【代表レポート】
1. はじめに 中央集権から地方分権へ。公正な社会と自治の確立のためには国から地方へ権限と財源を移譲することが不可欠である。機関委任事務の廃止により権限の移譲は一定程度前進したといえるが、財源の移譲は進んでいない。むしろ、国の財政赤字が膨張し続けているいま、財源の移譲はできないという声も大きくなっているのではないだろうか。 国も自治体もかつてない財政赤字に苦しんでいるのはまぎれもない事実である。日本ではこれまで、いわゆる「増税なき財政再建」路線が進められてきた。景気対策の名の下、積み重なったのが今の財政赤字である。ここに来て財政構造改革は待ったなしとの命題によるものか、消費税の増税もやむなし、所得税の課税ベースも控除見直しで拡大、との考えも台頭してきている。その一方で、法人課税については、景気浮揚効果を狙ってか、国際競争力をつけるため実効税率の引き下げが引き続きいわれている。 本稿では、不況下に求められる税制改革とは何か、地方への税源移譲の必要性、自立した地方の財政等について考察を試みたい。 2. 消費税増税は疑問、所得課税の課税ベースの拡大を この間、日本は所得税や法人税といった所得課税については減税を繰り返してきた。また、将来的に消費税を増税し、基礎年金の原資にという考えも出されるようになり、消費税増税が今後避けられないということを正当化する勢力も財務省サイドを中心に存在する。しかし、デフレスパイラルの現在、消費税率をもし引き上げれば不況はより一層深刻化するのは誰もが容易に想像できる。ということは、不況下の今は消費税の引き上げを行うことは見送るべきである。また、景気浮揚を狙った所得税や法人税の減税もこの間の状況でも明らかなように、その効果は期待できない。むしろ、好景気に転じた際には、消費課税よりも所得課税のほうが所得弾力性が高いため、自然増収が期待できる。また、所得課税の課税ベースを広げることで、わずかな税率操作で大きな増収効果が得られるようにもなり、増税による重税感も消費税よりは緩やかである。 3. 地方への税源移譲 地方への税源移譲の方法については、地方所得税の創設と地方消費税の充実が望ましいと考える。どちらも目新しい議論ではないが、基幹的な税目の移譲でなければ、その効果はないことから、これらの方向性を追求することが望ましい。 まず、地方所得税については、前述のとおり、課税ベースを拡大する必要がある。そもそも日本の所得課税の負担率は国際的にも低く、その理由は控除制度と優遇措置が数多く盛り込まれていることによる。抜け道のない公平な税制度には課税ベースを広げることが有効なのはいうまでもない。ただし、ここでは気を付けなければならないことがあって、日本の場合、税制でもって社会保障制度を補ってきたという点である。たとえば、扶養している子どもに対して児童手当の給付の代わりに扶養控除をみとめてきたように、闇雲に控除制度を廃止することには問題がある。税制上の控除に代わる社会保障の制度は、国にさせるのではなく、自治体による公共サービスで実現することを求めていきたい。税制上の控除や優遇措置は、所得が低いあるいは所得がマイナスの世帯を切り捨ててきた制度なわけで、それを是正する意味においても地方所得税(所得税の最低税率部分の地方税化)を創設し、分権型公共サービスの財政的な裏付けとするのである。 地方消費税の充実については、現行の消費税の欠陥の解消が不可欠である。益税の解消にむけ、政府は2003年度税制改正において免税特例の廃止の検討を始めており、あわせて、簡易課税制度の見直しも求めていかなければならない。その上で、消費税4%・地方消費税1%の現行比率を見直し、地方消費税のウエイトを高めていき、これについても分権型公共サービスの財政的な裏付けにしていくことが望ましい。 4. 自立した地方の財政を 2000年2月、東京都は大手銀行を対象とする法人事業税の外形課税案を提起した。以降、この提案は都議会においても圧倒的な支持を受け、条例案は可決した。石原知事のセンセーショナルな会見はマスコミにおいても大きく取り上げられ、その後は、他の自治体においても地方税・とりわけ新税ブームとも言うべき状況を生み出すきっかけとなった。 そもそも事業税は、事業という収益活動を行っている事実に着目して、そこに担税力を見出して課税する「応益課税」である。すなわち企業が事業を行うということは様々な公共サービスを利用し便益を受けているとの考えが根底にある。このことはその赤字であるかどうかを問わない。しかし、現行の地方税法は、電気供給業、ガス供給業、保険業にあっては収入金額を課税標準としているものの、これ以外の業種はすべて所得に対して課税することとなっており、沿革とは違う「応能課税」が実態的にはされている。 