【要請レポート】
脱原発社会実現のために自治労運動のできることとは
大阪府本部/自治労大阪府職員労働組合・環境農林水産支部 末田 一秀 |
1. 実施される低レベル放射性廃棄物スソ切り処分
自治労大阪府職は、前回の前橋自治研に「放射性廃棄物のスソ切り処分問題」と題したレポートを提出し、低レベル放射能の規制を外し、原発廃材などをリサイクル可能にするクリアランス制度(図1参照)導入の問題点を指摘した。クリアランス制度については、原水禁も参加した「放射性廃棄物スソ切り問題連絡会」を中心に反対キャンペーンが行われたが、世論を動かすところまでには至らず、制度を導入する原子炉等規制法改「正」法は、昨年5月に成立し、12月に施行された。議員への資料送付、修正案・質問案の提出、抗議・要請電報、院内集会なども取り組まれたが、国会審議では十分な質疑が尽くされたとはいえない。電力・電機などの労働組合が法案成立を働きかけ、民主党が賛成に回ったことも反省材料のひとつであろう。
しかし、取り組みの結果、電気事業連合会が「制度が定着するまでの間、○事業者が自主的に搬出ルートを把握 ○業界内で再生利用」すると約束するに至った。そこで制度化されたとはいえ反対キャンペーンを続け、「社会に定着」したと言わせない取り組みが引き続き求められている。
当面、制度の対象となる原発は、1998年に運転を終えた日本原電の東海原発である。2001年12月から解体工事が進められていて、今年からスソ切り対象の放射性廃棄物が発生する、熱交換器などの解体を行う第2期工事が行われている。スソ切り処分の実施のためには、最初に国による「放射能濃度の測定及び評価の方法の確認」が行われることになっているが、この手続の初めての認可申請が、本年6月2日に行われた。当面約2000トンの金属をスソ切り処分し、日本原子力研究開発機構の大強度陽子加速器施設(J−PARC)で再利用する方向で、交渉が進んでいると報じられている。しかし、溶融加工する鉄鋼会社で持ち込まれた放射能が全て再利用金属に移行する保証はなく、副生物である鉄鋼スラグや排ガスとして出ていくかもしれない。産業廃棄物の規制指導を行っているのは都道府県と保健所設置市であり、該当する自治体職員が無用の被曝をしないかなど今後も多様な監視が必要である。
なお、自治労大阪府職が低レベル放射性廃棄物の問題に取り組むきっかけとなったのは、ウランなどを含む酸化チタン製造工程の産業廃棄物が大阪産業廃棄物処理公社やフェニックスの処分場に搬入されている問題であった。この件では、酸化チタン製造の最大企業である石原産業が、問題のチタン廃棄物をリサイクル材「フェロシルト」と称して、各地で不適正な処分をしていた事件が明るみに出た。一般・産業廃棄物中の放射能監視は、特別な地域だけの問題ではない。
2. 原子力推進派による巻き返しの逆風
前橋自治研からの2年間を振り返ると、原子力推進派の開き直りとも取れる攻勢が続いている。
見直しが進められていた原子力長期計画は、名前も原子力政策大綱と変更され、昨年10月に決定された。自治労は、2004年11月に脱原発路線への転換を行うよう原子力委員会へ申し入れを行ったが、応対した近藤駿介原子力委員会委員長は「原子力委員会の使命は原子力基本法に明記してあるとおり原子力利用の推進であり、脱原発の検討は法違反。既定路線と違うことを決めた場合の労力は大変。政策変更はどう考えても5年はかかる。政策の方向性を示すのが原子力委員会で、政策は行政庁の問題。政策がうまくいくかどうかは、予言できない。」などと述べ、参加者をあきれさせた。
原子力政策大綱の問題点は、大きく次の3点に集約される。
@ 「2030年以後も総発電電力量の30〜40%程度という現在の水準程度か、それ以上の供給割合を原子力発電が担うことを目指すことが適切である」として、原発の建替えを事実上義務付ける内容となっていること
A 再処理路線を継続するとしたこと
B 高速増殖炉について「2050年頃から商業ベースでの導入を目指す」としたこと
原子力政策大綱を受けて、六ヶ所再処理工場のアクティブ試験が本年3月31日に強行された。玄海・伊方など各地の原発でのプルサーマルの実施やもんじゅの運転再開などが狙われている。さらに、原子力政策大綱を受けて具体的政策を取りまとめた報告書に、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会がつけた題は「原子力立国計画」。2025年頃までにもんじゅの次の実証炉実現を目指し、2045年頃に第二再処理工場の操業を開始するとするなど、その内容は「原子力村の願望」で満ちていて、8月8日の同部会で最終確認がされる予定である。プルトニウム余剰の現実に目をそらし、既存路線からの政策転換ができないこれら推進派の動きは、決して展望のあるものではない。しかし、私たちの運動もこれらの動きを止めることができずにいる。今一度、脱原発運動の中で自治労が果たすべき役割を確認し、運動を再構築する努力が必要なのではないだろうか。
