2002年度自治労大阪府職自治研集会

と き  2002年9月3日(火)午後6時30分〜8時30分

ところ  新別館多目的ホール

 

政策入札で地域を変える、職場を変える

 

大橋委員長あいさつ

経過報告と基調提起

パネルディスカッション

 パネラー

  □吉村 臨兵さん(奈良産業大学助教授)

  □小畑 精武さん(自治労公共サービス民間労組協議会)

  □橋本 弘樹さん(自治労大阪府本部書記長)

 司会 末田 一秀(自治労大阪府職自治体政策部長)

質疑・討論 他

 

目次

          

 

 

末田

 前回2000年の自治研集会では、施策評価、パブリックコメントという住民参加の促進、深化というようなことについて提起しました。今年のテーマは、職場や地域を変えていく新しいツールとして「政策入札」にスポットを当て、パネルディスカッションで議論を進めていきたいと思います。

 3人のパネラーを紹介します。大阪地方自治研究センター理事で、自治労の入札委託契約制度についての研究会メンバーにも入っていただいていました奈良産業大学助教授の吉村臨兵さんです。それから自治労中央本部から、公共サービス民間労組協議会事務局長で、この問題に詳しい小畑精武さんです。最後に、自治労府本部の橋本書記長です。このお三方で、政策入札の話を進めていきます。

 政策入札の取り組みを進めよう、私たちもやらなければいけないと思ったのは、まず府本部から運動を提起されたということがあります。そこで大阪の取り組みとして、政策入札とはそもそも何か、初歩的なことも含めて、最初に大阪府本部・橋本書記長の方からお願いします。

 

 職場からみた政策入札の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

橋本

 自治労運動、特に職場から見た時の課題を中心にして、簡単に提起をします。なぜ自治労が、今いわゆる役所の入札制度の問題を言い出したかということです。

 みなさんの中にも、企画管理部門あるいは事業部門でも、何らかの形で入札なり契約に携わっておられる方が多いと思います。少なくとも5年くらい前に入札問題と言ったら、新聞沙汰になってしまうような入札情報の漏洩問題、刑事事件になってしまう談合問題、役所の契約入札に関わっての訴訟の問題などでした。「契約に関わる入札制度はより透明性がないとあかん」と、役所の一挙手一投足が昔に比べるとだんだん厳しい見られ方をされるようになった印象が全体としてあるのではないだろうかと思います。

 それと全く違う切り口で今、自治労はこの入札制度の問題を取り組もうとしています。この距離の違いをまずご理解いただきたいと思っています。

 

/ なぜ自治労が取り組むか  /橋本    

 一つには、「なぜ自治労が」というと、すでに言われていますように、今の役所のとりわけ一般競争入札主流の制度の中で、極めて一般的な商品を役所に納品する場合もですし、とりわけ問題にしたい人件費が委託費の契約金額の多くを占めているような請負契約まで含めてダンピングになってきている問題点です。

 また労働組合の観点から言いますと、自治労は基本的な役所における様々な事業を安易に民間委託をしていくことに様々な角度から反対をしてきました。これは大きくは、私たちの職場が無くなっていくということでもあります。当然ながら、民間委託が行政サービスの向上につながらず、水準の低下につながる危険性を多く持っていることも含めて民間委託に反対をしてきました。民間委託に反対してきた私たちの取り組みにもかかわらず、過去20〜30年、あるいは戦後と言ってもいいかもしれませんが、もっとも民営化が主流の時代に今なってきています。これまでも様々なところでそういう流れにあらがってきたわけですが、理念だけで言うと、役所がやっている様々な事業で民営化ができないものなどはないのではないかというような、極端な主張が今始まってきている。こういう中で、一つの事業所を守ろうというレベルではない民営化の流れがある。この入札制度の中で、そういうダンピングを許していったのでは結局、公共サービス、役所の事業が全部ダンピングの渦の中に巻き込まれて、「安い方でいいじゃないか」という議会などでよくなされる主張に押し流されてしまう。ダンピングは少なくともよくない、その上で行政サービスも質も問わなければいけない、というところに自治労運動はさしかかってきていると思います。

 

/ 公共サービスの自治労の仲間  /橋本    

 もう一つの理由は、極めて現実的な理由です。自治労は、役所のいわゆる地方公務員身分の労働者だけの労働組合ではないということを確認し、そして地域の公共サービスの非常に幅広い分野で活動している、働いている仲間の組織化をしていこうと、この間決めてきました。

 十分に進んでいるとはなかなか言えませんが、大阪の自治労の方針に従って公共サービスのすべてのエリア、まず同じ役所の中で正規の職員身分ではない臨職や非常勤の仲間をどう組織化していくのか。あるいは社会福祉法人などの関連団体などで日頃から殆ど同じように仕事をしているが地方公務員身分ではない、そことどう連携をとっていくのか。完全な民間の株式会社であっても、例えば民間委託というような経過をたどって、昨日まで正規職員がやっていた仕事を明日からしてもらう。そういう会社で働いている労働者も組織をしていこうという取り組みを続けてきました。遅ればせながら自治労大阪にも、そうした仲間を多く抱えるようになってきています。

 そういう中でいくつかの実例として、自治労の組合員が働いている会社が、今の入札制度の中で雇用が守れない、労働条件の大幅な切り下げを余儀なくされるということが経験的にあります。

 

/ 病院で起きていること  /橋本    

 病院の医事業務というのは委託が相当進んでいる職場ですが、この医事業務を公立病院で委託をされた会社が、随意契約・経験・今までの協力関係などがもはや通用しない。すべて競争入札ですべきだという風潮の中で、毎年毎年契約更新していかなければならない。社会的な風潮として、役所の側は安ければいいではないかという流れに、議会の指摘も含めて流されかねない。そうした風潮の中で、そこで働いている人たちの労働条件をある程度確保した仕事ができるのかというような単価で、この委託契約が成されてしまっているという実態が次々に出てきている。その中に、私たち自治労の組合員も存在している。

 ダンピングまがいのことをせずに、まっとうなこれまでの経過をふまえた賃金単価を計算して競争入札に臨むと、落札できない。ダンピングまがいのことをしているところに負けてしまう。負けてしまえば、直接的な雇用関係は会社ですが、実際上の職場はなくなるわけですから、直ちにこれは雇用不安、失業の危機ということになる。こういう実例が現に出てきているということです。

 学校の警備業務を行う衛星都市のある会社について、この間自治労の組合員に入って貰いましたが、そこでもこの10年間ぐらいの間に役所の入札を巡って、文字通りダンピングとしか言えないような競争入札参加をしてくる企業がきわめて多い。業種業種によっていろいろカラーがあるようですが、同じ業界の中でも「いかがか」というような企業も一般競争入札は「正しい」ということだけで運動の基準が取っ払われてしまう傾向がありました。

 そうした直接的な組合員からの問題指摘も受けて、自治労が今入札制度の問題を取り組んでいかなければならない。ただ「一般競争入札は問題あり」と言うと、「じゃあ随意契約でいいのか」とか「談合があってもいいのか」ということになりますから、むしろ「価格競争だけでいいのか」ということです。また行政の質を担保していくには、あるいは少なくとも、「誰が見てもおかしいじゃないか」という、最低賃金も守れないような意味で「公正労働基準が守れないような価格競争を放置していていいのか」という、これが自治労の問題意識です。

 

/ 「庁内の運動」を超えて  /橋本    

 民間委託ということと、入札制度を労働組合が取り組んでいくということには、かなり大きく重なり合うものがありますので、もう一つだけ私自身の経験を言います。

 私は大阪市役所の労働組合の出身で、民生支部という福祉を中心的に行う職場です。20年ほど前に福祉の切り捨てとかが言われ始め、一つの流れとして、事業を民営化する「スクラップ・アンド・ビルド」という言葉がはやり始めた頃ですが、そうしたところに反対の論陣を張って運動した経験があります。

