【要請レポート】

公共入札への「総合評価方式」導入について

大阪府本部/自治労大阪府職員関係労働組合・副委員長 橋本 芳章

1. はじめに

 大阪府は庁舎管理課(用度課)の行う、清掃、警備など人的委託契約について2003年度2件の総合評価方式の試行実施を行い、2004年度は9件、2005年度も9件の本格実施に踏み切った。これは、1999年の、総務省の「地方自治法の改正」を受けて、入札に総合評価方式を導入したもので、2003年度、価格部分の評価を70%とし、技術評価部分を12%、福祉政策部分を13、環境配慮が5とした。同時にほぼすべての委託契約に最低制限価格または低価格入札調査制度を導入した。
 総合評価方式の試行実施は内外の高い評価を受けた。具体的な評価は後で触れるとしても、ダンピングを防止し、価格のみの評価では比較が難しくなって競合状態を招いた場合でも、審査会方式で企業の内容を見たうえで判断できる制度である。

表1

年 度

件 数

価格評価

技術評価

福祉配慮

環境配慮

2003

70

12

13

2004

62

16

16

2005

50

14

30

2. 2004、2005年度の総合評価方式の入札について(現在の到達点)

 2004年度については、対象物件を9件に拡大する一方、価格評価を62%、技術評価を16、福祉配慮を16、環境配慮6とした。
 福祉には、配点を12点から16点に増やし、知的障害者の雇用、障害者、母子家庭の雇用に加えて、ホームレスを余儀なくされた人、地域就労支援事業など各種就労支援事業の活用による新規雇用を盛り込んだ。
 さらに、2005年度には、対象物件こそ、前年同様9件と据え置いたものの、価格評価は50%、技術評価を14とし、公共性(施策反映)評価を36まで引き上げた。その内訳は、福祉配慮が30、環境配慮を6とした。
 特に2005年度については、私たち労働組合の要求にこたえていくつかの観点を打ち出した。
 それは新たに、障害者の雇用状況(新規雇用だけでなく、過去3年間の企業の取り組みに対する評価)を盛り込んだことである。これは、継続的に雇用が確保されているかどうかを指標とする新たな試みである。また、継続雇用の要請に答え、契約期間を3年に延長した。契約期間が3年になったということは、審査会の開催などの事務が煩雑で、「対象物件の数が限界」だったのを、一年に9件、3年で最大27件まで拡大できるということである。同時に、雇用継続を3年まで引き伸ばすことが可能になったのである。前述の過去3年間の企業の障害者等の雇用状況とあわせて考えると6年の雇用も考えられる。
 (雇用実績)
 平成15年度   知的障害者14人   就職困難者9人
 平成16年度   知的障害者34人   就職困難者24人
 平成17〜20年度 知的障害者63人(現場39人、現場以外24人)就職困難者27人

3. 何が総合評価方式を進めたか

(1) 地方自治法の改正
   大阪府は、かつて、労働組合の要請で、最低制限価格を設定したことがある。成人病センターという病院の清掃委託で、最低制限価格を設定したことが、裁判に持ち込まれ、最高裁で敗訴した苦い経験がある。
   1999年地方自治法234条第3項の改正によって、「ただし書き」ではあるが、「最低価格でなくてもいい例外として施行令167条−10−2」が作られた。
   その第1項は「価格その他の条件が、当該地方公共団体にとって最も有利なものを持って申し込みをしたものを落札することができる」とした。
    第3項には「決定基準は公表し定めなければならない」とし第4項には「決定基準を定めるときには学識経験を有するものの意見を聞かなければならない」として「意見を聞く内容として総合評価競争入札によることの是非、自治体にとっての最も有利な条件、その他留意事項」としている。第5項には「決定基準については公告する事」とし、評価基準の事前公表を求めている。

(2) 行政の福祉化プロジェクト
   この改正を受けて、大阪府が総合評価方式に踏み込んだのは「行政の福祉化プロジェクト」のはたらきが大きい。
   障害者団体等から強い要請を受けた大阪府は、2000年3月、副知事を長とする全庁的な「行政の福祉化プロジェクト」を発足させた。その中で、障害者等の雇用機会の拡大を図るため、入札へ盛り込むことを提案した。それが総合評価方式であった。
   障害者をはじめ就労困難な人の雇用を「自立と人権確立の課題」として、入札条件にすることにより、障害者の職場を確保することだけでなく、価格が少しぐらい高くなっても、福祉行政、労働行政の行政効果も期待できるという一石二鳥の政策として入札を捉えたのである。