3. 当面する主な課題
当面、次の4課題への取り組みは重要と考えられる。
@ 核燃料サイクル路線の問題
A 既存原子力施設の安全確保
耐震指針見直し問題
原子力防災
B 廃棄物問題への対処
C 自治体による地域分散型エネルギー政策の確立と自然エネルギーの開発促進
4. 既存原子力施設の安全確保
このうちAの原発の耐震設計審査指針見直しに対する対応は、既存原子力施設立地地域では避けて通れない。25年前に策定された旧来の耐震設計審査指針は、阪神淡路大震災などの最新の知見を反映しておらず、見直し作業が5年前から原子力安全委員会耐震指針検討分科会で進められてきた。本年3月24日、耐震設計を理由に金沢地裁が志賀原発2号炉の運転差し止めを命じる画期的な判決を下したこともあり、急いでとりまとめられた新指針案のパブコメには680件もの意見が寄せられた。また、パブコメ期間中に、島根原発近傍で中国電力が活断層はないと主張し、原子力安全委員会もその主張を追認していた場所で活断層が見つかった。この件について、耐震指針検討分科会委員の石橋克彦神戸大学教授は、事業者と審査側双方の活断層調査・認定能力の信頼性や指針案中の関連規定の大前提が失われ、その妥当性が否定されたとの批判を行っている。しかしこれら意見に対する十分な議論がされないまま、近く新指針は取りまとめられると予想される。(7月末段階)既存施設についても新指針に基づき安全確認が求められることから、電力各社は既に改めての地質調査などに着手している。新指針案は新しい知見を反映したものの、申請者(電力会社等)や審査者の裁量が大きくなる傾向にあるなどの問題を有している。(資料1参照)恣意的な安全再確認を許さない監視行動が必要である。
一方、原子力防災では、JCO臨界事故を受けて整備された原子力災害対策特別措置法に基づく体制が定着してきた。同法ではオフサイトセンターに、国、自治体、原子力事業者等の関係機関、専門家等が一堂に会して情報の共有化を図り、合同対策協議会で指揮の調整を図って事故対策にあたるとされている。しかし、オフサイトセンターは立地場所や建物構造などハード面に問題を有するのみでなく、混成部隊の参集などソフト面でも多くの問題を抱えていて、特に情報統制・中央統制の問題が深刻である。例えば図2に示した「住民避難決定の流れ」の@の段階で事故解析結果は公表され、避難準備や要援護者の優先避難に着手されなければならないが、訓練ではGの避難勧告・指示の段階まで数時間も情報が伏せられるのが常である。私たちは、かつては住民参加の避難訓練を行うよう要求し、それが実現するようになってからは監視行動などに取り組むことによって少しずつ訓練内容を改善させてきた経過がある。ブラインド方式の訓練や抜き打ちの参集訓練など多様な訓練を行うことを要求するとともに、シナリオ訓練では事前交渉を強化して情報公開の徹底をこれまで以上に求めていく必要がある。
5. 廃棄物問題への対応
本稿では冒頭低レベル廃棄物のスソ切り処分問題について述べたが、放射性廃棄物の問題はますます深刻化している。高レベル放射性廃棄物では、処分実施主体「原子力発電環境整備機構」が処分場候補地の公募を2002年12月から行っているが、当然応募は行われていない。しかしながら、これまで2003年に福井県和泉村(現 大野市)、2004年に高知県佐賀町(現 黒潮町)、熊本県御所浦町(現 天草市)、昨年は鹿児島県笠沙町(現 南さつま市)、長崎県新上五島町、滋賀県余呉町で誘致を検討する動きが表面化している。「原子力立国計画」では「最終処分計画に定めたスケジュールを維持するためには、今後1、2年間が正念場との意識を持ち、国、NUMO及び電気事業者等、関係者が一体となって最大限の努力を行うべきである。」とされ、今年度から電源三法交付金制度に、地域振興や産業振興の支援に使える補助金や都道府県向けの原子力発電施設等立地地域特別交付金等の制度を新たに追加するとしている。今までも公募に手を挙げた自治体向けに最大70億円の交付金が用意されていたが、金の力で地域を分断しようとする旧来からのやり方を繰り返させてはならない。
また、半減期が長い超ウラン元素を含むTRU廃棄物や海外再処理での低レベル廃棄物をキューリー交換した返還高レベル廃棄物を地層処分できるよう次期通常国会で高レベル処分法(特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律)の改正が予定されており、国会審議が処分場立地攻勢に拍車をかけることも懸念される。