 その頃、ほとんど運動としては「庁内の運動」に止まっており「地区外」にならなかったのですが、社会福祉法人にある事業の委託をするということになり、社会福祉法人ではまっとうな労働条件が保障されているのか、まっとうな労働条件を保障するまっとうな労働組合があることを委託の条件にできないかということを、ようやくその頃職場で言い始めたわけです。その当時もそうですし、今もやはりそういうきらいが残っていると思いますが、地方公務員、とりわけ正規職員のグループの中では、やはり民間委託というのは、労働組合の労働条件を守る課題の中心ではありませんでした。やはり最終的には首が守られてそこそこの労働条件が守られていれば、それはよしとしなければならないという、これは公務員身分の労働組合の一つの弱点で、率直にそういう実態というのは今もあるのではないかなと思います。

 現業職場においては、長年働いてきた職場がこれを認めたら丸ごと無くなってしまう、首にはならないかもしれないけど働くところがほんとうに保障されるのだろうか、あるいは今までと全く違う仕事をするということがほんとうにできるのかなど、様々な意味での職場の不安というものに、事務職などよりは割と直結をしたところがあると思います。それでもなお、やっぱりまっとうにはなれないのであればという意識は多くの組合の中にあるだろうと思っています。公共サービスがすべて民営化されてもいい、例えば水道、水を民営化してしまうことはないのではないか、そういうことは社会の支持を得られないのではないかなどと思っていますが、公営企業評議会の中のみなさんがこの間頑張って警鐘を鳴らしております。そうしたこともあり得ないことではなくなっていくような、公共サービスそのものが、大幅に役割を変えさせられてしまう、職場が無くなるという中でありますから、一つの重要な課題、まずここから取り組んでいこうという共通課題として、入札制度の問題を提起をさせていただいているわけです。

 

末田

 価格重視で一般競争入札をしていくことの矛盾ということを中心に話していただきました。それを変えていく必要があるということが今の話でよくわかったと思いますが、その変える方向として政策入札があるわけですね。

 このような政策資料(注)が大阪自治研究センターから2002年1月に出ています。このとりまとめに尽力をしていただきました吉村さんから、この理念についてお話を伺えたらと思います。

 

 政策入札の理念 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

吉村

 いわゆる公共事業がよく話題になっていますが、建設事業については以前から最低制限価格が設定されていて、その他品質確保とかあるいはその業界の構造の改善を含めて、いわゆる業行政といわれるものの蓄積がされてきました。

 

/ 建設業と行政   /吉村    

 つまりどういうことかというと、民間のやっている事業について、かなり役所がうるさく口を出すということが認められてきている世界があるわけです。建設の世界という背景は、もちろん建設業許可というものが大きいわけですが、その許可を持っている会社でないと公共事業は受注できません。例えば、新?オい建物なんかを施工しようという会社はもちろん建設業許可を持っていて、且つ高いランクの評価を受けてないと施工できないわけです。例えば「おまえの会社は下請けについてちゃんと指導してんのか」「安全衛生についてはどうなんや」「今までおまえ賃金不払いなんかやってへんやろうな」ということが建設業の指導として、つまり労働関係の指導ではなくて建設業界の指導として行われてきているわけです。

 同じようなことが、公共サービスの民間委託についてできないものだろうかというのが、私の元々のものの考え方の出発点です。

 つまり普通の公共サービスについても、発注する側の役所がもっと受託する民間企業に口を出す方法というのはないのだろうかということです。その受託側の仕事の中身について何か口出しをするチャンスというと、結局、入札の段階、入札でないにしても契約を結ぶ段階、事業者を選定する段階ということになるので、その時に自治体側のものの考え方、つまり「いいものを安く作ってほしい」「いいことを安くやってほしい」、けれども「しかし労働条件についてもある程度のラインは守ってくれ」「あるいは男女共同参画をやってくれ」という考え方を一緒に盛り込んで事業者を選定することができないのかという話です。

 そのうちで、一番重要ですがシンプルな例として、賃金を考えてみます。

 建設の世界はどうかということで、『政策資料No.52』では公共工事設計労務単価というものを引き合いに出しています。というのも、公共工事の場合は、こういう工事をしようと思ったら、これだけの労働力が必要だから前の年度から考えたらこれだけの人件費がかかるから、それを元にして積算するというようになっているためです。それを積算して予定価格を決めて、その予定価格の8割ぐらいで最低制限価格を決めて入札をやるということで、あまりむちゃくちゃに低価格の落札はできない。ある程度人件費も材料費も見込んだ形での落札というのが考えられているわけです。

 それに代わることとして、自治労府職や全港湾などが大阪近辺で取り組んできたことは、「公共サービスに関しては地域最低賃金をある程度根拠にして積算しろ」という運動です。最賃というのは決してそんなにいい賃金ではありませんが、それより悪い、それが払えないような価格での落札はなくなるという取り組みは、10何年ほど続いてきました。ところが、そういう取り扱いは違法であるという判決が確定してしまったというのが、この7月です。  

 

/ 生活賃金の考え方  /吉村    

 賃金のことで言いますと、日本の場合はもちろん最低賃金ですけれども、最低賃金よりももうちょっと良い賃金というか、もうちょっと高い賃金を特に委託の場合には考えられないかということが、アメリカのものの考え方として最近かなり運動として取り組まれています。それがリビング・ウェイジ条例で、つまり生活賃金ということです。

 日本の最低賃金は、例えば大阪近辺でだいたい時給700円ちょっとの金額です。週40時間、月4週間と考えますと、それはいったい何人の人間が飯を食える賃金なのかというと、本人だけです。大阪の場合だったら、例えば生活保護で生活扶助プラス住宅扶助というのがあります。それで本人に対して支払われるお金というのは、13〜14万円くらいのお金が支払われる。それに見合う分がつまり最低賃金なわけです。あくまで最賃というのは、単身者用のものと考えると話が早いわけです。そうすると例えばシングルマザーで、子どもが二人ぐらいいて且つどこかの庁舎の清掃業務の委託の会社に勤めて掃除をやっているというような人が最低賃金を受け取っているとしても、やっぱり子どもの面倒は自分の賃金だけでは絶対見られない、ということになるわけです。

 もうちょっと劇的な構図ですが、アメリカでも同じことがありました。つまり普通に一応失業していなくて働いている人間なのに、しかも生活保護の列で食事の支給とか、そういうものの行列に並んでいる人がいる。これはなぜだろうか、実は賃金が低すぎるからではないかということが、リビング・ウェイジという言葉で考えられるようになったわけです。つまりアメリカで連邦レベルの最賃は時給5ドル15セント、650円ぐらいですか。日本の最賃とよく似ている雰囲気の金額ですが、そんなのではなくて、うちの市は子ども一人くらいは養える賃金を払う業者と契約しますという考え方、これがリビング・ウェイジ条例です。

 

/ 最低制限価格の難しさ   /吉村    

 そんなことも考えに入れながら、もし日本でちょっとでも良い労働条件の事業者と契約しようと考えれば、今の入札のスタイルではやっぱり違法になってしまうわけです。結局最低制限価格というのが、2002年の3月末からいわゆるサービス関係の事業者の選定についても設定できるようになりました。最低制限価格を設定して、それより低い価格で応札してきた事業者については失格にできるということになったのですが、それはやはりかなり機械的な話で、機械的に安い価格のところを失格させようと思えば、逆に言うと、そこで言う最低制限価格というのはかなりはっきりした根拠のあるものでないといけないわけです。