4. 総合評価方式の明暗

(1) 価格評価を70点に設定するということは、予定価格と低価格との間で、いくら安い価格を提案しても70点の評価にしかならないということである。これによってダンピングが防止された。逆に価格が少し高くなったところは70点から比例して減点されることとなる。
   また、障害者の雇用率については、通常法定雇用率1.8%のところを10倍の18%を目標とした。技術評価では「質の高いサービス」を基本に企業に「研修、組織、検査体制」について求めた。知的障害者が実際に働ける研修体制や訓練、苦情があった場合の処理体制、さらに一定期間ごとの自主点検体制である。

(2) 2003年の試行実施では本庁舎9人、門真の運転試験場で4人の知的障害者が雇用された。知的障害者がいきいきと働く姿を間近に見たことがなかった本庁舎に勤務する者は、一様に評価した。「毎朝の挨拶を欠かさない」「廊下も見違えるようにきれいになった」「福祉ではなく雇用就労が基本」など、試行実施は「知的労働者の雇用」について予期した以上の評価が生まれた。
   2004年には、価格評価が62点になった。関西のビルメン業界では、一部の反対の声もあったが、概ね「関西では障害者、母子家庭、高齢者を雇用しています」「ダンピングがなくなりました」「業界の社会的評価も上がった」との歓迎の声が聞かれるようになった。2005年には価格評価は50点になった。

(3) こうなれば、価格競争ではなく純粋に政策競争になる。2004年度入札で、落札した業者が「最低賃金法の適用除外」「1年間雇用」を説明して、問題になった。大阪府の評価は、大阪府が実施している各種就労支援施策(大阪府知的障害者雇用建物サービス事業協同組合、地域就労支援事業、ホームレス支援センターなど)との連動で、障害者や就労困難者の能力実証も出来ている。そのため、最低賃金の除外規定には該当しない。明らかに、業者側の誤りである。府は、この点を再度、業者側に伝えるとともに是正をさせた。しかし、庁内には「総合評価は地方自治法の例外に過ぎず、自治体の裁量権をあまり広げすぎるのは危険」と見る考え方も出てきた。では、自治体の裁量権はどこにあるのか。「価格評価、技術評価が70〜80%を越えて」いる必要があるというのが定説である。そういう意味では、2005年度の評価点数(価格評価50、技術評価14)はぎりぎりのところまで踏み込んでいる。危険だとする意見は、政策部分は、自治体の純粋な裁量であり、言い換えれば、自治体の恣意的条件を付すことに他ならず、問題があるという。大阪府も、学識経験者の意見を聞いているのであるが、今後も長いスパンで考えていく場合、この問題を払拭するためには、市民の監視が不可欠である。そのためにも、この問題に関心の深い業界、労働組合、学者、弁護士等が一定の考え方に基づくシステムを作り上げる必要がある。市民・府民の税金が、「地元の雇用に適切に」使われているかどうかが、この問題の解決への鍵になる。
   すでに、業界の一部には、大阪府の総合評価方式で入札に参加したが、「最終段階で何が当落の決め手になったか、不明瞭だ」という指摘も出てきている。

(4) それらの指摘に答えるためには、現状のように事前に配点を公開していることも重要には違いないが、審査会の公開や全体結果の公表をしていくことが重要になる。
   また、「地元の雇用に、適切に」というのは、地元雇用を守り、当該労働者=府民が「尊厳ある職場環境」の下で、労働関係法を遵守し、権利を守って働くということに他ならない。
   大阪府の総合評価方式では、労働関係法の遵守については、評価以前の問題であり、当然のことであるとして「評価点の対象」としていない。そのことはごく当然のことであるが、競争入札という本来の制度が持っている「短期雇用の繰り返し」「最低価格のところに落札する」という概念がもたらす権利無視の実態は、改善されているとは言えない。発注者としての大阪府は、同じ事業所で働く民間委託労働者の労働条件について無関心ではいられないはずである。現にこれだけの政策配慮を課しているのである。
   当然とされているコンプライアンスをどの時点でチェックしていくのかが明確になっていない。過去に、大阪府は「労働関係法令に違反した企業については、一定期間、指名競争入札から排除する」という知事回答を持っているが、これらをどのように機能させていくのかも課題となる。

