる税源移譲を追求することが地方自治体の課題となる。地域独特の文化や産業に対する需要や地域住民のニーズに見合う住民参加を基本とした地方分権型社会の確立に向けて、引き続き国からの税源移譲を重要課題と位置づけて強く取り組むべきである。あわせて、公平・公正な地域社会の実現に向け、魅力ある地方独自の行政サービスや社会保障を安定供給するためにも交付税に左右されない自主財源のみでの財政運営が可能となるよう、より一層の地方税の充実・拡大が必要である。
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