 例えば、うちの市は最低制限価格はこれだけにすると言って恣意的に決められるようなものじゃありません。そんなものは議会の追及に耐えないですし、議会で追及されないとしても、裁判沙汰になったら自治体側が負けると思います、きっと。だから、最低制限価格を設定しようと思ったら、結局今の社会通念から言って最低だろうと思われる価格におそらく貼り付いていくと考えます。そうすると結局何になるかといいますと、やはり人件費に関しては、その地域の最低賃金を元に積算したぐらいの金額になってしまうわけです。これはちょっとあまり夢が無いでしょう。ですから、それ以外の事業者の選び方はないかということで考えたものが、総合評価方式を活用する方法です。

 

/ 民間労働条件との関係   /吉村    

 公共サービスに携わる広い意味での、あるいは地方自治での仕事ですが、民営化とか民間委託の流れは80年代の半ばくらいから結構あります。そこで、民間の一般の労働者とどういう関係にあるのかということについての解釈を申し上げておきます。よくあるパターンはこういうことです。「だいたい公務員ちゅうのはね、この不況の時に高い給料もらい過ぎや」「だいたい仕事しとんのんかい」というその中のある部分というのが、民間に委託されると「おお、そらええことやないか」「民間活力の導入や」「やっぱりね、民間の人間の方がよう仕事しよる」という話はあるものです。そうすると、他の自治体で委託が進んでいるような仕事についておられる方は、肩身の狭い思いをなさっているのじゃないかと思うのです。けれども、「公務員だからええのう」と言われると、「悪くは無いなあ」ということで、少し言葉に詰まってしまう部分というのがあるのではないかと思うのですが、今言っていたような入札とか委託の実態を考えてください。

 安い価格を入れたところに落札させるしかないということでダンピングが横行している、仕事の質が悪くなるということもあるのですが、実はそれだけとは違います。安ければ安い程良いということで、受託した会社というのは、勿論自分の会社の従業員には賃金を支払わないといけないのですが、賃金を支払えるか支払えないかぎりぎりのところで落札します。そうすると、今まで公務員の側で行われていた仕事が民間に委託されることはどういうことになるかというと、その仕事の相場全体が下がってしまうことがあるわけです。つまりビル清掃で考えたら、民間会社から民間会社が請け負って清掃しているというのはいくらでもあります。大きいビルの所有会社から実際に清掃会社が仕事を請け負う、その仕事の単価に比べて役所から同じ会社が受け取っている金額はもっと安いということになったら、今まで作られていた相場を破壊してしまうわけです。民間の相場をです。ということは周り回って、民間でその仕事で食っている人たちの労働条件も、やっぱり悪くなるわけです。

 これは連合大阪で民間担当の方がおっしゃっていたのですが、「自治労のみなさん、まず直営堅持で頑張ってくれ。そうでないとしたら少なくとも、むちゃくちゃな民間委託はせんといてくれ。それは民間の労働者のためなんや」という話があります。だから、ここのところは重要で、民間の労働者はイメージとしては、「民間委託になったらええやないか」というふうに喜ぶというイメージが流布しています、すごく貧しい話ですけれど。その貧しい話というのにみんなが足下をすくわれるわけです、普通の感覚では。

 だけどよく考えたら、この話は民間の労働者のためでもあるということを頭の中において、連合でも陰に陽におそらくそれについて同意するという流れがあるだろうと思いますので、お考えいただければと思います。

 

末田

 今年の3月に地方自治法施行令が改正になって、サービス部門の入札でも最低制限価格が設けられるように法的にはなって、大阪府はまだ対応していませんから対応させていかなければならない。さらに「最賃では夢がない」「それに貼り付けされることには夢がない」ということで、運動の方向が示されているのではないかと聞いていました。

 それでは民間との関係ということで、豊富な経験をお持ちの小畑さんに、自治体委託と生活賃金の運動ということでお話をお伺いしたいと思います。

 

 自治体委託と生活賃金 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

小畑

 私は自治労の中で、民間委託された労働者の組合(「公共民間労組」と言っていますが)作りを中心にやってきています。最近では介護30万人組織化という、介護ホームヘルパーの組合作りも進めているわけですが、本来自治体職員、公務員のやってきた仕事が、民間の仲間が担うようになってきている。その問題については、橋本さんや吉村さんからもお話がありましたが、「何故安いんだ」「同じ仕事をしていたのに何でそんなに安いんや」と考えた時、身分の違いみたいなことで考える方もいたわけです。「身分が違うから安くて当たり前やないか」ということで片づけられる問題なのかということです。私たちは、男女平等参画とか同一価値労働同一賃金ということで主張しているわけですから、本来同じ仕事をしていれば、公務員であれ民間労働者であれ、同じ賃金が払われてしかるべきだと。しかしあまりにも違いすぎると。

 今、最低賃金の話もありましたが、ついこの間大阪で、組合があるところですが、700円で会社が職安に人を募集にいったのです。大阪府の最低賃金は703円ですから、職安で「お宅、それじゃあだめですよ」と突っ返されたわけです。今そういう事態が、職安に行く会社でもまかり通っているわけです。東京の場合は708円で、だいたい新聞広告なんかを見ていますと800円です。私が住んでいるところは江戸川区というところで一番東京でも賃金が安いほうですが、800円。だから708円の最低賃金はあまり効果が無いと見られがちですが、実は708円があって800円です。708円というのがあって、だいたいプラス100円が東京のパートの相場というふうに言われているわけです。従ってこれが今のリビング・ウェイジじゃありませんけれど、最低賃金が900円になれば相場は1000円になるかもわからない。そういう意味で最低賃金はあまり関係ないということではなくて、それなりの意味を持っていると思います。

 

/ 雇用構造の大きな変化    /小畑    

 実はそういうことがまた非常に問題になってきているということは、電機工場っていうと、昔私たちのイメージではラインがあってテレビを作る時には女性のパートが並んでいるという光景だったのですが、電機連合の人に聞くと、もううちにはパートもいません。パートがいないというのは、実は直接雇っているパートがいないということであって、実際にはそこは請負の会社が圧倒的にパートを使っているわけです。或いは外国人労働者を使っている。直の雇用じゃなくなってきているわけです。

 自治体で見ると、臨時・非常勤・パートの人が増えています。自治労の統計でも今30万人を越えています。実際の自治労の組合員がいる職場ですら30万人を越える臨職・非常勤が増えている。一方、外に対しては外部委託が進んできて、特に労務提供型の業務委託が増えています。

 ついこの間熊本であったのは、派遣だと言われてきたけれども、派遣法の下での派遣労働者じゃないのです。労務提供型の業務委託でした。派遣法の下では一定いろいろ整備されており、一年経てば派遣先に雇用責任があるというのが今の派遣法で、それを勉強した労働者は「私は派遣労働者だから1年経ったからまた町に雇ってくれ」と言ったら、町の方は「いやあなたは実は派遣労働者じゃなくて、業務派遣の労働者なのです」ということで逃げているわけです。職安へ行っても十分らちがあかないと「法を厳密にやればあなた首になってしまいますよ」と言われると弱くなってしまうことがあるわけです。そういう雇用構造が変化をしている事態が今進行してきています。今このまま進行すれば社会保険を払う人がいなくなる。税金を払う人がいなくなる。それで生活保護にかかる人が増えてくる。どうするのですか。よく最近、合成の誤謬ということが言われます。日産のゴーンさんじゃないけれども、リストラやってその会社は確かに黒字になったかもわからないけれど、リストラされた人は失業者で、もっと町にあふれている。社会全体にしてみたら、そこに非常に大きな問題があるということが今私たちの周りでも進行してきているのではないのかなと思っています。

 

/ 雇用の継続の闘い  /小畑    

 もう少し具体的に申し上げますと、実際に埼玉であったのですが、公共民間の仲間で入札によって毎年会社が変わる人がいる。庁舎清掃をしていると毎年会社が変わるわけですから、毎年1年生、新入社員です。そうすると、今は労働基準法で半年でも有給休暇が取れますが、昔は1年経たないと有給休暇が取れなかった。すると毎年有給休暇はないのです。ましてや退職金もない。こういう事態が役所の清掃の現場であるということです。