5. 問題の解決に向けて

 大阪府は、P・P・P(パブリック・プライベート・パートナーシップ)方式として官民共同を打ち出し、既存職場の民間委託を始め、指定管理者制度、市場化テストなどを進めているが、その中でもこの総合評価方式が導入されることが重要だといわれている。
 前述のように、指名競争入札という法律の枠内で行われる「総合評価方式」の価格設定は一定の比重を持たざるを得ないが、行政目的で建てられた施設の管理や、清掃、警備には当然、行政目的に合致した運営が求められる。そのためにこそ一般競争入札になじませようとすると、建物の運営管理にあたるコーディネート業務が必要になる。
 当面、

(1) 企業評価、技術評価の観点に次の点を入れるべきではないだろうか
  @ 事業に携わってきた労働者の経験を、成績評価として評価できるシステム
    「事業に携わってきた労働者の成績評価」が入れられることにより、少しでも雇用継続の道も生まれてくることになり、より安定的な技術提供が得られることにもなる。
  A 企業そのものの安定性や遵法態度が評価できるシステム
     「企業の安定性や遵法評価」を入れることにより、不当労働行為を続けている企業、労働関係法を守らない企業の入札からの排除が可能になる。
  B 安全衛生上の配慮や、法的規制はなくとも、配慮義務とされている介護・育児、次世代支援などの制度導入をしている企業を評価できるシステム
    安全衛生などは、とりわけ技術評価とつながりが深く、また母子家庭などの支援のためには次世代支援の制度が重要である。
これらを満たした上で政策配慮に入るわけであるが、大阪府は福祉と環境を導入した。

(2) 福祉配慮には、知的障害者、母子家庭、地域就労支援事業にかかる就労困難者にさらに、ホームレスを余儀なくされた人が加わった。

(3) 環境配慮にISO14000取得が加わった。

(4) 地元の中小企業優遇という観点もある。

 福祉の部分に、次世代支援、女性の就業比率、女性の管理職への登用比率、各種女性施策を入れるべきだという声がある。環境にさらに厳しいISO取得を入れるべきだという声もある。
 しかし、すでに述べたように政策部分を限りなく増やしていくことは総合評価そのものの命取りにもなりかねない。
 まず、何をクリアしていくか。これらを総合的に判断することが求められている。

6. 建築・土木工事における総合評価方式の導入について

 建築・土木工事における総合評価方式については、
(1) 経営事項審査格審査を行う。「参加資格」として確認すべきものに、過去数年にわたり、次の項目を付加する。
  @ 安全管理措置の不適切により生じた業務関係者の重大事故、過労死、労災隠し
  A 談合や請負金の支払いなど一般契約上の法令違反
  B 労働基準法、最賃法、各種社会保険の加入、不当労働行為に関する救済命令などの労働関係法令違反、賃金不払い事件の不在
  C 府税の未納入などの市民義務的不誠実行為やその他契約履行上の不誠実行為

(2) 最下請業者による雇用に関しては次の点を加点対象とする。
  @ 西成労働福祉センターを通じた日雇い労働者の雇用
  A 就労支援センターを通じた、ホームレスを余儀なくされた人の雇用
  B 障害者・母子家庭の母・高齢者の雇用
  C 雇入通知書の労働者本人への交付
  D 建設業退職金共済制度の加入、日雇雇用保険・健康保険手帳への印紙貼付け

(3) 最下請業者で雇用される労働者の賃金については次の点を加点対象とする。
  @ 賃金について、2省間協定賃金により発注計算がされていることに鑑み、2省間協定賃金が本人に直接支払われていることを加点対象とする。