電力や電気出身の議員らは、「放射性廃棄物の最終処理・処分の責任者は国とする。」と主張しているが、原子力の負の遺産を国民に押し付けるものである。地域の未来と相容れない高レベル処分場の拒否宣言を全自治体から引き出している岡山の運動に学んで、運動の水平展開が求められている。
6. 自治体による地域分散型エネルギー政策の確立と自然エネルギーの開発促進
最後に、自然エネルギー開発促進に関する自治労大阪府職の新しい取り組みを紹介したい。
電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(通称RPS法)は、電力会社に「自然エネ」発電枠を割当てているが、その目標は2010年で全電力供給量の1.35%と低すぎるものである。このため「自然エネ」発電に伴って発行されるグリーン電力証書も低価格で推移し、「自然エネ」促進効果は十分ではない。一方、電気事業法の改正により電力の小売自由化の範囲は、図3のとおり約3分の2に達している。したがって自治体も庁舎などの電力調達では入札により条件のよいところから購入することができる。大阪府庁も2001年度から入札により本庁舎の電力調達を行っており、関西電力ではなく「特定規模電気事業者」エネットが落札している。
そこで、自治労大阪府職では、電力購入の入札の際に価格のみで落札業者を決めるのではなく、環境配慮の条件を付すよう対当局要求を行っている。電力のグリーン購入である。
既に環境省は今年度から庁舎の電力購入をCO2削減量を採点する方式で環境配慮型入札を実施している。また、東京都は2004年10月公表という早い時期から「購入する電力の5%をグリーン電力で供給すること」という条件をつけている。さらに東京都は、2020年までに東京のエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を20%程度に高めることをめざすという野心的な「東京都再生可能エネルギー戦略」(注)を本年4月に公表している。再生可能エネルギー利用拡大に向けたプロジェクトの一つに「電力のグリーン購入の明確なルール化と普及拡大」をあげており、策定委員の1人、環境エネルギー政策研究所の飯田哲也氏は「たんに目標数字が欧州並みに大きいだけではなく、これを実現するための戦略や政策を背景に持っていることが特徴で、これまでの新エネビジョンなどとは異なる、新しい自治体エネルギー政策のパラダイムになる。」とコメントしている。これを参考に、組合要求で他の自治体でも同様の取り組みを目指すことは全国的な運動になりうると考えている。そのためにまず大阪の地で前進できるよう、引き続き対当局要求を進めていきたい。
図1 クリアランス制度
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これまではこの三角形全体(放射性管理区域で
発生する廃棄物)を放射性廃棄物としてきた。 |
表1 原子力政策大綱
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2005年原子力政策大綱
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2000年原子力長期計画
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原子力発電
の規模 |
2030年以後も総発電電力量の30〜40%
程度という現在の水準程度か、それ以
上 |
原子力発電は引き続き基幹電源に位置
付け、最大限に活用 |
高速増殖炉
の開発 |
2050年頃から商業ベースでの導入を目
指す |
将来の有力な選択肢で実用化は柔軟か
つ着実に検討 |
第二再処理
工場 |
第二再処理という記述なし。「中間貯
蔵された使用済み燃料及び使用済みM
OX燃料の処理の方策は、2010年頃か
ら検討を開始する」 |
2010年ごろから検討を開始 |
プルサーマ
ル |
当面、プルサーマルを着実に推進する |
2010年までに16〜18基で順次実施 |
高レベル放
射性廃棄物 |
2030年代頃の処分場操業開始を目標 |
平成40年代(2028〜2037年)の後半を
めどとして操業開始 |
資料1 耐震設計審査指針改訂案の特徴(2006年6月12日 原水禁国民会議発第17号)
@ 考慮する直下地震の大きさ
現行指針:直下地震マグニチュード6.5(M6.5)を想定
改 訂 案:M6.5は廃止。「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と「震源を特定せず策定する地震動」を過去の観測記録などから基準地震動として設定する。