 札幌市で市立札幌市民病院の清掃委託の落札が96年2億円していたものが、2002年度には6700万円、三分の一ですね。三分の一でできればいいじゃないかと思われるかもわかりませんけれども、ここでは解雇問題が出てきたり、あるいはそういった中小企業であっても正社員のやっていた仕事がパート化される。そしてさらに社会保険の取りやめ、これは今ものすごく広がっています。社会保険に掛からないようにしようということで、ますますパート化が進行してきている。これで仕事が楽になるわけではありません。これは社会保険も深刻な問題です。そういうことが今どんどん起こってきています。

 自治労の運動では、公共民間の問題として入札制度は重要なのですが、競争入札をやめろと言うことはできません。競争入札をやめてずっと随意契約でやれということになればこれまた問題になります。しかし、入札と契約における公正労働ということを考えるべきであると考えてきました。そこが制度的にできなくても、今現在は運動的にこの間クリアーしてきました。

 ひとつは、会社が替わってもそこで働いている人はそこの仕事のノウハウを持っているわけですから、働く方から見れば何よりも自分の雇用を継続して欲しいというのは当たり前のことです。それを雇用継続ということで要求してきました。それから賃金や労働条件で、10年勤めていればそれだけ有給休暇も増えているわけですから、そういう有給休暇もその分継続してくれ、或いは賃金水準もこれまで上がってきた分を継続してくれ、ということでやってきました。また、それを保障していくための労働組合の権利、労使関係についても自治労の旗は守るのだと、会社が替わっても自治労の組合があるのだと。逆に自治労嫌いなところは入札に参加しません。そういうこともやってきました。そして、サービスを継続するのだということでこの間いくつかのところでやってきて、ほぼ100%とはいきませんけれども、やってきました。しかし、これはまだまだ運動です。一つの制度化されたものじゃありません。

 

/ 総合評価方式の活用   /小畑    

 労働組合の組織率というものは今全国で20%ですし、ましてや私たちが今関わっているサービス業では13%ぐらいです。ほとんど労働組合がないに等しいようなところでやってきています。そうしたことで運動から如何にそれを一つの制度、政策にしていくのかということが大きな課題としてあったわけです。そして今、吉村先生からもお話がありましたけれど、公共工事等については、これまでも最低制限価格というのはありました。全建総連の方は公契約法とか公契約条例ということで、ここで決まっている金額、例えば人件費が2万円で予算化されて2万円で契約が結ばれているのに労働者には2万円いっていない、1万円しかいっていないじゃないか、ピンハネをされている、こういうことはおかしいと、今、別の意味で条例なり法律を作ろうと運動されています。

 私たちの場合は、労務提供型の請負がどんどん増えてくる中で、それに対する保護が無いということで、自治体入札・委託契約制度研究会を立ち上げる一つの動機になってきたわけです。研究会をやる中で、いわゆる公正労働というだけでなく、環境や或いは男女平等参画や或いは障害者雇用の問題とか様々問題にしてきました。例えば環境問題をとってみても、安ければ安いといって、その企業が公害を出したらどうするのですか。公害対策のお金はどこから出るのですか。これはやはり別のところで税金を使わざるを得ないわけです。片一方で安くしていても、結局別のところで高くしていれば意味がないわけです。だから総合評価方式を私たちは今提唱しています。これは制度的にもあるわけですから、それを使っていく必要があるのではないかということです。

 千葉県では障害者雇用企業優遇と新聞に載っておりますが、入札資格の中に障害者雇用率とか環境ISOを入れるということで、今年の4月からなっているわけです。だから何も条例を作らなくたってできることもあるわけです。ただ条例を作れば、基本的な条例というか基本の枠ですから、それぞれ仕事をする場合、いちいちあまり気にしなくてできるわけで、そういう意味で基本条例は大きいものがあるわけです。

 

/ 生活賃金運動はどうして起きたか  /小畑    

 その中で、安ければ安いほどいいということへの疑問から始まってきて、アメリカにおけるリビング・ウェイジ(リビング・ウェイジそのものに保障という意味はないのですが、私は最初生活保障賃金と訳しました)の意味内容はどちらかというと生活を保障する、最低生活を保障するという意味で、そういうものが含まれているわけです。

 カリフォルニア州のサンノゼ市の市議会が最低賃金条例を採択した時の決議ですが、ここで非常にアメリカ的だと思ったのは、「最低限の暮らしができる賃金の支給を推進するために市の資金を投入することにより、こうした従業員の生計維持能力が向上すると共に貧困が改善され、サンノゼ市における税金を財源とする社会福祉事業の規模が縮小する」とあります。こういう発想は日本にあまり無いです。どちらかというと福祉は福祉できちっとやれと言ってきたわけですけれども、この発想は、結局8時間仕事をした人が福祉の世話にならなきゃいけないのか、8時間仕事をした人が福祉の世話にならなくてもちゃんと生活ができるという賃金を、ましてや自治体が発注している仕事において保障しないのはおかしいじゃないか、そういう税金の使い方はおかしいというのが、タックスペイヤー(納税者)としてのアメリカ市民の考え方なわけです。

 ワシントンのすぐ北側にあるボルティモア市というところでリビング・ウェイジの運動が最初に起こったのは、次のような経過です。市の公園の清掃をしている人が、教会で毎週日曜日にやっているフードサービス(食事提供)に並んでいる。これはどうしてだと聞くと、賃金が安い、並ばざるを得ない。市の公共事業、市の仕事をしているのであれば、ちゃんと生活できる賃金を払うべきだ。そうでなければ逆の意味で生活保護を出すべきです。そういう意味で税金の無駄遣いになるのじゃないか、ということで出てきたわけです。やはり私たちも発想を変えていく必要があるのじゃないのかなということを感じた次第です。

 

/ アメリカの自治体では    /小畑    

 それで、リビング・ウェイジ運動はアメリカでは自治体が雇用しているパートには勿論それ以上出さなければならない。自治体が委託等で仕事を発注している企業、あるいは自治体が補助金を出している企業、例えばNPOなんかもそうです。最近ちょっとNPOも賃金が安いという問題があるのですけれども、そういうところも、あるいはプロジェクトを作って自治体がそのお金を出している再開発地域とか、ロサンジェルスの空港は市営ですがロサンジェルスの空港の中で働いているマクドナルドの人でも、或いはおみやげ店の人でも、そこで仕事をしている限り税金が投入されているわけですから、その店や企業の労働者にはリビング・ウェイジを払わなければいけない。リビング・ウェイジの水準は、アメリカの全国最賃は5.15ドルですが、その約倍くらいです。8ドルから10ドルぐらい。ものによっては11ドル。日本で言えば月額20万円ぐらいになっているわけです。時間給にしても、10ドルだったら今1200円ぐらいです。大阪府でも出していないと思います。そういうものをリビング・ウェイジとして出して、それで貧困をなくしていこうということでやっています。

 また、雇用継続についてもロサンジェルス市だとか或いはITで有名なシリコンバレーの中心のサンノゼ市では、やはり条例で、委託の労働者を、入札で会社が替わっても雇用はまず引き継ごう、最低90日間引き継いで問題がなければ、そのまま引き継いでいくということも条例化をしてきています。

 こうした運動には、労働組合はどちらかというと最初は遅れていたのです。地域のNPOの活動、或いは教会の活動、こういうところから始まってきたのです。それにアメリカでいう自治労(AFSCME)が参加をして一つの地域の大きな運動になって、今80市で行われてきております。

