選 球 眼
senkyuugan  2000.3

2000.3.1


刺身がなければ日本料理とは言いずらい。日本人ほど刺身が好きな人々は全世界でも希な存在であるが、その伝統は古く、縄文人から受け継いだものと考えられている(和食の起源・永山久夫著より)

◆それを証明するものが青森市の三内丸山遺跡から出土された1bはあったと推定されるマダイの骨だ。しかもバラバラの骨でなく、脊椎がつながっていた。まさに三枚におろしたためであり、当然刺身で食べられていたことが容易に想像される。同時に石製の包丁や動物の骨で作った釣り針も発見され、既に釣りの方法や調理の方法まで知っており、縄文タレのようなものに浸けて舌鼓を打つ楽しげな夕食がしのばれる

◆また、縄文土器の出現により、煮炊きも可能にした。火を使うことで人類の生活は大きく進歩するが、最古の縄文土器は青森県蟹田町で発見された1万6500年前のものと判明している。もちろん全世界の遺跡の中でも縄文土器より古い土器は発見されていない

◆芳醇な煮込み汁=スープの旨さまで発見した縄文人の「味覚革命」。わがままを聞いてもらえるなら、酒は現代から持ち込んで、一度でいいから当時の身なりでその宴を味わってみたい。(N)

 

2000.3.11

重なり合った固いウロコに柄のあるひれ、前後に分かれた頭蓋骨……何をとってみてもシーラカンスは普通の魚とは違った構造をもっている

◆東南アフリカに位置するコモロ諸島で生きたシーラカンスの遊泳行動の撮影が達成されて早や10年。悠久の時を刻んで地球を泳ぎ続けてきた同魚は、これまでの捕獲で海底付近に生息するサメやホラアナゴ、キンメダイなどをまる飲みする肉食魚であり、食物連鎖の上位を占めるため、その固体数はおのずと少ないことが分かっている

◆脊椎動物が水中から陸上へ進化する手段として発達した器官は、肺と体を支える手足であり、重力に抗して体を支え、自由に移動するために「ひれ」から四肢が生まれた。その発展途中をかたどるシーラカンスがまさに生きた標本であり、その固体存続に細心の注意が払われていることは言うまでもない

◆遺伝子の螺旋構造が解明され、バイオテクノロジーが商業化されようとする今日、化石から取り出したDNAから古代生物を復元することも可能になる時代が来るかもしれない。しかし、どんな素晴らしい未来であったとしても、今の地球が存在していなければすべては徒労に終わるだろう。(N)




 

2000.3.21

日本の通貨単位「円」は明治政府が幕府の「両」を嫌って新たに名付けたもので、当時の財政担当参議・大隈重信が金貨を欧米流に円形にすることや、十進法に改めることを主張する中で生まれたようだ

◆「両」の歴史は古く、平安時代より砂金を紙に包んで「金何両」と表示していた。武田信玄の甲州金や豊臣秀吉の天正大判、徳川家康の慶長大判などそれぞれの時代の通貨単位でもあった。江戸時代は「米一石(約180リットル)が1両」と言われていたことを考えると1両は今の3万円程度だろうか。時代が進み幕末の1両は当時のメキシコ銀貨の1ドルとほぼ同時に通用し、新しく生まれた円も1ドルと同じで、切替えはわりとスムーズに行われた

◆戦前は「いちじゅうえん」、戦後は「いっぴゃくえん」、最近まで「いっせんえん」と高価な額には単位付けで呼ばれてきた「円」。現在は「いちまんえん」だけが残っている。まさに日本語の表記は「生きもの」であり、インフレ進行が理解できる

◆近々発行される「2千円札」も発行前から評判は芳しくなく、景気回復の一助には到底なり得ない。とすれば労働者の出番だ。我が暮らし、良しも悪しきも、今春闘。(N)