ところが、本年3月、東京都の銀行税に関する裁判の第一審判決が出され、結果は原告銀行側の勝訴であった。東京地裁の判決では、法人事業税は所得に対して課税がされる「応能課税」であるとして、東京都の課税には重大な誤りがあるとしている。我々は租税法や財政学の専門家ではないが、事業税が応能課税であるという今回の判決理由については納得できない。東京地裁の判決理由に従えば、今後、地方税法第72条の19に規定されている「条例により、資本金額、売上金額、社屋の床面積もしくは価格、土地の地積もしくは価格、従業員数などを課税標準とし、又は所得と合わせ用いることができる」とされている内容は一体どうなるのか。どのような場合に所得以外の課税標準が用いられるのかが皆目わからない。今後の課税自主権を行使した地方税制を考える上で、ひとつの基準を東京地裁は示すことはできなかったのだろうか。控訴審においてはこうした視点での判決が出されることを期待する。 東京都は、市町村税でも、道府県税でも住民一人当たりの税収は全国1位である。しかし、東京都でも税収の落ち込みは相当激しい。他県にはない東京都の税収源はいわゆる金融業が多く集中していることであり、現在、公的資金注入で何とか生き延びている金融機関から多くの税収が見込めないことは都にとって深刻な問題であっただろうと想像される。また、国が1998年に日銀法を改正して地方税を削減し国庫納付金を増大させたことも都にとって大きな打撃である。これまでは日本銀行から国庫納付金を納めた後、残りの利益に対して日銀の本支店がある自治体が課税を行っていたのが、いまでは利益の全額が国庫納付金とされている。こうした現状は、まさに自立した地方の財政がこの国に存在しないことを証明している。銀行税の是非は別としても、国の都合で左右されない独立した税源、その一つの形が法人事業税の外形標準化である。 5. 住基ネットと納税者番号制度 2002年8月、「住基ネット」が稼動した。様々な批判が連日マスコミでも報道されており、個人情報保護が十分でないことは大きな問題であり、理解する。ただ、ここでは私たち税務職場で働く者の観点からはそれとは別の思いも持っていることを報告したい。それは納税者番号制度の導入の問題である。 納税者番号(以下「納番」)への利用は現時点では否定されているが、多くの方から、納番に転用される恐れがあるとの批判がある。しかし私たちは、「納番」に使われなければ年間に何百億円もかかるというコストからも意味がないのではと考える。転用される恐れではなく、連動すべきではないかと。従来「納番」についてはグリーンカード導入問題から様々な論議がなされてきた。最終的な論点はいつも、「納番」の必要は一応認めながら、@プライバシー侵害の恐れがある、A国民総背番号制に道を開くものとして反対され、「納番」導入に向けた具体的作業はなされなかった。 「納番」の必要性は言うまでもなく、税を取りまく最大の課題である所得把握の不公平の是正である。「納番」導入は税収を押し上げるだろうし、滞納整理にも非常に有効な制度となる。あわせて消費税でインボイスを導入し、脱税事件等での公開も認めるとしたら、財政・経済の領域のみならず、政治・社会をも公正にしていく大きな可能性を秘めた制度となるのではないだろうか。「納番」が導入され、企業・事業者等の正確な納税必要額が明らかとなった時点での給与所得者の反応は想像に難くない。かつて、グリーンカード問題においてプライバシーの侵害を招くとして、導入反対派の急先鋒をつとめた自民党の金丸信元副総裁が晩年巨額脱税事件で逮捕され、不正な蓄財の証しである巨額のワリシンや金の延べ棒が押収されたことを思い出していただきたい。 繰り返すが、私たちは個人情報保護の重要性を十分認識している。いささか逆説的であるかもしれないが、不公平税制の是正のため納税者番号制度利用を認めることは、全国どこでも住民票交付が受けられるなどといったさして重要でない利用方法とは異なり、むしろより個人情報保護問題を重要視させることに繋がるのではないか。それゆえ、実効性のある本気の個人情報保護対策を行わせるためにも、納税者番号制度導入にむけた本格的な論議をしていきたいと考えている。 6. むすびにかえて 地方分権の目的は地方分権推進法第一条にあるとおり、国民がゆとりと豊かさを実感できる社会の実現にある。いま全国の自治体では、法定外目的税等の創設にむけた検討が進められており、税に関する注目度は非常に高まっていると思う。自治の主体者である住民がゆとりと豊かさを実感できるような社会作りに私たちも努力したい。 最後に、本稿で述べた課題以外にも税制に関する課題はいくつも存在する。それゆえ、あれもこれも書きたいという思いで書き始めたわけだが、まとまりのない稚拙なレポートとなったことをお許しいただきたい。 |