 私たちは、私たち自身がこの地域を変えるという大きなテーマがありますから、そういうことに向けて地域の人たちと、もう一度私たちの仕事そのものを見直していく、委託の問題を見直していくということがこれから必要になってきているのじゃないかなと思います。若干の報告と問題提起にさせていただきます。

 

末田

 ありがとうございました。最低賃金とかいう話がいろいろと飛び交っていますので、やはり労働行政と一番関わりが深いだろう。うちの単組ではどうなるのかということも含めてになりますが、自治労府職労働支部長の橋本芳章さんに政策入札と労働行政ということで少しコメントをいただけたらと思います。

 

■ 参加者質疑・討論

 

 政策入札と労働行政 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

橋本(芳章)

 この政策入札という言葉はかなり新しいのですけれども、こういった問題については何十年も前からありまして、二つの観点から見ることができるのではないかと、書かせていただいています(注)。

 

/ 私たちが求めてきたもの   /橋本(芳章)    

 最初はやはり労働組合の方から、「悪いものは排除せい」という要望が労働行政、或いは労政行政の方に寄せられました。1円入札とか不当なダンピングで下請け労働者の最賃違反や不当労働行為、労災隠し、こういった問題はずっと行われてきたわけで、安かろう悪かろうということについて、いろいろな指摘がありました。

 それに対して、政策入札という言葉ではなかったのですが、例えば地元発注とか中小企業振興といった問題も政策入札の一つではないかというふうに考えてきました。その延長で、品物を安定供給する、或いは労働力を安定的に供給する優良企業、或いは品質管理を適正にやっておられる企業について、やはり労使で作り上げていかなあかんのではないかということで取り組んできました。

 しかしながら、現実問題を見ますと、例えば先ほどゼネコン問題、建設の問題がありました。建設については、例えば法律や公共建築について先生の方から言われましたが、ルールができても現実にはゼネコンに対しては一式方式での委託です。そういう意味では下請けの一つ一つについて、例えば「生コンについて」、「ポンプ車について」というような形では提起がされていない。それに対して労働組合から要請があり、具体的に下請けそれぞれについて領収書を発行せよというところまで、今大阪府としては取り組んでいるところです。

 これが清掃委託、警備委託になると、人の安定供給、技術力ということになるわけですが、実質落札を受けてから採用となり、落札できなければ事実上解雇するという実態で、自ら労働者を雇用していない企業が圧倒的です。そのために、雇用保険、健康保険、年次有給休暇等も満たされていないような実態が繰り返されてきました。

 

/ 大阪府の知事回答   /橋本(芳章)    

 冊子には、神奈川県と大阪府の実態がありますが、労働団体からの要請に基づいて、大阪府知事、或いは神奈川県の知事が回答を出した内容です。大阪府知事の内容は昭和48年に全国金属、或いは昭和50年に運輸一般関西地区生コン支部からの要請で、それぞれの民間企業について、或いは総評、国民共闘会議から一つ一つの労働争議を巡って要請があった時に、知事回答が行われました。

 そこでは労働関係法令及び公害条例に違反する企業について、所管する行政機関の処分決定、例えばこれは労働委員会の不当労働行為の命令があったとか、或いは労働基準法の違反があったとか、そういう労働関係法令の違反があり、所管する行政機関の処分決定があった場合に、一定期間指名競争入札から外す、或いは指名停止処分を行うという内容でした。昭和53年が最後ですので、大阪府の場合はどんどん色あせてきました。10年経って昭和63年には忘れ去られていくかもしれないということで、労働部ではせめて地労委命令ぐらいは各発注部局等で、検討の素材にのせてもらうという目的で、「命令文」を配布することとしてきました。また、組合からの要請に応じて、労働争議の早期解決にも知事回答を紹介をしながらやってきました。そういう意味では、この回答は今も大阪府では守られているということを確信しているところです。

 

/ 最低制限価格設定と大阪府の敗訴   /橋本(芳章)    

 さらには最低制限価格の問題があります。先ほど7月に決定があったということで、最高裁の最終決定がありますが、1円入札のように「あり得ない契約をよしとする」考え方について、自治労と全国一般、全港湾の三者で申し入れ行動を行ってきました。かつて大阪地評から申し入れを行い、清掃・警備など人が介在する委託契約には最低制限価格を設けさせた時代がありました。

 この最低制限価格を設けさせたことが仇(あだ)になり、法律の壁が「最低制限価格の設定は違法」ということで、担当課長がその裁判(注)を闘っていくことになりました。裁判を闘っていくのに、大変申し訳ないけども、労働支部も支援しませんでしたし、当時の労働組合も支援していないわけです。課長は管理職ですから、管理職のカンパで闘ってきたというのが、大阪府の実態です。

 そういう意味では大変厳しい決定になってしまったわけですが、この当時、最低制限価格を設けさせたということが仇になったかなという部分があるのですが、同時に清掃や警備の委託は新しい受託企業に継続雇用させるように指導した時代がありました。この点についても、先ほど小畑さんがおっしゃった通りです。

 労働条件を確保しようと思えば、当然継続雇用です。その継続雇用をしなければ年次有給休暇は当時無かったわけですから、そういう問題も総評が間に入って発注元の府が次の受注企業と話し合いをしていくというようなやり方をとった時代がありました。

 同時に先ほど問題提起もありましたが、例えば労働安全衛生という学習会を自治労・全国一般・全港湾で開催をした時期がありました。この点について、やはり民間も公務員であろうと、労働安全衛生とかいろんな問題を同じような課題で取り組んだ場合に、発注価格というのは下がるはずがない、人件費ということで下がるはずがない、だから民間委託の相場を下げないでおこうと思えば、少なくとも公務員であろうが何であろうが、そこでやられているルールをきちっと守らせていく、それが100%守っていければ、当然安上がりでやっていけるはずがないのです。大阪府(庁)にはないのですが、その当時自治労では、例えばゴミ収集車の二人乗車と民間の一人乗車の問題について取り組んできました。

 

/ 労働行政の観点から    /橋本(芳章)    

 大阪府の方では今年度から、府税を納めている企業に発注するということを決めました。それができるのであれば、やはり府税を納めているいい企業に優先するという見方ができるわけです。先ほどから議論になっている「いいものを優先する」という考え方の中に、例えば総務庁が自治労との交渉の中で、総合評価方式、自治体が望むべき基準を一つ一つ作り上げて、税金と同じように「このことを満たしている企業」を優先するということがあってもいいのではないかと思います。

 そういう意味では、今回の政策入札という考え方の中に入れていけるのではないかと考えた次第です。

 労働行政の観点から言わせていただければ、やはり障害者の雇用率達成状況や、労働基準法・最賃法・労働安全衛生法・労働組合法など、企業が遵守すべき法や課題をこの中で満たしていけたらありがたいと考えています。悪いものを排除するという考え方から一歩前へ出て、いいものをより優先させていくという方向に行く方がほんとうはいいのかなと考えています。

 ただ政策入札という言葉とかリビング・ウェイジというのは耳新しい言葉ですが、今までの20年30年をさかのぼった経過を見ると、残念ですが、実現が目の前にあるという情勢ではないと思っています。まだまだ不安定雇用労働者がいるわけですから、少しでもチェック体制を強化していいものを優先、悪いものを排除するという両方の側面から地道な取り組みを行っていくことが必要ではないかと思っています。

 

末田

 先ほどからパネラーの発言の中にも少しお名前があがっていたのですが、このテーマで話をするのなら是非来ていただいて一言コメントいただきたいということで、全港湾建設支部書記長の青木伸夫さんからコメントをお願いします。

 

 全港湾の闘い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

青木

 全港湾建設支部というのは、今話題になっています自治体の庁舎管理業務、清掃とか警備とか設備管理などの労働者をかなりたくさん組織をしています。この間の入札問題の中で、大変ひどいことになっている、是非現場からの報告をさせていただきたいということで今日は来させてもらいました。今、橋本さんから政策入札とかリビング・ウェイジは目の前にないと言われてちょっとがっくり来てパワーが落ちたのですが、それはおいて実態報告をしたいと思います。