問 題 点:鳥取県西部地震(2000年)はM7.3の地殻内地震ですが、活断層は事前に把握されていませんでした。「震源を特定せず策定する地震動」は補完的とされていますが、事前に震源を特定できない場合も重要です。その値が改訂案では廃止され、電力業界が自主的に判断することになったのは問題。
。 金沢地裁判決では、「活断層が確認されないから起こりえないとほぼ確実に言える規模の地震の規模は、M7.2ないしM7.3以上というべきだ」と指摘されている。活断層が見つかっていなくても、M7クラスの地震は起きるとの判断を示している。
A 考慮する活断層
現行指針:5万年前以降活動した断層
改 訂 案:「更新世後期(最大約13万年前)以降の活動が否定できないもの」と拡大
問 題 点:いくつかの活断層が連動する可能性は考慮せず。
「最終間氷河期の地層(8万〜9万年前)判断できる」とも記述され、現行の審査とほとんど変わらない。実質的な見直しになっていない。
また、活断層がない場合の既定があいまいで、直下地震による地震道の策定に恣意性が入り込む余地がある。
B 基準となる地震動
現行指針:「設計用最強地震」がもたらす地震動S1と「設計用限界地震」がもたらす地震動S2を設定
改 訂 案:S1、S2を廃止し、基準地震動Ssを設定。Ssをもとに「弾性設計用地震動」Sdを設定
問 題 点:SdはSsのα倍で、αの値は0.5を下回らない程度に電力会社が自主的に設定できる。ここでも審査の裁量に委ねられる範囲が拡大している。恣意性が入り込む余地が大きい。
金沢地裁判決では、昨年の宮城県沖地震の発生の際、東北電力女川原発で、耐震設計上の最大値を超える揺れを記録したことを、「(被告の耐震設計の)計算手法は、実際の観測結果と整合しておらず、妥当性は認めがたい」と断じた。
C 原子炉を設置する地盤
現行指針:重要な建物・構築物は岩盤に支持させなければならない。
改 訂 案:建物・構築物は、十分な支持性能を持つ地盤に設置されなければならない。
問 題 点:全ての建物・構築物に範囲は拡大されたが、岩盤でなくてもよいとされた。実質的な緩和ともいえる。
D 地震随伴事象への考慮
改 訂 案:施設周辺斜面の崩落や津波の影響の考慮を求める。
問 題 点:耐震指針検討分科会報告書では、審査で出された次の意見が明記されているが、ほとんど反映されず。
@ 施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な地震時地殻変動(特に地震に伴う隆起・沈降)に起因する地盤の変形によっても、施設の安全機能が損なわれないことは、今回の指針では盛り込まれていない。
A 検討用地震に随伴すると想定することが適切な余震の地震動によっても、施設の安全機能が損なわれないこと。石橋克彦神戸大教授(地震学)は、大地震に続いて発生する大余震も問題と指摘し、「余震」に耐えることを指針に明記を求めたが、見送られた。
B 地震時に発生する可能性のある次の諸事象が、発電所の重大な事故の誘因とならないことを確認する。また、その安全性を評価する場合には、その事象の発生の可能性を考慮することが必要。
・発電所に繋がる送電線および、関連する送電網の状態
・冷却水(補助的工業用水を含む)の供給の安定性
・周辺の都市火災、およびそれに起因する煙、ガスの影響
・近接する化学プラントなどからの、可燃性ガス、毒性ガスの発電所、および、その従業員への影響
・上流にあるダムの崩壊の影響(地震に起因する堰止湖を含む)
C 周辺人工物の地震による損傷に基づく、間接的影響、すなわち、火災、毒性ガス、爆発性ガスなどの影響を、評価しなければならない。
D 地震による損傷は、共通事象、同時多発的である。従って、単一事象としては、対策がとられていても、必要に応じ、同時多発の可能性のあることを認識して、その対策を考えなければならない。
E 「残余のリスク」の導入
改 訂 案:策定された地震動を上回る地震動により、施設や周辺公衆に放射線被曝による災害を及ぼすリスクの存在を認め、それを小さくする努力を求めた。
問 題 点:残余のリスクを確率論に基づき定量的に求める手法は採用せず。
事務局が確立論的な方法を採用しなかったのは、「リスクの数値にばらつきがあることと、設置許可判断する目標値が未設定という理由からでした。しかし、同方法も日本原子力学会による「標準」づくりがほぼ完成しており、安全目標案(住民の被曝死の確立が100万分の1以下)などとも決まっており目標値を設けない根拠は乏しい」(毎日・解説)とも指摘されている。 |
図2 住民避難決定の流れ
図3 電力自由化の進展
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(注)
参照URL:http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2006/04/20g43100.htm |