(4) 元請、下請関係の適正化について次の点を加点対象とする。
  @ 施行体制台帳に下請業者の建設業退職金制度への加入の有無を明示
  A 施工体系図に下請業者の建設業退職金退職金制度への加入の有無を明示
  B 新規入場者管理カードに建設業退職金退職金手帳・日雇雇用保険手帳・健康保険手帳の所持の有無、雇入通知書受領の有無を問う欄を設けていること

(5) その他の労働条件については次の点を加点対象とする。
  @ 看護、介護休暇や次世代育成支援

(6) 関係労働組合から府へ要請のあったもの
  @ 生コンは最適な混合のもの、具体的には適マーク工場を使うとともに、「瑕疵保険」「責任保険」などの企業努力に対し加点する。
  A 余裕のある工期、土曜、日曜の打設はしない、適切な人員配置、免許所持者の配置など、参加事業所の「技術に関する努力」に加点する。
  B 経営事項審査における企業の立証点を活用した審査基準日における再評価(労働関係法令違反、雇用率など)
  C 環境配慮

7. 労働組合の取り組み

 大阪府の総合評価方式の導入は、民主団体の要請と、府の中に設置された「行政の福祉化プロジェクト」により実現したものだが、自治労府職もまた、自治労の総合評価方式の導入、政策入札の実現に向けた取り組みについて職場で実践するため、取り組みを進めてきた。大阪府当局への要請、自治研集会の開催、全港湾、全国一般など、自治体下請け関係労組との交流、決起集会の開催、共同申し入れなどであるが、その中で浮き彫りになってきたいくつかの問題点を紹介し、問題提起としたい。

(1) 地方自治法の一部改正でも、自治体の裁量を大きくすることが可能になった。
   ILO94号条約では一定の地域で同職種の労働者の賃金水準を同一にするという考え方が出されている。わが国では地域最低賃金制度が確立しており(大阪府の地域最低賃金時間給708円)、政府は条約を批准していない。この課題は、自治労、連合段階で取り組む必要がある。

(2) 自治体下請け関係労働組合との交流を通じ、当面の到達点の確認と今後の方向を議論する。自治労大阪府本部では過去に全国一般と共同でゴミ収集の安全衛生の合同学習会を開催した。その中で明らかになったことは、「民間の実態が労働安全衛生や賃金、福利厚生で公務職場と大きな格差を持っている」ということだった。
   自治労府職と全港湾、全国一般の決起集会でも、全港湾の参加者から「自治体直営で清掃、警備をしていたときと、民間委託で実施する場合と、なぜ大きく労働条件が下がるのか」「自治労が、直営堅持、職場、労働条件、権利を守る闘いを展開することが、民間労働者にも引き継がれる」との指摘があった。今後の運動で大切にしたい指摘である。

(3) 公共入札は、公務への民間活力を導入し、税を有効に、公正、公平に企業に再配分する機会のひとつである。「安かろう悪かろう」は、利用者としての住民にとっても業務に従事する労働者・住民にとっても最も避けなければならない問題である。そのため、どのようなシステムが適当かについて「税の使い方に対するシンポジウム」を自治体の発注部局、自治体下請け関係企業の労使の代表、連合大阪、自治労、議員などの参加で企画、開催して、府民運動、市民運動につなげていくことが重要である。
   さらに、公契約条例ということになれば「条例制定運動」へと発展させていかなければならない。

(4) 総合評価方式が、前述のように、現行法律の枠内では、「価格競争から政策競争になり、極めて危うい」という状況を踏まえ、自治労各市町村労働組合でも、自らの課題として取り組むよう要請し、府と市町村の話し合いを促進し、総合評価方式の実態形成を進める。大阪府の3200万円越え物件が、市町村では少ないことから、大阪府は2006年以降、物件規模をひき下げるとともに、極めて煩雑になる評価基準を簡略化した。この点を広げて行きたい。さらに、市町村に広がれば、一定の大企業の入札にも波及することも考えられ、そのような企業を表彰する制度も可能になるのではないか。

(5) 大阪府においては、昨年から、入札の際、労働関係法令を守ってもらうよう発注部局が、商工労働部の作成するチラシを配布している。このように、入札の段階で発注部局による労働関係法令遵守の姿勢を明らかにすることが重要であり、この点についても自治労を通じ、各自治体に要請していく。