 

 

/ 入札の実態は    /青木    

 全港湾建設支部では、一昨年堺市を相手に裁判をしました。どういう裁判かというと、今まで「入札が高すぎるから怪しんちゃうか」「談合があったんちゃうか」という裁判はいくつかありますが、堺市が行った入札が安すぎるからおかしいという裁判をしました。

 どういうことかと言うと、堺市に小さな水道局の分館という建物がありますが、そこに警備員が一名配置されています。夜間16時間、土日24時間警備していますが、だいたい年間でいうと管理時間が6800時間ちょっとです。この間入札があって、落札した金額が299万9000円、単純に時間数で割ると時間当たり440円ほど。要するに警備員一名配置して440円ということですね。夜間の業務ですから「泊まりだから金払わんでええやないか」という話もあるかもしれませんが、これは最近「夜間の泊まり業務も労働時間だよ。お金払いなさいよ」と、最高裁で判決が出ました。管理時間だったら440円の入札があった。

 実は堺市は、大阪府の成人病センターの裁判があるまでは最低制限価格を設けていました。ところが一昨年に成人病センターの高裁判決を受けて、最低価格を外して入札をやっています。その結果、299万円で落札をした。ここに、全港湾建設支部の組合員が一人いたのです。警備員で一人いたということで、「こんな入札おかしいやないか」と裁判をしました。弁護士に相談しても、基本的に行政訴訟というのは自治体に損を与えたということで裁判ができるのであって、安くやって良かったねという裁判は勝てないということでした。ほとんど勝つことは考えていなくて、ともかく社会的に喚起しようと裁判を闘いました。自治体というのが何でも安ければいいと、最低賃金法をさえも無視するような、或いは労働基準法さえも守らないような入札をやってよろしいのか、ということを争いました。この判決が今年の2月18日にあり、勿論負けました。2月18日に判決があって、地方自治法の改正が3月18日の閣議決定で25日発効しました。ちょうど閣議決定の1ヶ月前に見事に、皮肉ですけれども、負けました。

 またこの入札は指名競争入札だったのですが、落札した業者にうちの組合員を雇えと交渉して雇わせました。堺市で25年ほど営業している会社ですけども、その時初めてわかったのは、びっくりしたことに今まで社会保険を掛けたことがない。25年間営業して何人の警備員が今までいたか知りませんけれども、一度も社会保険を掛けたことがない。従ってうちの組合員は社会保険番号1番を取りました。さらに聞くと、労災保険も掛けたことがない。

 

/ 社会保険も掛けない会社が   /青木    

 労災保険も雇用保険も社会保険も掛けたことがない会社を、堺市という行政は、わざわざ指名をしたのです。元々いた会社は当然社会保険を掛けていますから、社会保険・労災保険を掛けている会社と掛けていない会社を競争させたら、金額だけで勝負したら、保険掛けていない方が勝つだろう。当然そうなる。それが、今の入札の実態だということです。

 今は、入札がともかく価格の中身を問わない。ですから最低賃金も払わない、社会保険を掛けない、有給も払わない、一時金もない、退職金もない、そんな会社がどんどん落としてしているということです。

 入札激化の中で社会保険を外した、従業員に社会保険をそもそも掛けないという企業がどんどん増えている。それを実は自治体が誘導している。競争で勝つには保険を掛けない方が勝てるわけですから、自治体はそのことを誘導している。悪質業者をはびこらせることを自治体が、実は入札という行為の中で現実にしているということだと考えています。

 労働組合の関係もあって障害者の就労支援をしている団体と連携をして、そこから何人か人を会社に入れさせています。会社の方としては、なかなか健常者並みに仕事ができないということで経費的にもかかるので嫌がっているのですが、労働組合の話の中で採用させていっています。どうしても民間の場合は発注者の了解が得にくいということで、官公庁の物件に障害者を配置して仕事をしておりますが、そういうところは入札になるのです。すると基本的に単価勝負ですからどうしても障害者を採っていると、普通よりも人員を多く配置しなきゃいけないということがあって、競争に負ける。従って会社の方からはもうやめてくれ、価格で勝負する以上はもう障害者を外した形で人員配置をしたいということが言われていました。

 今の入札制度はそういう意味でもっとも弱い人、障害者であったり、高齢者であったり、そういうもっとも弱い人を比較的障害者や高齢者という層にも働きやすい職場であるビルメンの職場から事実上排除する。

 最近でも障害者の雇用率がどんどん下がり、解雇が横行しているのですが、実はまた今の自治体入札の中で、自治体がそれを進めている。社会的弱者を公共の建物の仕事から排除していることを今の入札は進めていると思っています。

 入札のいくつかの実態を言うと、結局裁判はできなかったのですが、昨年の入札で、ボイラー技士を派遣するという契約が大阪市の建物でありました。13時間、月25日人を派遣して7万円です。時間単価で言うと220円。これは、どう考えてもおかしい。おかしいことだけれども、法的にはまかり通っているというのが、今の自治体の状況だと思います。

 

/ 入札が雇用を奪う   /青木    

 今回3月25日に地方自治法施行令が改正されて、とりあえず率直に言って喜んでいます。ただ大阪府も3年前までは底値があったのです。3年前の状況がビルメンテナンスの労働者にとってすばらしい世の中で、この3年ほどでむちゃくちゃになったかというと、3年前からひどかった。最低制限価格は大阪府も設けていたけれども、その金額というのは最低賃金に貼り付いていたし、現実には非常に弱い労働者が多いですから、労働条件が上がらない、非常に厳しい条件にずっと置かれているというのが実態です。

 しかも最大の問題は、入札が行われることによって雇用が奪われるということです。さっきの例で言うと、たった一人の警備員を派遣しているところを入札に掛けるということは、これはその労働者にとっては職場から出ていくか、とことん自分の賃金下げるから居させてくださいと言って会社に泣きつくかしかないのです。

 現に、組合の組織している会社で、入札に備えるために賃金を下げて欲しいという提案が2月にあったのです。組合もずいぶん悩んだのですが、結局、入札に是非勝って欲しいということで賃下げをしました。そのぐらい追い込まれています。20数人、場合によっては百数十人の労働者の首がかかっている。自分の入れた札よりも1円でも安い他の業者が入れたら、全員解雇ということが、ビルメンの労働者では毎年毎年繰り返される。

 ですから、みなさんの職場に建物清掃のおっちゃん、おばちゃんがいたり、警備のおっちゃんやおばちゃんがいると思いますが、2月3月頃の顔を是非見ていただきたい。ほんとうに緊張しています。落札した時はほんとうに万歳をするのですけれども、組合役員にとっては胃の痛む季節が1月から4月に掛けてずっと続く厳しい条件に置かれている。

 「建物があるうちはずっと随意契約をしろ」と主張もしていますが、なかなか通らないのはよくわかっています。そうは言わないにしても、入札をするにしてもそこで働いている労働者の首を飛ばすのが目的じゃないだろう、目的というのは適正な価格で発注するということにあるわけですから、そこにおける労働者の雇用というのは別に守ったらいいじゃないかということです。よっぽど問題があったら、それはそれで首にしたらいいけれども、基本的に問題がない以上、希望する労働者はすべて、たとえ入札があっても雇用を続けるという入札条件を是非作って欲しい。これは今日の本題とはちょっと違うのですが、それが実はビルメンテナンスのほんとうに切実な問題です。雇用を守っていく上においても、価格がある程度無いと、或いは前年の三分の一で落札しましたと言って全員雇用しろと言ってもそれはとうてい無理なわけで、そういう意味では一定の基準的な価格、公正労働基準が保障される入札価格というのが絶対に必要なのです。その上で是非、労働者の雇用を守るような制度を考えていただきたいと思っています。

