目に見えない放射能
臨界事故発生から10日余りの10月12日、東海村へ自治労調査団の一員として行ってきました。目的は防災対策のどこに問題があったかヒアリングをするためでした。東海村役場に着いて最初に目に付いたのは、核兵器廃絶宣言の看板です。他の所でよく見かけるものと違って原子力平和利用推進宣言と2行書きになっていました。さすが原子力のメッカ東海村です。役場ロビーでは放射能測定コーナーが設けられ、相談などが行われていました。
ヒアリング後、JCOの工場を外から見て塀ぎわのヨモギを採取しました。放射能分析の結果、放射性ヨウ素が8・8ベクレル/キログラム検出されました。
私たちが行ったその前日までJCOが換気扇を止めずに放射能を垂れ流し続けていたことを、帰りの新幹線車中の電光ニュースで知りました。まさに放射能が五感に感じられないことを身をもって体験したといえます。
今回の事故で核分裂したウランの量は約0・7ミリグラムで、原発などに比べて桁違いに小さく、飛び散った放射能も短寿命のものがほとんどでしたから現在は問題ありません。原発の事故であれば、汚染地帯の封鎖などが半永久的に続くことになりますが、今回そうならなかったのは不幸中の幸いです。
葬り去られる? 職員の被曝
約350メートル範囲の住民避難が決定され、村職員は圏内の家々を直接訪問して避難要請を行い、誘導にあたりました。中性子線が飛び交う屋外で2時間以上作業にあたった職員もいたそうです。中性子線は透過力が強いため、防護服を着ても被曝を防ぐことができませんが、この時の職員の服装は全くの平服で、マスクも放射線測定器も付けずに作業しました。
さらにJCOで臨界を止めるために決死隊が水抜き作業を行うことが決まり、JCOに村役場から防護服を貸し出すことになりました。村職員3人が防護服を届けに行くことになったのですが、この時も平服で行くよう命じられているのです。せめて線量計を持っていきたいという職員に対し、その必要はないと上司が答えたと言います。
政府の公式の被曝者数に東海村職員は1人もカウントされていません。
自治労は、これらの作業にあたった職員の健康管理を当局に要求しています。
防災業務従事者の被曝基準
そもそも防災業務に従事する職員の被曝基準はこれまで定められていませんでした。皮肉なことに事故直前の9月13日に原子力安全委員会が防災計画策定の目安とされる防災指針を改訂し、緊急時の被曝基準を50ミリシーベルト、人命救助などやむを得ない場合は、100ミリシーベルトとする基準設定を行ったばかりでした。
ちなみに、大阪府の原子力防災計画にはこの基準はまだ取りいれられていませんから、青天井での被曝も許される? いえいえ、例え基準が設定されたとしても、東海村の例のように放射線を計る線量計を付けていなければ、いくら浴びたか分からず、基準など絵に描いた餅です。基準近くまで被曝した段階で鳴る線量計アラームで作業を打ち切らないと基準は守れません。
また、50とか100とかの基準値自体が高すぎるという問題もあります。この値は、原子力の職業人の事故時の基準と同じで、直接原子力から恩恵を得ているわけではないにの「なぜ」という思いがぬぐえません。一般人の場合は、年間の被曝基準が1ミリシーベルトですから、その100倍も一度に被曝していいのかという疑問です。
昨春の改訂で、大阪府の原子力防災計画に職員の参集基準が盛り込まれています。あの日の東海村の職員は明日の私たちかもしれません。
熊取でも事故は起こる
臨界事故後、同じ核燃料工場ということで、熊取町にある原子燃料工業(株)に注目が集まりました。東海村を訪問した翌日の10月13日、内部を見せてもらいました。科学技術庁の検査の直後で、真新しい貼り紙が各設備ごとにしてあり、臨界管理量が表示してありました。
工場に事故が起きて職員が待避した場合にモニターできるテレビカメラはあるのかと聞くと、「ない」との返事で、いったい何を科学技術庁は検査していたのかとあきれてしまう答えばかりが返ってきました。
ウランは一定の形状に一定量以上が集まると臨界に達するので、「形状管理」といって施設内のすべての容器の形を制限しておくことが基本です。たとえば容器を小さくするとか、細長くすれば一定量以上のウランは集まりません。JCO事故は施設の「形状管理」ができていなかったことが原因で、安全審査にあたった科学技術庁や原子力安全委員会に責任があります。
熊取の工場で「形状管理」ができているのか科学技術庁は確かめたのでしょうか。私たちを案内してくれた工場の人は「このとおり自動化されたラインで……」と説明を先に進めようとしたので「ラインの手前を見せて」と要求しました。原料のウラン粉末をラインに供給するところは、グローブボックスの中で、二重のドラム罐からウランを人手で取り出す作業があるのです。取り出されたウランを入れる粉末混合機は、内容量が1500リットルもあり、「形状管理」ができていないことが後日、明らかになりました。通常は重量センサーで管理しているそうですが、故障すれば核的制限値1130キロを超えて5300キロも入るそうです。
さらに、この粉末混合機が水没するという最悪の条件ではわずか150キロで臨界に達するそうです。工場長は「水が一番恐い」としながらも、粉末混合機周辺に水源がないのでこのような最悪のケースは起こらないと説明しています。そこで、私は確認しました。「火事が起きた場合、この粉末混合機のエリアは水で消火してはいけないエリアに指定しているか」答えはノーでした。
詳しい内容が知りたい方は、原子力防災の問題などhttp://village.infoweb.ne.jp/〜ksueda/に展開中。
【末田 一秀】