 

/ 大阪府への期待   /青木    

 この間3月25日の地方自治法施行令の改正を受けて、各自治体にお願いに行っています。地方自治法施行令ができましたけれども、実際に最低制限価格を設けて入札をするかどうかは各自治体の判断ですし、どの入札にどの基準で設けるかはそれぞれの判断ですから、是非最低制限価格を設けていただきたい、設ける以上は適正な価格でお願いしたい、最低賃金さえ払えばいいよなんていうような、要するに社会保険も払えないような最低価格があるわけですから、それじゃあんまりでしょう、やっぱり適正な価格を是非考えて欲しい、ということでお願いしています。いくつか当たりましたけれど、私が大変期待しているのは大阪府です。大阪府の用度課にお話に行きましたけれど、リップサービスじゃないですけども、一番いい反応をしていただきました。他の自治体はほとんど考えていません。残念ながら。説明すればそれなりに理解をしてくれるのですが、「まあ考えとくわ」という程度で、ほんとうに今のこの状況、そこで働いている労働者がいかにひどい状況にあるかということを真剣に考えていただいているのは大阪府だと思っています。是非期待をしていますので、よろしくお願いしたい、ということで、私の報告を終えます。

 

末田

 改めて過酷で悪質な実態も生の声で聞かせていただきましたが、それを大阪府に期待するところ大ということで、組合としてもプッシュをしていかなければならないと思います。今後の運動について、私たちの運動の参考になるような提案などを3人のパネラーからしていただけたらと思います。

 

 自治労運動への提案 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

吉村

 全港湾の青木さんのお話にちょっとからめてですが、大阪市庁舎清掃業務の話が具体的に新聞に出ていたので、これについてお話しします。

 

/ 民間相場を破壊する悪代官方式   /吉村    

 予定価格6500万円を2800万円で落札したが、95年度は1億6000万円で17.5%の金額になってしまったと朝日新聞に出ていました。この時に、全港湾が「これはおかしい、最低賃金を払えないのではないか」ということを大阪市に対して言いました。大阪市は結局どうしたかというと、確かにこれは最賃払われへんのと違うかということで、事業者に対して「この金額で落札しましたけれども、ついてはうちの会社は労働者に対して最低賃金はちゃんと支払います」という誓約書を書かせて、大阪市はそれを出させたわけです。そういう形で落札させたということですが、それやったらええのかというと、ちっともいいことは無いというのが私の考え方です。誓約しているのだからおそらく最低賃金を払うのでしょうが、その最低賃金を払うためのお金はどこから持ってくるのですか、その会社は。他のところで儲けたお金を持ってくるしかないですよ。これが私のさっき言っていた民間の相場を破壊するという話です。今の例で言えば大阪市のやっていることというのはつまりこういうことです。「俺はおまえの会社に賃金が支払えないぐらいの金しか払わんぞ。そやけど、おまえの会社は労働者に賃金ちゃんと支払えよ」ということをやっているわけです。これは、悪代官方式です。これは何も、大阪市が悪いというのではなく、どの自治体でもふつうそうしないと違法になるということは、先ほどお話ししたとおりです。だから労働条件のことだけから考えたら、一瞬いいように思うことが、よく考えるとやっぱり普通の商取引の常識から言ってむちゃくちゃということがあるわけです。そういう意味から言っても、民間の委託というか、入札制度というのを考えていただきたいというのがまず一つ。

 

/ 今でもできることは多い   /吉村    

 それと、もう一つは、現実のところでどう取り組むのか、或いはどう取り組ませるのかというところで、宿題的なことを考えなければいけないと思います。

 元々、政策意図を反映させた入札というのができそうだ、それを総合評価方式の導入によってやれそうだということのヒントになったのは、神奈川県に作られる衛生研究所、つまり半分病院のような半分研究所のような施設に関しての、最近はやりのPFI事業者の選定プロセスだったのです。メインの部分は建設の事業ですが、運営についてもやるからPFIという話になるのですが、その時の落札者の決定基準の中に1項目だけ障害者雇用率という項目が入っていたのです。つまり、障害者雇用率を達成している会社については何点プラスしますよ、という考え方がちゃんと入っていたわけです。

 これが、先ほど青木さんも障害者のことをおっしゃっていましたけれども、総合評価で自治体のものの考え方を反映できるということの感触を得た事例です。ですから、大上段に振りかぶって、例えば時給2000円の会社でないと委託しないとか、そんな話をしているのとは違うわけです。もうちょっと手近にしかも法定の部分で、そこのところだけでも守っている会社に優先して事業を回しますよということはやれるのだ、そこのところから始めましょうということです。

 社会保険・労働保険のことについて、例えばその事業者が労働保険番号を持っているかどうかということを確認するだけでもだいぶ違うはずです。ですから、そんな条件から落札者を決定する時に盛り込んでいくということはそれほど難しいことではないのではないかと思っています。

 

小畑

 今後のことになると思うのですが、今自治労ではこれまでのいろいろお話ししたことをふまえて、社会的価値を実現する基本的な条例を作っていこう、或いはそれに対する落札者の決定基準モデルみたいなものを作っていこうと出しています。すべての職場かどうか別として、職場でできることとして、様々な形で入札をして契約をしています。或いは仕様書を作っています。そこをもう一度点検をする必要があるのじゃないのかなと思います。そこに公正労働基準とか、少なくともそういうものがまず入っているのかどうか、いくつか研究会をやる中で調査しました。これもやはり、労働組合の取り組みをやっているところとやっていないところの反映というものがありました。

 

/ 公正労働基準を作る    /小畑    

 これは埼玉の例ですが、例えば労働基準法や労働安全衛生法その他、関係法令を重視しなければならないという、ごく当たり前のことを書いていない契約書が結構多いのです。名前を出していいのかどうかわかりませんが、日本ヘルスは下水処理の仕事をしています。そこに対して下水法を守らなければいけないと書いてあるのですが、労働安全衛生法を守れとは一言も書いてないのです。或いは法令を守ればいいのだけれども、平気で残業代を払っていない会社もあるわけです。

 だから私たちのできることから、まず自分たちの職場なり自分たちの自治体が契約しているその中身をまず点検をしていこう、その中でできるだけ公正労働基準というものを今後は作っていこう。その時に、リビング・ウェイジがいくらかという問題は、次の問題としてまた出てくると思います。

 日本の労働者の賃金というものは、あまり絵に描いたような金額を言ってもしょうがないということもあるわけですが、前年からいくら上がるかということできたと思うのです。それは春闘だったと思います。だけど今は変わってきてそれぞれの職種、例えば今でいえばホームヘルパーはいくらだと、残念ながら極めて低いのですが、社会的評価と基準が必要です。私たちの仕事は公務員だからいくらという時代じゃなくなってきているわけです。やはり一人一人の仕事の価値というものがいくらだと、これは外国なんかの公務員組合に行くと、ホームヘルパーはいくら、或いは清掃はいくら、全部賃金違います。だからと言って、めちゃくちゃ違うわけじゃありません。わずかな差だけれども、そこの評価というものを社会的関係の中でどうやっていくのか。それはとりもなおさず、契約の中にも当然反映させなければならない問題です。ヨーロッパの運動は、もうすでにそれをやっております。

 

/ 条例制定の運動化   /小畑    

 先日、参議院議員の高島さんが自治労大会で公共民間総会挨拶されたのですが、今話題になっている郵政事業の民営化の中で、西ドイツはすでに一部民営化をしているが、片一方はまだ国営でやっている。民営化の方も、公正労働基準でしなきゃならないということですから、あんまり進まないっていうのです。イギリスでもサッチャーの時にあれだけ競争入札、強制競争入札をやったのですけれど、今揺れ戻しがありましてロンドン市の市長はやはり公正労働条項を入れようとしています。この背景にはILO94号条約(注)があります。日本はあれだけ国際化、国際化と言っているのですが、ILO94号条約は批准していません。大きなことで言えばそういう国連機関の条約批准の問題があるのですが、私たち自治体から何ができるのかということを考えた場合に、条例=自治体の法律です。今分権自治といっている中で、どうでしょうか。今提起している条例、社会的価値を実現する基本条例、或いはリビング・ウェイジの条例を大阪が制定すると国の方は文句を言ってくるでしょうか。これから地域のあり方、税金の使い方、こういうところから見て、私たちがこの条例の運動に本格的に取り組む、そのためには連合、地域の労働運動、地域の市民、そうした人たちも一緒になって議論をして運動化していくことが必要じゃないかと思います。

 最後に、今いろいろお話に出ています最低価格の前に予定価格をどうするのだという基準について、私たちも今悩みの種なのです。いくらがいいのかと、これをみなさんもいろいろな経験をされていると思うのですが、私たちもこれから出して、ほんとうの意味で公正な労働基準を作っていく、そこのところの具体的な数値等も、今問われてきているのじゃないのかなという感じがしております。

 そういう意味で、地域を変える、地域から、職場から運動を作っていくことをお願いしまして、私のまとめにさせていただきたいと思います。

 

橋本(弘樹)

 自治労府本部では、今年の春闘の課題として、この問題を府内の各自治体で取り組んでもらえないかということで、最初の号令を発したわけです。

 少なくとも半年経って、とりあえず来年の3月までにちょっと成果が目に見えるぐらいのつもりで頑張って欲しいと言いましたが、府内の各市町村を見ましても来年3月に仕上がったものをというのはなかなか難しい状況です。

 

/ 自治体契約の点検を   /橋本(弘樹)    

 同時に、各自治体の実際の委託契約、諸々各部門で一回点検をしてほしい、これも全委託費ということになるとちょっと大変ですので、特にその矛盾が大きく現れている、労働組合として問題意識を持っている請負、人件費が大多数を占めている部分だけでも洗い出して欲しいという調査もかけています。こうした取り組みの中で問題意識を喚起して、何とか当面の課題として進めていけば、必ずしも孤立無援の運動ではないはずだと思います。そういう意味で、地域労働運動の課題です。企業内、府庁内の労働組合の課題ということだけでなくて、地域の社会全体を良くしようという意味の地域労働運動の課題です。

 連合大阪のある幹部の方が、自治労こそこの課題で頑張って欲しいと言っていただいているのは間違いないことです。残念ながら民間の大きな産別のみなさんからは多少紋切り型ですが、「自治労は所詮民間委託反対でしょ。それは自分のところの労働条件を守りたいからでしょ」という見られ方も厳然として存在しています。

 しかし、特に労働力の価格破壊が今みたいに続いていいはずがない。これは、少なくとも労働組合の看板を持っている方は、みんな理解をしているはずです。社会的に少なくとも労働の基準を確立していくという連合の大きな運動目標にもなっているところにかなり直接に関わっているこの入札制度の問題にご理解を是非ともいただきたい。

 

/ 組合員の働き甲斐と社会的正義   /橋本(弘樹)    

 最後にもう一点だけ、この間、自治労大阪では自治体改革運動ということを言ってきました。いろんな角度からの考え方ができるのですが、組合員の目から見たら労働条件も大事だけれども、一人一人の組合員の生き甲斐、働き甲斐も大事じゃないか。多くの組合員さんが自分の職場における生き甲斐、働き甲斐を持って働き続けられる、そういうことは大事ではないか。そのことは仕事の中身とも関わっているのではないですか。この間いくつか提起をしていますが、いわゆる人事を巡る政策とも関わっているのではないですかと申し上げてきました。やっぱり役所がやっている仕事の一環としての入札制度がある、委託契約というような問題がある、それが社会的正義に適合していない、先ほどから言われているような悪徳企業を奨励するような、そういう仕事はやっぱりやっていってはいけない。それは組合員の生き甲斐、働き甲斐という観点からもいけないのではないか、それではもたないのではないかと。そこに組合員の目線が届くような運動を自治労としては提起をしていかなければならないのではないか、そういうことをお願いしたいと思います。

 

末田

 今の入札制度に問題があって政策入札という方向で取り組んでいかなければならないということは良くわかったと思いますので、今後取り組んでいく決意を自治労大阪府職・大橋委員長の方から一言述べていただいて、このパネルディスカッションの締めの言葉にしたいと思います。

 

 労働法遵守の点検を ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

大橋

 どうもパネラーのみなさん、ありがとうございました。また、全港湾の青木書記長さんと橋本労働支部長、ありがとうございました。

 肝心なこととして、直営堅持ということがあるのかなと思います。私は税職場出身で、今から30数年前に府税事務所に配属をされました。当時の状況を見た場合、運転手さんがおられたり、清掃員の方が二人おられたり、これは正職でおられたのですが、いつの間にかおられなくなった。

 大阪府そのものが財政難ということで今日の新聞で報道され、私もその内容について行革室から説明を受けました。貸付金を返す部分もあるのですが、やはり民間委託ということもかなり言われています。しかも大阪府のエリアだけではなく、外郭団体で府が雇用している職員を非常勤化していくことも考えているようです。新聞を見られた方はご存じの通り16億円しか浮いてこない。銀行税96億円だから、まだ80億円足りない極めて厳しい状況の下にあるわけです。自分たちの職場を守っていくと、直営堅持ということが特に重要かと思っています。

 その中での現実を見た場合、今現在の府税事務所では清掃関係も下請けに入っています。本部書記局のある職員会館の清掃や守衛さんは互助会が民間委託しているということで、実際に年輩の方が、朝早くから一生懸命仕事をされています。70歳前ぐらいの方々が近くにおられるわけです。

 今日のお話では、公正労働基準についてなどいろいろと議論がありましたが、最低賃金に対しての社会保険料とか、或いは労災保険について加味したらどうなるのかという点について考えるべきであると認識を持ちました。労基法、或いは労働安全衛生法、いわゆる労働関係法がほんとに守られているのかどうかついても点検をしていかなければならないだろう。大阪府が入札をする場合については、そのことも条件に加えていくような取り組みをしていかなければいけない。

 今後の問題としては、生活賃金ということも含めて考えていくべきではないかということでした。障害者雇用や環境問題、さらには男女共同参画社会を目指す意味で男女雇用の問題、そういったことも一定仕様に含めていけるような取り組みをしていかなければならない。そうしたことを新たに感じたところです。

 大阪府当局としても新しい制度をどう作っていくのかということを検討している最中であり、本日出された意見をふまえて、一つのスタート台として引き続いて頑張っていきたいと思っています。そのことを申し上げて、まとめになったかどうかわかりませんが、私の感想ということで、よろしくお願いしたいと思います。

 

末田

 それではまだまだ議論をしなければならないはずですが、時間が来ましたのでパネルディスカッションを終わりたいと思います。

 最後にお忙しい中、今日の問題提起をしていただきました3人のパネラーの方と青木書記長に、感謝の意を込めて拍手をもう一度、大きな拍手をお願いします。ありがとうございました。参加のみなさんもご苦労様でした。

 総合司会の後藤書記長にマイクをお返しします。

 

後藤

 どうも本日は長時間ありがとうございました。ほんとうに3人のパネラーのみなさん、ありがとうございました。

 我々も明日からまた、政策入札を考えて当局に対して要求すべきことを要求し、やっていきたいと思います。今後とも自治労府職の運動をみなさんの支えでよろしくお願いしたいと思います。

 どうも本日はありがとうございました。

 

  (小見出し及び注は、編集者の責任で付けました)